第1話 殺人カリキュラム⑩
「好きにすれば?」
花子は攻撃的に言うと、壇上へとひとっ飛びで戻った。両足にジェネシスを纏っていたのを、俺は見逃さなかった。あれが、身体能力強化か。
リリーは「やった!」と言うと、「キルキルキルル♪」と唱え、ジェネシスを剣にすると、山中の方へ勢いよく駆け出し、両目を切り裂く。速い。たった3秒で20メートルを詰めた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああッッッ!」
「ん~、イイ悲鳴。はぁぁ、気持ちいいなぁ……感じちゃうよ」
リリーは気持ちよさそうにうっとりと呟くと、山中の両腕もそのまま切り裂き、落とした。
「あdsvjかfぁmlま:lmふぁ」
もはや人間の言葉すら話せていない山中の首を右手で握り、そのまま壇上の方へ放り投げる。 片手で。
「ちっ、きたねえもん投げんじゃねえよ糞ビッチが」
そう言って黒いタンクトップを着た入れ墨強面の男が、山中を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた山中は、壁の方へと思い切りダイブして、泡を吹いて絶命。顔面が足の形に陥没していた。
「ん、ナイスシュート、ヒコ助くん。さーて、と。骸骨くん、次はあれいこっか? オリエンテーション。骸骨君とオナヒコ君と私のギャラクシーで頑張って作ってたヤツ。名付けて『渡辺先生から、安藤くんへ愛を込めて!』」
「オッケー」
そうリリーが言うと、黒縁メガネのやせ形の男が、リモコンを押す。すると、壇上にスクリーンが降りてくる。
『た、助け、助けてくれぇぇ、頼む、頼むよぅぅ、お願いだぁぁ、助け、助けてくれぇぇ』
突如、スクリーンから大音声の声。男の涙混じりの、死の叫びに脳内を犯される感触。
『な、何でもする! 金なら全額、引き落として払う! 命、命だけはぁぁ!』
渡辺教員が全裸で椅子に鎮座し、鼻水を垂れ流しながらカメラに向かって懇願している。頭部には電極が飛び出した白いヘルメットが被られており、まるでこれから死刑にされる囚人のようだった。
『ケケケケ、ケケケケケケ……リリーちゃんの気持ち、少し分かるかもねぇ。これは確かに、クセなりそうだわァァ、ぐひ、ケケケ』
『骸骨、テメェ死姦だけじゃなくて殺人癖にも目覚めたってか? キメェんだよ』
別の、二人の男の声が、響く。画面には渡辺教員しか映っていないので、カメラの手前に奴等はいるのだろう。
『オナヒコ君さぁ、撮影中にチ×コ出すのやめな? この部屋、俺と君と渡辺テンテーしかいないからね? つまり男しかいない密室で君はおっぱじめるつもりかい? 流石に俺もイカ臭い空間で死体鑑賞するのは趣味じゃないからね? うん?』
『駄目だ、もう我慢できねぇ……イ、イくッッッ』
『うわぁ、どん引きだわ。君俺のこと変態変態言うけどさぁ、君も相当だからね? うん、マジで。てかイカくせぇ』
『あ、あああ、あああああああああああッッッ』
突如、再び渡辺の悲鳴。ビリビリ、と火花が渡辺のヘルメットから散り張る。白目を剥き、ビクンとはねながら舌とよだれを垂れ流す渡辺。失禁し、床に黄色い水たまりが出来る。
『ああ、ごめんごめん。出力数間違えたわ。ちょっと電圧高すぎたね。いきなり壊れちゃ、つまらないからね。透さんからはさ、生徒に向けてのインタビューを収録するようお願いされてるからさ、まだ死なないでね。頼むよ? よし、それじゃあ収録いってみよ~~。リリーちゃんから借りたギャラクシーにお兄さんが誕生日動画みたく優しく記録してあげるからね。といっても、実際に録ってるのは命日動画だけどネ。ほら、誰か、ほら、いない? 特定の生徒にメッセージとかさ。この動画はあなたの愛する生徒達に見せてあげる予定だよ。なんならセクハラとかでもいいんじゃない? 実際、たまってるでしょ? 未成年の女の子の体臭に欲情とかしちゃう感じでしょ? 俺なんかは若い女の死体にしか勃たないけど、あなたみたいな人は思春期の女の子とヤりたくって仕方ないんじゃ無い? そういう熱いリビドーや心の叫びを言って貰えると、俺としても撮影しがいがあるんだけどー。どうせあなたが死ぬっつーか、俺たちに殺されることは確定なんだしさ、この際思いの丈を全部ぶちまけちゃえば? その方がきっと愉しい。どうせ死ぬなら、愉しく死のうヨ?』
『お前、喋り過ぎだ萎える。少し黙れ』
『……オナヒコ君のチ×コさんを盛り上げる為の企画じゃないからね、これ? 君も一応透さんから動画のクオリティアップの仕事任されてるよね? うん?』
『そういうのは苦手だ』
『仕事は苦手とか通じないから~~。どんな無茶ぶりもパーフェクトな笑顔で対応するのが現代社会の基本だから~~。どんなゴミ上司でもブチ殺さずにグッとこらえるのがお仕事ってもんだからね? ま、これは俺の会社の話であって、透さんは違うけどね。透さんは凄い。まさか俺が本心から尊敬する人間が出てくるとは思わなかったな~~。世の中広いねぇ』
『……ちっ。おい、渡辺とか言ったな。お前、生きたいよな? 助けてやるよ』
『お? おお? それは一体どういう――――』