表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
135/357

第7話 狂女と聖女 ~revenge~ ⑩【白雪セリカ視点】

 《拷問遊戯》――ゴウモンユウギ――

「ムカデ、蛾、カマキリ、蜂、ミミズ、蜘蛛、ハエ、ゴキブリ、蛆虫、芋虫!」

 リリーが指定した虫が具現化し、。幾千もの虫の軍勢がリリーの足元で蠢く。

 《快楽器官》――カイラクキカン――

 リリーの《快楽器官》の槍が左手に具現化したあと、爆発し、その残骸が虫の軍勢に降りかかる。すると虫の軍勢は狂ったように歓喜に暴れ出す。

 リリーは不気味なほどの笑顔だ。あまりにも悪意に満ち溢れたその笑みは見ているだけで吐き気すら覚える。

「な、にを……しているの?」

「ふふ、あんまりシロウトに拷問をお披露目する機会ってないからね。特別に教えてあげる。まずセリカちゃんに訊くけど、スカフィズムって知ってる? 知らないよねどうせ」

「……聞いたことない」

「さっすが清廉潔白な女の子だねェェ。スカフィズムというのは、俗にいう虫責めという拷問の一種でね。人間に甘~~いハチミツやらミルクやらを混ぜたエキスを飲ませて、そのエキスを体中にも塗るのさ。それをねェェ、生きたまま虫に食べさせてェェ、身体の外側からも内側からも生きている状態のまま虫に食われ続けるという壮絶な体験をさせて、何日も何日も生かされ続けてすぐに死ぬこともできず悶え悶え悶え悶え! 悶え悶え悶え悶え、死ぬ……。そういう拷問。それを戦闘に応用できないか試行錯誤して生まれたのが、私の最終奥義。《拷問遊戯》による虫の召喚と、《快楽器官》による虫の支配。《快楽器官》によって調教されたこの子達は、私の命令を聞くようになり、そして“人肉”を欲するようになる。まぁ……ここまで言えば……ワカルヨネ? エヘエヘ、エヘヘヘ」

「…………」

 思わず、息を呑んでしまう。こいつ、まだそんな手を隠し持っていたのか……。

「私に”愛”は無いから人間への生命干渉はできないけどさぁ、人間以外の生物を生み出すことは私のジェネシスでもできるっぽいんだよねェェ? ジェネシスにとっての生命の定義はどうやら人間限定っぽい。クク、つくづくジェネシスっての人間をぶっ壊す為の力だと思うよ……。虫に生きたまま食われまくって発狂して死ぬってのもオツな死に方じゃないかなァァ? ねェェ?」

「くっ……」

 気持ち悪い。吐き気がする。虫はただでさえ苦手なのに……。

「ずっと君を観察していたけど、《白雪之剣》には弱点がある。個々の無効化には強いけど、集合体の無効化には弱い。この子達一匹一匹を無効化することはできても、軍勢で攻められたら無効化できないんじゃないかっていう発想」

「…………」

 悔しいけれど、当たりだ。《白雪之剣》には弱点がある。それはSSまでの凶器化に対してすり抜けてしまうこと以外に、リリーが今言ったことがそのまま当てはまる。

 個の攻撃ではなく集合体での攻撃をされれば、一つずつしか無効化できない《白雪之剣》は無力だ。

「ヒヒ、ヒヒヒヒ……。おいでよ、セリカちゃん。次で終わらせたげるゥゥ」

「本当に、本当に外道だね! あなたは!」

「行け! 虫の軍勢! エサの時間でちゅよォォォォオオオオ!」

 リリーの号令と同時。

 カサカサカサカサ!

 あらゆる虫の軍勢が私めがけて狂ったように突進してくる。

 天井、床、壁が虫の色で染まる。羽音と這う虫の音で血の気が引きそうになる。私を食う為に突進してくる虫の軍勢に、身も心も震えそうになる。

 なりふり構ってられない!

 長期戦は睡魔があるから無理だし、もとよりこの虫の軍勢相手に長く戦える気がしない!

 ――――この一撃で決める。

 もしこの一撃が駄目だったら?

 一瞬の嫌な想像を首を振って振り払う。

 正義だの善だの悪だの、どうでもいい!

 そんなことを考えられるのは余裕な証拠。

 無い。目の前の破滅を見れば全ての真理は吹き飛ぶ。

「生きる。何としても……」

 思わず口走っていた。それは生への本能か。

 いや違う。死を恐れているのではない。

 死よりも恐ろしいことなど腐るほどある!

 今の目の前の光景がまさにそうだ。

 一度死んだあの時、結とアンリを失い、殺されたあの瞬間に恐怖など置いてきたと思っていた。でも、それでも、恐怖は消えずに、ちゃんとある。ここにある。

 だから!

 何としても勝つ!

 正義なんてどうでもいい!

 目の前の破滅。これだけは回避しなければならない! 絶対に!

 殺す。生きるために、殺す!


「でもそれって悪なんじゃない?」


 小さな私が、ポツリと呟いた。

 一瞬の逡巡を振り払い、私は全身全霊でジェネシスを身体から発露させる。

 《明鏡止水》――メイキョウシスイ――

 《天衣無縫》――テンイムホウ――

 停滞する時間。殺意と殺意が交差するにはあまりにも穏やかで静謐な時の流れ。虫の軍勢の突進は、突如としてノロノロとした歩行へと変わる。

「ハァァアアアア!」

 全力で右足で床を蹴り飛ばす!

 虫の軍勢に突っ込み、すり抜ける。

 リリーの奥義が《拷問遊戯》と《快楽器官》を組み合わせたスカフィズムなら、私の奥義は《明鏡止水》と《天衣無縫》を組み合わせた絶対的な防御と回避を兼ね備えたこの瞬間そのものだ。そしてこの攻撃には続きがある。

《白雪之剣》の弱点を克服する異能、《色即是空》。

《色即是空》はありとあらゆるモノから3秒間だけ《白雪之剣》をすり抜けさせなくする異能力。これを使えば、Fランクでもジェノサイダーを斬ることができる。相手の凶器だけすり抜けた後に発動すれば必中。必殺の一撃となる。

 虫の軍勢をすり抜け、リリーの間合いに入る。リリーは驚愕に目を見開いて私を見ているが、スローモーションなので私の速度には追い付けない。


「――――先輩、私に、勇気を」


 祈るように呟く。

 これから、人を殺す。

 いくら外道といえど、リリーにも人の心が無いわけではない。

 リリーは気付いていないけれど、透のことを語る時だけ、こいつは少女のような顔をする。

 でも、それでも、私はこいつを殺す。

 ――――生きるために。

 正義の為の殺人など、それこそ究極の偽善なのだと今この瞬間初めて気付く。

 人が正義を語るとき。それは自らに絶対的な平和と身の安全が確約された場所でだけだ。

 死と破滅と悪意だけが蔓延る死地で、正義を語る者はいない。

「あああ……。壊れそうだ……」

 頭がクラクラする。

 この世には……悪しかない。

 それなら……。それなら……?

 今、私は何を想おうとした?

 答えは出ないまま――――


 《色即是空》――シキソクゼクウ――


 ――――私はリリーを斬り殺した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ