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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第7話 狂女と聖女 ~revenge~ ⑧【白雪セリカ視点】

 激しい金属音とともに、リリーを覆い尽くしていた《聖女革命》は消滅する。

 《聖女革命》は鎖を具現化して相手を拘束する異能力。《監禁傀儡》と似ていて、発動時間は原則として五秒間程度。でも、全ての思念を《聖女革命》だけに集中すれば何秒でも具現化できる。相手の反撃を食らったり、一瞬でも別のことに意識を向ければ消滅する。とどめを刺す時に使える異能だけど、こっちに少しでも隙があれば消えてしまうから万能ではない。

《監禁傀儡》との違いとしては相手への命令権が無いことと、一度に大量の鎖を具現化できること。

リリーは忌々し気に私を睨みながら、剣を構える。

「Fランク……なんでこんなに強い? 通常ジェネシスは人殺しの為の力。悪意や背徳心、殺意、殺人衝動に直結しているのに。それに、スノーホワイトなんて色はジェネシスに存在しない。なんで……“存在しない筈の色”がある?」

「透さんの話と……少し違うな」

「考えられる可能性は……透さんが知らないジェネシスがある。もしくは……ジェネシスが変質した? “途中から”変わった? もしそうだとしたら要因は何? あ~~分からない! いばら姫ちゃんに会いたいなぁぁ! 仮説を何個も用意してくれそうなのになぁぁ!」

 がりがりと頭を搔きむしるリリー。目はわずかに血走っており狂気が迸っているのを感じる。

「おい、リリー。今は考えてる時間はねぇ。目の前の人間を肉に変えることだけを考えろ」

「ちっ、あ~~~~ウゼェなぁ。なんでSSSですらない雑魚どもにここまで追い詰められなきゃいけない!? 花子がいばら姫の温存ケチらなきゃもっと楽できたのにさァァ。あのガキ透さんのオキニだからっていつも調子乗りやがってなァァアアア!」

「地が出てるぞ、クソビッチ」

《快楽器官》――カイラクキカン――

「変態、サソリィィィ。全身ポル×オに変えて延々に終わらないオーガズムで発狂させてやるゥゥ。イキたいのにイケない地獄のような快楽がなす発狂! ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒ! アヘ顔さらして死ね死ね死ねェェ! ゴミゴミごみごみ!」

「お前ら知らねえぞ……。リリーをキレさせるとどうなるのか」

 リリーが左手に呼び出した手の形をした槍、《快楽器官》の形が変わる。槍から、鎧へと。それはヒコ助を覆う《鎧袖一触》と少し似ているけど、リリーの鎧からは尻尾が生えており、その尻尾にはいくつもの血走った眼球が飛び出すようにギョロギョロと蠢いていた。尻尾の射程範囲は目算2メートル強。中距離に特化した戦闘形態に見える……けど……。きもちわるい。

「赤染先輩、あれがSSランクです。あれぐらい振り切らないと駄目なんですよ」

 結が無感動な目でリリーを指さし、赤染先輩にSSの領域に至る方法を指南している。

「流石に“あれ”になりたくはないなぁ」

「……赤染先輩にもまだ人としての心が残ってたんですね」

「アンタねぇ、マジで失礼だから。私、人だから」

「人は殺人鬼のことを殺したいとは思わないんですよ……」

「るっさいわねぇ。ブラコンのくせに」

「二人ともうるさい。集中して」

《気配察知》――ケハイサッチ――

 殺気が来る前に辛うじて《気配察知》で感知し、私は二人の手を掴んで全力で後ろへ飛ぶ。

 何かが来る!

「……良い目をしやがるようになったな、ホワイト女。透さん並の風格出てんぞ? 敬意を表して、全力で殺してやる。受けてみろ」

 《殴殺連打》――オウサツレンダ――

 猛烈な殺気とともに、一瞬で私たちの間合いにヒコ助が現れ、拳の嵐が吹き溢れる。残像すら残す大量の殴打は、後ろへ飛んだというのに追いついてきて、目で追うことすら敵わ――――

「くっ!」

 《鎧袖一触》を身に纏った結が両腕をクロスして、ヒコ助の拳を受ける。鎧を身に纏っているとはいえ、相手は格上。楽観視はできない!

 《聖女抱擁》――セイジョホウヨウ――

 結を回復させながら、左手で赤染先輩を突き飛ばす。

 赤染先輩がいた場所にサソリの尻尾が槍のように貫通するも、間一髪で回避成功。

「避けてんじゃねえよ! 死ねよ!」

 リリーが目を血走らせながら叫ぶ。

 今のはなんとかなったけど、この攻防が長時間続くのはマズイ!

 二人を守りながら戦うことは現実的じゃない! こいつら強すぎる! 花子が二人いると思えるほどの強さ!

 今の私一人でも、この化け物二人を殺すことは無理だ! しかも二人を守りながら?できるわけがない! 諦める。できないことはすぐに見切りをつけないと取り返しがつかない!

「くっ、持久戦じゃ守り切れない。二人とも、分断する。私はリリーを。二人はヒコ助を殺して。できるできないとか言い訳はいいから、やって! SSにでも何にでもなっていいから!」

 《聖域結界》――セイイキケッカイ――

 私の足元から白い光が魔法陣のように広がり、魔法陣の上にいたヒコ助、アンリ、結は消滅する。存在が消滅したのではなく、どこか近い場所に強制的に瞬間移動した。移動先の場所の指定はできないから、移動の役には立たない。

 けど、一対一で邪魔が入らない戦いをするにはうってつけの能力だ。

 《聖域結界》の範囲は半径約50メートル。私が意識で念じた相手はここから出ることはできないし、逆に念じてない相手は入ってこられない。そして私が念じた相手以外のジェネシスも無効化される。それはつまり、遠距離からの援護も遮断できるということ。

 相手を閉じ込めるという意味で言えば、リリーの《発狂密室》と似ているかもしれない。

「……三人が消えた?」

 リリーは剣を結界の外に投擲しようとして、はじかれたことを確認する。一瞬でこの異能の本質を見破ったらしい。異能が似ているから、か。

「毎度毎度、私をイライラさせる天才だね君は! 異能を二回もパクりやがって……」

「あなたはここで殺します。もっと早く、そう決めているべきでした」

 私は弱かった……。あまりにも弱すぎた。だから失った。弱い人間は失うことしかできない。

「内臓引きずり出して生きたままヒキガエル君に食わせよう。そうしよう」

「黙れ!」

「っ」

「いい加減にしなさい! どうしてそう残酷なことばかり考える。言える。実行できる。あなたには人の心が……無いの?」

「…………うるさいな。お前には分からないよ。ドブみたいな場所で生きてきた人間の気持ちなんてなぁ。透さんは私を救ってくれたんだよ。誰も私を助けてくれなかったけど、透さんだけは私を救ってくれたんだ。この世はあまりにもクソ過ぎた。人間なんてどうせゴミなんだしみんな殺していいんだよ。自分のことしか考えないクソ利己主義者しかいない世界なら、自分のためだけに生きる悪も必然として許される。そう教えてくれたのは透さんだ。さっき赤染ちゃんも言ってたじゃん? 自分の悪を肯定した人間には他人の悪を肯定する義務があるって。私たち“《赤い羊》にとっての悪”は、この世界に生きる人間全てなんだよ。ロジックで言うのであれば、“この世界が悪”だから、“

私達の悪を認める義務”がある。透さんは、透さんはなぁ、この世界そのものを変革することを目標として定め、弱者だった私に力を与えてくれた神様のような人なんだよ……」

 悪人にとっての悪。それを理解することは深淵に足を踏み入れることに他ならない。

「透……。透に対してだけは、あなたは人間なんだね」

 究極の命題。悪人に善性はあるのか?

 答えは――――

「あなたは……ここで殺す」

「やれるもんならやってみろよ小娘ェェエエ!」

 紫色の悪魔はジェネシスを身に纏い、殺意を迸らせながら私へと突っ込んでくる。

 私は《白雪之剣》を構える。

「……先輩、私に、勇気を」


 ――――血まみれの正義に、勇気を。


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