第1話 殺人カリキュラム⑨
「さて、他に質問は?」
花子が赤染に問いかける。赤染は僅かに押し黙ると、再び唇を開く。
「ここを出た後はどうなるのですか? 私達は殺人者になるわけですが」
「さあ? 法的にどうなるかは世間と法廷が決めてくれるでしょう。強要罪と少年法の範囲で、ね。どちらにせよここを生きて出られなければ何の意味もない愚問ね」
「……分かりました。私からの質問は以上です」
「そう。物わかりがいいのね。さて、次はジェネシスについて説明するわ」
そう言って花子はパチンと指を鳴らす。すると、花子の右手に握られていた紫色の剣がゆっくりと消滅していく。
「さっき透が校長の首を撥ねた剣も、私が男子生徒の首を撥ねた剣も、ジェネシスと呼ばれる力によって発現する。ジェネシスとは人間の”衝動”によって具現化し、衝動が強ければ強いほどより強力なモノとなる。性欲、食欲、生存欲求、破壊衝動、憎悪、なんでもいいわ。それが強ければ強いほど、ジェネシスの力は増す。また、背徳的であればあるほどそれは顕著よ」
「…………」
誰も何も喋らない。パニックなことに変わりないが、花子の話を聞き漏らすまいと全員が傾聴姿勢に集中している。もう、思考が切り替わっているのだろう。”どうしよう”ではなく、”どうするか”へと。
「私達はジェネシスを使うことができる。ジェネシスを使う者を、私達はジェノサイダーと呼んでいる。今からお前達も、私達と同じジェノサイダーにする。そして、ジェネシスを用いて4人以上の人間を殺害しなさい」
「はい、質問です」
即座に、赤染が挙手する。
「またアンタ?」
「ジェノサイダーにする、というのはどういうことですか?」
「普通の人間をジェノサイダーにするジェネシスも存在する。その力を使い、お前達を強制的にジェノサイダーにする」
「……ジェネシスとは、人間の持つ欲求をオーラとして具現化し、凶器に変える以外の力もある、ということですか?」
「そう言ってる。ジェネシスには凶器化、異能化、形態化、身体能力強化、四つの形に分けることが出来る。凶器化は剣にしか変化できないけど、形態化は汎用性があり、個人差がある。最も個性が出るのは、異能化だけどね。と、色々言ったけど、実演するのが一番早いか」
そう言って花子は「キルキルキルル」と唱える。
「不思議なものでね、この言葉を唱えるとジェネシスは自然と剣の形へと凶器となってくれる。これが凶器化」
花子から紫色のジェネシスがあふれ出す。そして、花子は指をパチンと鳴らす。
一気にジェネシスが霧散し、花子を覆うように鎧の如く具現する。
「これが形態化。そして、次が――――」
花子は残酷な微笑を浮かべると、教師陣の方へ右手を向ける。
《鮮血時雨》――センケツシグレ――
一瞬、空間が捻れるような形で、花子の右手の部分がブレる。紫色のジェネシスが花子の右手に結集し、嘲笑うかのように教師陣へその火花を散らし、
「あ、あああ……」
36人いた教師陣が、一瞬で肉片になった。凄まじい血と臓腑のニオイが漂い、血溜まりがじんわりと広がっていく。肉片、眼球、臓物、胃液、糞尿が床に転がっている。
かろうじて数学教師の山中がうつろな目で声を上げ、困惑の表情で花子を見据えていた。殺戮のショットガンの中、運良く一人だけ生き残ってしまったらしい。
「これが、異能化。異能は個人によって違う。今から、このジェネシスをお前達に分け与える。そして、殺し合ってもらう。生きるか死ぬか。何も騒ぐことは無い。単純な話よ」
花子は一仕事終えたかのように髪を左手で払いながらそう言った。
「あら、一人生き残ってるわね。私としたことが……」
「ねーえ、はーなこちゃんっ!」
そう言って壇上に立っていた一人の女が、花子の方へ飛びつく。
「何? ウザいんだけどリリー」
「そうツレないこと言いなさんなって。ね、アレ、私にちょーだい?」
リリーと呼ばれた女は朗らかな笑顔で言い、山中を指さす。山中は「ひっ」と言い、がくがくと両足を振るわせる。そんな山中を楽しそうに見つめ、リリーは唇をそっと舐める。