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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第6話 Fランク VS SSSランク⑧【白雪セリカ視点】

 《守護聖女》――シュゴセイジョ――

 《聖女抱擁》――セイジョホウヨウ――

 右手で《守護聖女》を撃ちながら、左手で《聖女抱擁》を撃つ。

 右手は赤染先輩へ。左手は結へ。

 《時間停止》を突破する方法は、何も西園寺さんをどうにかするだけじゃない。

 二人が動けるようになれば、今度こそ西園寺さんを仕留められる。けど、これは小手調べ。この程度の策で倒せるほど、西園寺さんは甘くないだろう。どう出るか観察して、情報を集めよう。

「ふっ、やるじゃん! マザーを引っ込ませただけはあるね! セリカちゃん!」

 《無限奈落》――ムゲンナラク――

 さっきは片手だったのに、“両手”を構えて異能を使う西園寺さん。さっきの二倍の大きさのブラックホールの球体が現れ、私の二つの異能を吸収する。やはり駄目、か。

 あの異能……異能を吸い込むのか。直に触れたら即死かもしれない……。

「……けど」

 真似してみる。私も、“両手”で。盾は一旦消す。

 全ジェネシスを。ありったけの全てを、全身全霊両手に込めて、放つ!

 《守護聖女》――シュゴセイジョ――

 ――――大きい。

 さっきの三倍ほどの大きさの《守護聖女》が、私の両手から放たれ、西園寺さんへ突っ込んでいく。

「……見よう見まねでこのクオリティ? 見ただけですぐに実践できる吸収力といい、ジェネシスを使うセンスといい、ムカつくなぁFランクは。存在そのものが癇に障る」

 《無限奈落》――ムゲンナラク――

 同じく西園寺さんも両手でジェネシスを放ち相殺。

「くっ……」

 決定打が欲しい!

 《守護聖女》を撃っても常にドロー。手数では圧倒的に不利。何か、何か勝ち筋はないだろうか……っ!?

「フフッ、無いよセリカちゃん」

 不敵に西園寺さんは微笑う。

「《思考盗撮》、人格が変わっても継続中なんだね」

 けど、《堕天聖女》は撃ってこなくなった。継続して使用できる異能とできない異能があるとみるべきか、そう考えさせ油断させることこそ本命の心理誘導か。

「サイコパス並に冷静じゃん。百鬼君の影響かな?」

「先輩は、サイコパスなんかじゃない!」

「ふ~ん。ま、どうでもいいけど!」

 西園寺さんは私を真っすぐに見据えながら、一歩足を踏み出し、大きな黒の翼を生やし、狭い廊下をジグザグに滑空しながら私の方へ跳躍してくる。


 ――――くる!


 《守護聖女》――シュゴセイジョ――

 《無限奈落》――ムゲンナラク――

 黒と白の衝突は一瞬。先ほどと同じで、ドローに終わる。

 ――――けれど。

 凄まじい。凄まじいほどの量のピュアホワイトジェネシスが、私から溢れ出す。戦うと覚悟を決めてから、これほどの量に増えた。

 けど、それは西園寺さんも同じ。さっきの残りカスみたいな量ではなく、空間を覆うほどのジェットブラックジェネシス。

 さっきまでのアドバンテージは私にはもうない。もし《時間停止》の代償がジェネシスの減少で、それを人格交代で補えるなら話は別だ。

 それでも、負けないけど。

「キルキルキルル!」

 黒き剣と白き盾がぶつかる音が鳴り響き、廊下にこだまする。ぶつかったまま、私は前へ、前へと進むイメージを強くする。このまま、押し切ってしまえ。

 だがそれは西園寺さんも同じ。力を込めて私の押す力を相殺してくる。

 私と西園寺さんは、お互いのジェネシス越しににらみ合う。

「なんで君に、最強であるSSSの透が恐れていたのか、ずっと疑問だった。人を殺せる異能力なんて何にも持ってない君をさ。けど、目の前に対峙した今ならなんとなく私にもそれが分かる。“本物”なんだね……君は」

「本物……?」

「優しい“フリ”をしたり、自分をよく見せたい“だけ”の、その辺の偽善者とは格が違うってこと。ジェネシスは嘘をつけないから」

「褒めてくれるのはありがたいけど、それなら私に免じて《発狂密室》を解除してくれないかな?」

 さっきの西園寺さんはずっとだんまりだったけど、今の西園寺さんは少しお喋りだ。対話をする余地が、もしかしたらあるかもしれない。

「それはできない相談だね」

「……どうして、どうしてそこまでして私達を殺そうとするの?」

 《赤い羊》と違って、悪意を感じない。快楽の為? でも、それもなんとなく違和感がある。確かに快楽の要素はあるのかもしれないけど、それだけじゃない気がする。殺すのではなく、自殺させることにこだわっているから。もしかしたら自殺させることが快楽なのかもしれないけど、それならSSのパープルの筈。ジェットブラックまで到達できたということは、快楽以外の“何か”があると考えるべきだと思う。恐らくはそれが西園寺さんの真理であり、私が最も恐れるもの……。

「それは“君自身の中に眠る者”が教えてくれるよ。そして私の仕事は、その眠る者を起こしてあげること。生命に干渉する"特別"な異能力で、ね」

 ふぁあ……とあくびをしながら、彼女は眠そうに片目を細める。眠気……疲労? 異能に関係している?

「……私自身の中に眠る者?」

 意味深な物言いだ。彼女の異能力を使って、何かをするのだろうか。でも何かって?

「《時間停止》の後ってさぁ、滅茶苦茶眠くなるらしくてさ。…………。まぁ私もちょっと眠いんだけど。ふぁあ。…………。キルキルキルル」

 あくびをして、口調はノンビリしているけれど、スナップをきかせて盾にぶつかる剣を滑らせながら、勢いよく盾を蹴り飛ばし、壁を蹴り、私の防衛を潜り抜けると黒き剣を私に振るってくる!

「くっ!」

 白き盾を素早くずらして黒き剣を受け止める。ビリビリと、両腕に痺れにも似た痛みが走る。

「この間合い怖いけど射程内だとこんなもんかね」

 《無限臨死》――ムゲンリンシ――

 西園寺さんの剣から黒い闇のジェネシスが溢れ、じわじわと私の盾を蝕み、そのまま私の両手まで飲もうとする直前。

 《守護聖女》――シュゴセイジョ――

 私は自分の盾に《守護聖女》を撃つ!

 西園寺さん自身に当てるには間合いが少し広い。《無限奈落》を展開されたらまたドローだ。というよりも、一体この人は“いくつ”異能を持っているんだ? やっぱり数が尋常じゃない。SSSの多重人格者!

「足掻くねぇ。ぜーんぶ無駄なのにさぁ」

《無限包丁》――ムゲンホウチョウ――

 空間に無数の包丁が現れる。そしてそれは床に落ちることなく、空中で静止ししている。西園寺さんはそのうちの一つを掴み、私に投擲してくる。

私はすかさず白い盾を構え、防ぐ。

「あーその盾めっちゃウザいなぁ。一瞬マザー出て。《絶叫崩壊》使って。……。文句言わないでよ怠いな。……。じゃヨロシク」

 パチン。

 指を鳴らす音。

 《絶叫崩壊》――ゼッキョウホウカイ――

 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッツッ!

 突如として脳内に轟く絶叫。

 想像を絶する死の叫びに鼓膜と精神が破れそうになる。

 な――ん――だ――こ――れ――は――。

 涙が溢れ、全身に鳥肌が立ち、震えが止まらない。

 何かの異能力。なら、解除できる筈!

 《守護聖女》――シュゴセイジョ――

 死の叫びから逃れるように自らに《守護聖女》を撃つが、背中に痛みが走る。

「――――ッ」

 方向感覚が壊れてる。さっきの意味の分からない叫び声で心がおかしくなってる。足元がおぼつかず、気付いたら先ほどの《無限包丁》で具現化した包丁の刃が私の背中に刺さっていた。

「――――ッ」

 気づいたら目の前に西園寺さんがいた。右手に闇をまとい、私の額に触れようとその手を伸ばしてくるのが見える。

「“私”で良かったね、セリカ。多分、死に方としては私が一番優しいと思うよ。私、実は君のこと気に入ってるんだ。だからできるだけ安らかに死んでほしい。私の死を拒めば、私じゃない私が、より苦しい死で君を狂わせるだけだから……」

「な、にを言って――――」

「諦めなよ、楽になれるよ。私の力で導いてあげる。死をただ心で受け入れるだけで楽に、眠るように死ねる。誰もが望む眠るような安楽死。永遠に朝が来ない睡眠ほど甘美なものはない。誰もが等しく持つデストルドーに自我を芽吹かすように吹き込んで、君自身の“死”に導かれていくといいよ。大丈夫、大丈夫だよ」

 優しく。諭すように。微笑すら浮かべ西園寺さんは言う。耳元で囁くように。


「――――さあ、君の中にある“死”を見せてごらん?」


 甘い猛毒。優しく心を蝕む死の言葉。餞に添える花束のように。


 《無限崩壊》――ムゲンホウカイ――


 《処女懐胎》――ショジョカイタイ――


 西園寺さんの手が私の額に触れる。

 ジェットブラックジェネシスが、私の頭の中に入ってくる。

 人の形をしたナニカ。

 その第一印象は間違ってなかった。

 西園寺さんは集合体としての存在。

 “複数”に分かれなければならないほど、引き裂かれる“痛み”を知ったんだね。


 ――――でも。


 分かったところで――――


「――――意味なんてあるの?」


 私の中の誰かが笑う。小さい、女の子の声。

 その瞬間、視界が漆黒に染まる。

 何も見えない、一面の闇。けれど恐ろしくは無い。

 瞼を閉じた時と同じような色。優しく全てを包み込む闇景色。

 その暗闇の中に、私はポツンと一人、立っていた。

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