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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第6話 Fランク VS SSSランク④【白雪セリカ視点】

《殺人模写》――サツジンモシャ――

《堕天聖女》――ダテンセイジョ――

 膠着したかと思われた場でも、結はむしろそれを好機に変える。まるで先輩のように鋭い眼差しで目の前の西園寺さんを睨み据えている。ただただ、殺す為に。

「さっき一瞬《思考盗撮》で《堕天聖女》の能力効果が見れた! 効果は《守護聖女》と全く同じ。セリカ! 挟み撃ちにする! 《守護聖女》を! この異能はジェネシスを両方ともすり抜ける! つまり相殺するには同じ異能しか意味が無い!」

 そうか!

 一つの異能を同時に使うことはできない。

 けど、挟み撃ちで《守護聖女》と、同じ効果を持つ《堕天聖女》を撃てば、一つしか相殺できない!

「……やはり零様の妹。あの一瞬で新しい勝ち筋に辿り着きましたか。フフ」

 笑っ……た?

 とても無邪気に、楽しそうに。

 悪意が無い。この人には、殺人鬼特有の嗜虐心や悪意が……ない。

 足掻く私たちを愛おしそうに見て、微笑んでいる。その笑顔はまるでお母さんを思わせる。

 ――――母性?

「セリカ! ぼぉっとしない!」

 結の一喝で、私の意識は研ぎ澄まされる。


 ――――殺す。


 この人を殺す。

 躊躇わない。思い出せ、先輩の《監禁傀儡》で意識を操られたあの感じを。

 先輩の悪は……私を救ってくれる。


 《守護聖女》――シュゴセイジョ――


「駄目押しに私もいっとくかな」

 そう言って赤染先輩は「キルキルキルル」と唱え、剣を何の躊躇もなく西園寺さんに投擲する。この迷いの無さ。敵だった時は本当に苦労したけど、味方になると赤染先輩ほど心強い人はいない。

「キルキルキルル」

 この状況下で、意外にも西園寺さんが異能を使う気配はない。とんでもない異能を使ってくると身構えていたのに、この絶望的状況下で凶器化を使う?

 西園寺さんは何の躊躇もなく、自分の左腕を切断する。切断した左腕を剣を捨てて右手でつかむと、結の《堕天聖女》に向かって投擲。

 投げ終わったらそのまま重力の反動を使って右手を私の《守護聖女》へかざす。

 《堕天聖女》――ダテンセイジョ――

 結の《堕天聖女》は西園寺さんの切り離された左腕にぶつかって消滅。

 私の《守護聖女》は西園寺さんの《堕天聖女》にぶつかって相殺。

 ――――ヒュン。

 赤染先輩が投擲した剣を避けようともせず、そのまま素直に受ける。赤染先輩の剣は的確に西園寺さんの首を切断するが、西園寺さんの表情は少しだけ気持ちよさそうに色っぽい表情になっただけだった。

 《絶対不死》――ゼッタイフシ――

 けれども。やはり“この異能”がある。この異能があったから、透は本当の意味で化け物じみていた。

 そしてそれは、西園寺さんも同じ。

 躊躇なく自分の身体を切り離し身代わりに使える精神力が今はただ恐ろしい。

「インターバルを作らない! 今の連携を超連続でやる! たとえ三日三晩かかったとしてもこれで仕留める!」

 結の一喝で、私の集中力は元に戻る。

 《赤い羊》がいる以上、三日三晩なんて時間はかけられない。でも、西園寺さんはその言葉に揺さぶられるかもしれない。流石は、結だ。

 確かに、今の連携にはかなりの手ごたえがあった。ずっと連続でやり続ければ、必ず隙はできる!

 《殺人模写》――サツジンモシャ――

 《堕天聖女》――ダテンセイジョ――

 《守護聖女》――シュゴセイジョ――

「キルキルキルル!」

 結の模写した《堕天聖女》、私の《守護聖女》、そして赤染先輩の剣の投擲。連続でやり続けていれば、きっと勝てる!


 ――――まただ。


 また、背筋に嫌なものが走る。

 勝てると思い込むことによって、突き進める幻想。

 実際に突っ走ればその先は崖の底。奈落の底なのに、そう思うのが怖くて、勝てると思い込んでる。そんな気がする。

 何故そんなことを思ってしまうのか?

 それは……それは、目の前の西園寺さんという人間が、あまりにも分からないからだ。彼女にも感情が無いわけではないのに、西園寺さんという人が全く分からない。相手を理解しないまま勝負を急ぐ怖さ。今それを凄く感じてる。

「……少し面倒ですね。結様の《殺人模写》、少し侮っていたようです。なら、模写できない異能を使って一人ずつ自殺してもらうしかなさそうですね」

 少し考え込んだ後、西園寺さんは指をパチンと鳴らした。

 私たちの全ての攻撃が当たるか当たらないかの瀬戸際。西園寺さんはあってはならない異能を使った。私の“予感”は当たっていた。

 SSSを理解すればその狂気に、私の精神は壊される。先輩の言葉は最もだ。

 でも、SSSを理解しないまま彼女を滅ぼすことはできない。それを今理解した。

 もはや善悪の次元ではない。

 彼女は“死そのもの”になると言ったのだ。

 その表情はどこまでも真剣そのもので、殺人鬼とは思えない切実さがあった。

 そんな彼女が求める異能。

 私は答えに辿り着く前に、全てのジェノサイダーにとっての、最低最悪の異能が西園寺さんから解き放たれる。

 先輩からチャネリングで送られた、透を殺す瞬間のビジョン。夢幻のようだけど、私は覚えてる。

 先輩が到達した”絶対悪”の異能。

 それが《処刑斬首》。この異能が絶対悪の象徴なら、西園寺さんの異能は世界を終わらせる異能。生きとし生ける全ての生者を死へ誘うことを可能とする異能。


 ――――“ソレ”は発動してしまった。


 《時間停止》――ジカンテイシ――


 凡人が超人を相手に敵うわけが無かった。

 怪物に対抗できるのは同じ、もしくはそれ以上の怪物だけ。

 先輩は正しかった。

 絶望……。これが、絶望なのだろうか?

 私は死んだわけでもないのに、足元がバラバラに砕け散ったような気持ち悪さに意識が酩酊するような錯覚すら覚えた。

 ――――でも。

 心と頭は絶望に近い状態なのに、身体は勝手に動いていた。それはまるで先輩が《監禁傀儡》を私にかけていた時のように。先輩の悪が今はただただ愛おしい。


 《守護聖女》――シュゴセイジョ――


 わずかな時間の隙間をかいくぐりながら、私は自分自身の胸に手を当て、《守護聖女》を撃つ。

 赤染先輩と結はもう駄目だ。私一人と、西園寺さんの戦いになる。

 それが分かった。でも、不思議と絶望は無い。むしろ今、身体が勝手に動いたことに私は涙が溢れそうなほどに、救われた。

 さあ、第二ラウンドだ。私はまだ折れてないよ、西園寺さん。

 私の不敵な微笑みを見て眉を顰める西園寺さんと私だけが、この世界に取り残された。


 ――――時間は、停止した。


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