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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第6話 Fランク VS SSSランク①【白雪セリカ視点】

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああツッッ!!」

 突然鳴り響く男の子の悲鳴。悲鳴というよりも、叫びに近い。聞くだけで全身に鳥肌が立ち、寒気がするほど恐ろしい悲鳴。その声は渡辺先生が電気椅子で殺されたあの時の声と似ていて、私は両腕で自分を抱きしめる。

「……下の階からね。音の響き具合からして、プール側だと思う。《思念盗聴》と今現在の私達の位置の中間ぐらいかな?」

「……プール側」

 赤染先輩の表情が冷たくなり、結も何か考え込むように無表情で何かを呟いた。

「ま、まだ殺し合ってるの?」

「プールに行ってない子達は殺人カリキュラムの“勝利条件”を信じ込んでるから、ありえない話ではないわね。あいつら《赤い羊》は、誰一人として私たちを生かす気なんてないとも知らずにね。でなければ《証拠隠滅》は使えない。後で生首を集計して現金化することができなくなるから。私も《思念盗聴》していなければ分からなかったことだし、あいつらを殺したいという自分自身の動機の決定打になったわけだけど」

「《思念盗聴》でこの学園全体の生徒達がどのような行動を取っているかは把握できていないんですか?」

 間髪入れずに結が尋ねる。

「リリーを経由して盗聴した結果としては、大体の子達は精神が壊れちゃってるかな。人殺しさせられて、命を狙われる状況で平常心を保てる子はそうそういないみたい。大体が疑心暗鬼の獣みたいになってる。とてもじゃないけど、コミュニケーションを取れるとは思えないわねぇ」

 恐ろしいことを呑気に語る赤染先輩。責任感は人一倍あるけど、その代わり罪悪感が全く無いというアンバランスな人だということが改めて分かる。だからこそ私を“道しるべ”として選んだのだろう。私だけは、絶対に間違えられない。

「……なんとかして、彼らを説得できないかな」

 ふと、思う。

 生徒全員が力を合わせれば、たとえランクが低くても異能力次第では《赤い羊》を倒せるのではないかと。むしろ最初からそうしていれば勝てたとすら思う。でも……そうか。透の《絶対不死》。あの印象は強烈だった。誰もが尊敬する完璧な生徒会長である赤染先輩が殺せなかったという先入観を無意識の中に刷り込まれた。透以外の《赤い羊》であれば、殺せたかもしれないのに。

「「無理ね」」

 二人の声が重なる。

「殺されかけるのがオチ。その子を相手してる間に別のジェノサイダーに殺されるリスクすらある。《守護聖女》の無力化は5秒間。言葉だけで説得するには心もとない短い時間だし、連続で当てるにしてもその一人に意識を持っていかれると、他への注意が疎かになる。三人で力を合わせたとしても、現実的じゃないと思う」

 結がそう短く結論づける。

「まぁ、同意見かな。もちろん、彼らを味方に引き入れる策も練ろうと思えば用意はできると思う。けど、それには膨大な時間と安全な環境が必要。《赤い羊》二人と、西園寺さんという不確定要素がある以上は、その条件を満たすことはできない。下手したら、不用意な戦闘でこちらの居場所を悟られる可能性すらある。私達三人だけで対処するのが現状での最善策だと思うわ。厳しい話だと思うけどね」

 赤染先輩が結の結論を補足してくれる。

 ……ほ、本当に頼りになる。

 先輩がいなくなって心が折れかけていたけど、この二人がいれば本当になんとかなるかもしれない。

 どんな時でも冷静で自分を見失わない結と、先輩と同じくらいシビアに物事を判断できる赤染先輩。うん、大丈夫だ。まだ可能性はある。

「結は、私達がこれからどう行動するのが最善だと思う?」

「……さっきも言ったけど、現状考えられる最低最悪の状況は、《赤い羊》二人と西園寺要に手を組まれること。そうなれば私たちに勝機は無い。各個撃破が大前提。各個撃破する為には、なるべく早く西園寺要もしくは《赤い羊》二名を殺害する必要がある」

「同感ね。つまり結論としては、なるはやでどっちかの陣営を始末するっていうのが、私たちの行動すべき指針かな?」

 な、なるはや……。西園寺さんは赤染先輩のクラスメートだと思うのに、言い方が軽いな……。

「じゃあ、二人はどっちを先に殺すべきだと思う?」

「西園寺要」

 結は即答。

「……ほんと、結とは性格がとことん合わないのに、意見だけはいつも合うわね。嬉しくないけど」

 赤染先輩も苦笑いしながら結の意見に同調する。

「理由は?」

 私は即座に尋ねる。

「単純に数的優位という考え方。三対二より、三対一の方が数的には有利。もちろん、SSSランクに本来私達はなすすべがない。けど、FランクのセリカならSSSの剣を白い盾で受け止められるし、一度でも《守護聖女》を当ててくれればあとは私たちのどちらかで西園寺要の首を獲れる。それに、西園寺要はSSSに到達したとは言っても、ジェノサイダーとして練度と期間が《赤い羊》に比べれば格段に低い。ジェネシスはランクも大事だけど、お互いの異能との相性も重要。相性が悪いだけで勝てないことすらある。数的優位がこちらにあれば、純粋な保持異能力の数ではSSSと渡り合えるし、勝機は十分にある。パワーバランスを無視すると言ってもいい異能力である《絶対不死》を西園寺要が持っていても、セリカには関係が無いしね」

 結は淡々と自分の意見を述べる。

「全く同意見ね。5秒もあれば確実に殺せる。西園寺さんさえ始末できれば、あとは《赤い羊》だけに集中できる。あと必要なのは――――」

 そこで赤染先輩は言葉を切り、真剣な目で私を真っすぐに見据える。


 「――――相手を殺す覚悟だけね」


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