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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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幕間 骸骨と花子②

 沈黙。シラを切るわけでもなく、動揺するでもなく、激昂するでもなく、沈黙。感情を感じさせない意思のない瞳で僕を真っすぐに見返してくる。

 ……やはり花子ちゃんは“怖い”な。とても17歳の少女とは思えない。ヒキガエル君以上の虐待を親から受けて死にかけていたところを透さんに拾われたと聞いているが……揺さぶった僕の方が揺さぶられている。こんな少女の形をした化け物が執着する少年……百鬼零が“良心”を無くして目覚めると思うとゾッとするね。僕も色々経験してきたけど、快楽殺人鬼のカップルだけは見たことが無いからね……。

「何か言ったらどうなんだい?」


「“アンタに”私が殺せるの?」


 花子ちゃんは不敵に微笑む。僕の質問には答えず、僕の脅しそのものに対して嘲笑してくる。

「その反応は裏切りを認めたと捉えていいのかな?」

「小物ね……骸骨。お前はいつまでも」

 こ、小物……。花子ちゃんは本当に言葉を選ばない。時々その毒々しさはいばら姫ちゃんの比じゃない時があり、今がその時だと実感する。

「殺す、殺さないなんて言葉は、“実際に”殺してから言いなさい。実際には殺せないから“殺す”なんて言葉を使う。そして本当に殺した後は、もう殺すなんて言葉すら使わない。殺すという言葉。最も空っぽな言葉だと今なら思うわ」

「…………」

 僕は目を細め花子ちゃんを凝視する。花子ちゃんの言っていることは確かにその通りではあるが、昨日までの花子ちゃんはむしろ殺すという言葉を好んで使っていた気がするが……。

「零に負けて私は気付いたの。私は強者でいるつもりだった。ジェノサイダーとなり、《赤い羊》のナンバー2となり、強くなった”つもり”でいた。けど、零は格が違った。零は言った。弱者としか戦えないことがむしろ弱者である証だと知れ……とね。私は弱者だった。自分より弱い人間を殺しても何の価値もないわよね。だから私は――――」

 花子ちゃんはそこで言葉を区切り、静かに宣言した。


「全ての悪を超越し、SSSとなる」


「……SSS、ね。その為には絶対的な真理が必要だと透さんから聞いてるけど? 人から言われたのだと駄目で、自分で見つけないと意味ないらしい。ぶっちゃけ、僕にはさっぱり分からない話だよ未だに」

「真理にはもう辿り着いてる。“命は平等”だということ。犬畜生やゴキブリにも命はあるのに、何故“人間だけ”が特別扱いされるのか? それこそ人間の究極の“エゴ”であり愚かさの本質。私は既に自らの中に真理を見出している」

「なら何故、SSSになれないんだい? 君は」

「それは私が弱かったから。透の狂気を見て、それ以上の領域に立てると自分を信じられなかった。SSSには絶対的なほどの真理以上に、狂気も必要だから」

「…………変わったね、花子ちゃん。君から強くなろうなんて言葉を聞くことになるとは思わなかったよ」

「……ふっ、骸骨。私は今少しだけ機嫌がいい。少しだけ見せてあげるわ……私の唯一無二の“悪”を」

 花子ちゃんからパープルジェネシスが大量にあふれ出し、僕は身構える。そしてそのパープルはほんの一瞬だけ、漆黒に変色したのを僕は見逃さなかった。

《処刑烈火》――ショケイレッカ――

 黒き炎が花子ちゃんからあふれ出し、一瞬でシャワールームが漆黒の炎に包まれた。

「あちっ」

 僕は飛び上がって後ろに下がる。

 花子ちゃんのジェネシスはもう既にパープルへ戻っていた。漆黒の炎も嘘のように消えている。シャワールームも水気が多いことが幸いしたのか、特に焼け焦げた様子はない。

だが、今、確かに、花子ちゃんのジェネシスカラーはジェットブラックだった。

「殺意の意識を極限まで集中し続けることで、ほんの一瞬だけどジェットブラックの領域までたどり着けた。使えるのはたった一つ、この異能だけ」

「……あんま水差したくないんだけどさぁ、ぶっちゃけ今ちょっと僕くらったけど、そんなに威力は大したことなかったよ。それに今僕無能力者だし」

「アンタ相手には加減したから、それは当たり前よ。フフッ、この《処刑烈火》はランクが低ければ低いほど食らう傷と苦痛が増す異能。SSSは無傷、SSは軽いやけどにすらならない。けど――――」

 花子ちゃんは残酷に微笑する。


「――――白雪セリカの魂と肉体を灰になるまで焼き尽くすことはできる。惨たらしく長く永く苦しめ苦しめ苦しめて、身体の内側から焼いて焼いて焼きつくして、愚かで醜い悲鳴をこの耳で聞いてやる。その為だけの異能だから……ね」


 その笑みは透さんが浮かべる笑顔よりも残酷で、死体にしか魅入られない僕でも一瞬魅入られそうになった。

 なるほど、ね。白雪セリカを殺したいという究極の殺意は、確かに透さん並の狂気に追いつける代物かもしれないね。ただ、それでも”一瞬”しかなれないって、SSSどんだけヤバいんだって話だ。

「ま、その調子で頑張ってよ。あと、白雪セリカを焼きつくすって“殺す”って結局言ってる感じしない?」

「…………うるさい」

 花子ちゃんは唇を尖らせて不貞腐れる。悪魔みたいな時と女の子みたいな時のギャップがあり過ぎて怖い。まーあれだ。女の子はあんまり論破しない方がいいという新しい教訓が得られた。のかな?

 ――――あ、やべ。本題を忘れるところだった。花子ちゃんめ、話を逸らしやがったな……。

「……さて、花子ちゃん。僕から言いたいことは一つ。君の《処刑斬首》の能力効果を透さんに隠してさえいなければ、透さんが百鬼零に負けることはなかった。しかもあんな一瞬で。《絶対不死》を持つが故の、透さんだけの油断だった。赤染アンリの攻撃も普通に受けてたしね。花子ちゃんが、《処刑斬首》の能力効果がただ刀身を伸ばすだけだなんて嘘をつかなければこんなことにはならなかったんだよ? 事前に本当の能力効果を知っていれば絶対に透さんは負けてなかった」

「あらゆる悪を愛する男なら、裏切りという悪も愛してほしいものね」

「……いつか透さんを《処刑斬首》で殺すつもりでいた、とか?」

 《処刑斬首》はそれほどジェノサイダーにとって恐ろしい異能力。ジェノサイダーを殺すためだけの異能力と言ってもいい。それを隠して切り札にしていたということは、もうそれしか考えられない。

「さあて、ね?」

 花子ちゃんは意味深に微笑する。

「でも安心なさい、骸骨。“保険”は打ってある」

「……どういう意味だい?」

「そのままの意味よ。ジェネシスが使えないことに関しての保険はないけど、“記憶に関しての保険”はいばら姫とヒキガエルの二人でしてある。《絶対不死》を持つ透にしかできない保険。あとは、ヒキガエルの《人肉生成》といばら姫の《完全再現》が組み合わせてできた《赤い羊》の共同作品」

「……?」

 さっぱり意味が分からない。透さんの記憶に関しては“保険”がある?


「――――透の“脳のスペア”。確か冷凍庫に入ってたわよね?」


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