第1話 殺人カリキュラム⑦
「さて、本日はお日柄も良く、ああ、雨か。今日は雨でしたね、そういえば」
透と呼ばれた青年は「困ったな、どうしよう」というような感じで押し黙ったあと、もう一度顔を上げ、唇を開く。
「あいにくの雨ですが、今日は皆さんに殺人鬼になってもらう為に来ました。これから、24時間カウントを始めます。その間に、最低4人の人間を殺害してください。殺害方法は問いません。殺害した証として、指定する場所に殺した人間の生首を持ってきてください。一つの生首に対し、百万円を差し上げます。そして、今、学園から出ることは出来ませんし、させません。24時間以内に、4人の人間を殺す。その目的を達成できなかった者には、ペナルティとして、殺します。と、まあ、こんな感じなんですが……皆さん、準備はいいですか?」
透は不気味な漆黒の瞳で俺たちを見据え、小首を傾げた。
「な、なんなんだよお前らは……」「おえっ、おえぇっ……」「っ、ひっく……」「ななな何が起きて」「け、警察を!」「誰かケータイ!」「け、圏外になってるぞ意味わかんねぇ!」「なんでドアが開かない!?」「校長先生、え、なんで、首だけ」「死にたくないぃぃ」
生徒達の反応は様々、多種にわたる。俺はこんな状況だというのに、思考の奥深い部分が妙に冷め渡っているのを感じていた。心は錯乱しているが、頭は冷静。妙な感覚。
「透、この状況で何をどう説明しても、パニックになるだけ。カオスがもたらすのは意味のない虐殺のみ。殺人鬼を育成するのであれば、秩序は必要よ。つまり『殺人カリキュラム』を実現したいのなら、もっと分かりやすい演出が必要ってこと。そんなこと普段のアンタなら分かる筈。涼しい顔して、何? テンパってるの?」
赤いリボンのセーラー服の少女が、小馬鹿にするように青年を揶揄すると、壇上から一人でふわりと飛び降り、校長の生首を持ち上げた。それは異様な光景だった。他校の女子生徒が、俺たちの学園の校長の生首の髪の毛の部分を片手で持ち上げ、まるで嘲笑うかのように醒めた目で冷笑している。
「花子、相変わらず口が悪いけど、頼りにはなりますね」
「我らがナンバー2、というだけはあるのかな? 場を支配できている」
透がゾッとするような笑みを浮かべ、リリーと呼ばれた女も面白そうに花子を見下ろしている。
「よく聞きなさい、愚者ども」
花子の声は決して大きくは無かった。だが、それだけで全員が沈黙した。
「お前らに人権は無い。今からお前らには、殺し合いをしてもらう」
「い、意味が分からない……」「お前らは一体なんなんだ」「帰りたい、帰りたいよぉ」「これは夢だ、きっと悪い夢を見ているに違いない……」
「はぁ、本当に愚かね……。救いようがない程に」
そう呆れるようにため息を吐くと、花子は生首を思い切り生徒達へと放り投げた。
「うわああっっ!」
生首を避けるように人混みが割れ、ボトンと鈍い音が響く。
「お、お前らッ、こんなことして、ただで済むと思って――――!」
男子生徒の一人が怒鳴り、花子はそれをゴミを見るように一瞥すると、「キルキルキルル」と呟いた。
その瞬間、花子の身体から紫色の煙のような光があふれ出す。オーラのようなそれは、花子の右手へと収束し、剣の形となる。
「――――うるさい。死ね」
花子はぞんざいな動作で右手を振るう。一瞬で男子生徒の首を撥ね、その首は床へと転がる。
再び、絶叫が上がるが、花子はうるさそうに顔をしかめるのみだ。
「お前達如きが、私達を殺すことはできない。そして、お前達はここから出ることもできない。お前達に出来ることは、私達に従う。これしか道は無い。そして、私達が提示する道も一つしか無い。24時間以内に4人殺す。それが出来た者のみ、生を許す。それが出来なかった者は、必ず殺す。学校の勉強なんかより、ずっとシンプルで分かりやすいでしょ?」
花子は問いかけるように首を傾げ、俺たちを睥睨する。
「何か質問は?」
花子は俺たちが沈黙するのを見て、発言を促してくる。生徒達は顔を見合わせ、困惑するが、一人だけ挙手する者がいた。あい、つは――――