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±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
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第5話 新たなる羊⑨【白雪セリカ視点】

「結、外の状況はどうなってるの?」

 私は目覚めたばかりで、何も分からない。今後どうするかの方針を決める必要がある。全てを決めてくれた先輩はもう、傍にいないのだから。

「……黒い《発狂密室》が新たにこの学園を閉鎖した。透がこの異能を使えるのかどうかが分からないけど、状況から考えて透が発動したんじゃない? 私たちを逃がさないために」

 確かに窓の外を見つめてみると、薄暗かった。紫の闇の更に上に、漆黒の闇があり空を覆っている。

「…………その可能性は低いと思うけど」

 透達が校長先生を殺した時、透はリリーに《発狂密室》を発動していないか尋ねていた。透が使えるなら最初から透は《発狂密室》を使っているはず。あの人は狂人だけど、自分の目的に誰よりも忠実だからこそ、無駄なことはしない合理主義者だ。でも、それを裏付けるには検証しなければならないことが一つだけある。

 《守護聖女》――シュゴセイジョ――

 《聖女抱擁》――セイジョホウヨウ――

 右手に《守護聖女》を、左手に《聖女抱擁》を。異なる異能を同時に発動できるかどうか。

 私の右手から《守護聖女》が、左手から《聖女抱擁》が純白のジェネシスとしてあふれ出す。検証成功。異なる異能を同時に発動することは可能だということが分かった。

「……次は」

 《守護聖女》――シュゴセイジョ――

 《守護聖女》――シュゴセイジョ――

 同じ異能を同時に発動することはできるだろうか?

「……やっぱり」

 右手から《守護聖女》は発動したが、左手からは何も出てこなかった。

 同じ異能を同時に発動することはできない。先輩と花子も《監禁傀儡》を同時に発動することはしていなかった。できないのだ。

 交互だったり、連続ならできるみたいだけど。発動したあとに発動、という工程が必要となる。

「セリカ……あんた、まさかジェネシスを検証してるの?」

 結は目を丸くしてそう尋ねてきた。

「私は、ジェネシスを使いこなせるようにならないといけない。透の攻撃を私の盾で止めた時、頭の中で何かがハジけたの。閃きっていうか、確信っていうのかな。……SSSを止められるのは、他の誰でもない。私しかいないって、そう思ったの。おかしいかな?」

「…………」

 結は何とも言えないような表情をして、押し黙った。

「先輩は、悪を討てるのはそれ以上の悪だけだって結論付けたけど、私はそうじゃないって今でもまだ思うんだ。もし先輩の結論が本当に正しいのなら、透はFランクの私なんかを恐れなかったはず。でも、SSSで最強の透は、他の誰でもない私を恐れていた。自分の手を下してまで、己のルールを曲げてまで私を無理やり殺そうとした。そこに、答えがあると思うんだ」

「……セリカ。あんた変ったわね。強くなった。前はピーピー泣いてるだけだったのに」

「う、うるさいなあ。私、結のそういう毒舌なところ、ちょっと嫌い」

「透はアンタをあらゆる悪を食らいつくす本物の怪物と呼んでいた。私にはその意味が分からなかったけど、あの男が誰かを対等に敵視したところは初めて見たから」

「透って、結の元カレさんなの?」

「……なんでそうなるのよ」

「いやだって、詳しいし」

「上司と部下みたいな関係だった。昔ね。ただそれだけよ」

「ただそれだけ、ね」

「何よ。言いたいことがあるなら言いなさいよ」

「べっつにー?」

「……」

 結をからかい続けることで、少しでも絶望から意識を逸らそうと思った。こうやって毒にも薬にもならない会話をすることで、私達は元の関係に戻って、本当の意味で絶望を乗り越えられる。そう信じているから。

「それで、話を戻すけど。《発狂密室》を発動してるのは、誰だと思う?」

 私は結へ問いかける。結に色々考えさせて、いつもの調子を取り戻させたい。本来、そういう参謀的なことは結の得意分野だ。

「少なくともリリーではないわね。あいつがSSSに突然なるとは思えない。だから消去法で透になるわけだけど……。透も《閉鎖空間》という、空間を作る能力は保有しているけど、《発狂密室》と違って、こんなあからさまに閉じ込めることに特化した能力ではなかった」

「異なる異能を同時に使うことが可能なことは分かったから、可能性として無いわけではないね。でも、パープルジェネシスとジェットブラックジェネシスが同時に空間を覆うっておかしくない?」

「確かにね。もし仮に透が《発狂密室》を使えるなら、リリーの《発狂密室》は解除させる筈。あの男は絶対に無駄なことはしない性格だから」

「それに、先輩は夢の中で言ってた。透は俺がこの手で確かに殺したって」

「その夢、どこまで信ぴょう性があるの?」

「赤染先輩の使っていたチャネリングを使ったって言ってたけど……」

「!? その話はアンタは知らない筈。兄さんにそれについて話し合う機会も無かったし。……なるほど。少し、希望が見えてきたわね」

「だから、さっきからそう言ってるのに……」

 結はなかなか私の言葉を信じないんだから。

「…………となると」

 私は話を一歩前に進める。

「考えたくないし、ありえないことだけど……答えは一つしかないわね」

 結が私に続く。


「「SSSがもう一人いて、そいつが《発狂密室》を展開している」」


 結と言葉が重なる。鳥肌が立ちそうになった。

 透以外に、そんな存在がいる。

「でも、何のために?」

 私は首を傾げる。既に発動している《発狂密室》に自分の《発狂密室》を上書きする理由。頑張ってはみたけど、おおよそ理解できそうにない。

 SSSに到達する条件は、善悪を問わず究極の真理にたどり着くこと、だ。誰にも否定できない絶対的な真理。透は“ソレ”を持っていた。

 先輩の言葉を思い出す。透の辿り着いた真理は、“見えざる支配からの脱却と完全なる自由な世界の謳歌”だ。見えざる支配が存在することも、そこから脱却することも、完全なる自由な世界の存在も、それを謳歌することも、“間違ってはいない”。善悪を抜きにするのであれば、否定する余地のない絶対的な真理だ。私には全く理解できないけど、理屈としては否定できる余地が無い。善悪を抜きにするのであれば、だけど。

 ――――では。

 もし、仮に、新たなるSSSが存在しうるのなら。

 その人は一体どんな“真理”に辿り着いたのだろう。

 私はそれをどうしようもなく知りたいと思うと同時に――――

「――――っ」

 両腕をかき抱くように震えあがる。

 ――――知ってしまうことが怖いと思った。

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