表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
±0  作者: 日向陽夏
第2章 殺人カリキュラム【後】 白雪之剣編
101/355

第5話 新たなる羊⑤【西園寺要視点】

私は黒き翼にジェネシスを形態変化させ、廊下を飛んでいました。先ほどのヒキガエル様の《証拠隠滅》の効果で、学校中から死体もなく、血の跡もなくなっています。不気味なほどにいつも通りの光景。時間がとても経過しているように思いますが、意外と時刻はまだ午後2時で、お昼ごろです。とはいっても、学園全体は薄暗い。その理由は明確。

窓の外を見つめると、紫色のジェネシスが学園全体を覆っています。それが影となり、まるで夜に近い薄暗さです。リリー様の《発狂密室》は未だ健在。でも私は念には念を入れる性格なので、リリー様の《発狂密室》を更に上書きすることにしました。

 指をパチンと鳴らす。別に鳴らさなくても発動できるのですが、気分的に上がるでしょう? 私は音楽が好きで、音で気分を乗せることが多い。

《発狂密室》――ハッキョウミッシツ――

リリー様のパープルジェネシスの“外側”を覆うように、私のジェットブラックジェネシスが学園を覆う。それにより、ほぼ光が遮断され真夜中に近いほど真っ暗になる。

リリー様と同じ異能。私はまだ“沢山”の異能を持っているけど、リリー様と同じ異能に開花することができてとても嬉しい。紫の《発狂密室》を黒の《発狂密室》で覆うなんて、狂おしいほどに倒錯的。監禁してる人をこっそり監禁するみたいな背徳。刑務所を管理する刑務官を囚人ごと閉じ込めたら、きっとこんな気持になれるのでしょうか。

「~~♪」

 ショパンのノクターンをハミングしながら、私は生きている生徒がいないかもついでに探します。べつに殺すつもりはありません。ただ、なんとなく話がしてみたいだけ。私の《発狂密室》で学園を手中に収めた時点で、もう誰も逃げられない。セリカ様が私に《守護聖女》でも当てない限り。だからリリー様を探すのもべつに、急ぐ必要もありません。

「キルキルキルル」

 男の子の声。隠すつもりのない殺気とともに、イエロージェネシスの剣が私の心臓を貫く。まるで気配を感じなかった。自分が今、殺されたのだと気付くのを、死んだ後に気付いた。

 《絶対不死》――ゼッタイフシ――

 自動でも手動でも発動する不死の異能。今回は悔しいですが自動です。貫かれた心臓がドクンドクンと動き出し、その肉を再生させる。

 私は背後を振り返るが、そこには誰の姿も見えない。だが殺気は未だに感じる。確かに私は殺されたし、《絶対不死》の異能も発動した。

「あら? もしかして透明になれる能力だったりします? 凄い! その異能はまだ見たことありません。一瞬見えた剣の色がイエローということは、Bランクですね! 色が見えたということは、剣だけは透明にできない? 分析も楽しい! 確かにジェネシスを覆っていない状態だとランクは関係なくダメージが与えられるものね。やられました。では、今度はこちらの番。姿が見えない相手にはうってつけですよ?」

 《絶叫崩壊》――ゼッキョウホウカイ――

 指をパチンと鳴らす。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああツッッ!!」

 聞くだけで狂いたくなるほど心地の良い絶叫が轟き、突如として目の前に男子生徒が現れる。彼の異能が無理やり解除されたのだと気付く。彼は両耳を両手で塞ぐようにして廊下を転がるようにして、叫びながらのたうち回っている。

 《絶叫崩壊》は、今まで私が見てきた人の死にざまにあげる断末魔の叫びを一斉に近くにいる相手の脳内にリフレインさせる異能。とぉっても地味な異能ですが、“マトモ”であれば“マトモ”であるほど精神が一瞬で破壊される異能。

「ふふふ」

 たった一日ですが、私は沢山の断末魔の叫びをこの耳で聞いてきました。百、二百? いえそれ以上。それらの断末魔の叫びが大音量で一気に脳内で再生されるのですから、Bランクの方であれば一緒に叫ばずにはいられないですよね……。

「ああ、ああああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!」

「なんて苦しそうな声……っ。フフっ、フフフフフフッッ!」

 また一つ私の断末魔コレクションが追加されてしまった。私には絶対音感があるから、断末魔のドレミファソラシドを完璧に聞き分けて記憶し、いつでもリフレインできる。

 はぁぁ……っ。恍惚に浸りたい。けれど、あまりノンビリしているとリリー様を見つけるという目的を忘れそうになる。気を付けないと。

「すみません。私、《絶叫崩壊》の発動は簡単にできるんですけど、なかなか解除の方法が難しくて。すんなりできる時と、全然できない時があって。ムラが激しいんですよね。今は……うーん。解除できないみたい。もっと“練習”が必要ですね」

「ギルッッ、ギルギルギルルッッッ!」

 男子生徒は狂ったように目をギョロギョロさせて黄色い剣をその手に握ると、何かから逃れるように自らの首を切断して絶命した。

「あ……。自殺してしまいました」

 すっごく地味な異能なのに、死ぬほど苦しかったんですね……。かわいい。

 《証拠隠滅》――ショウコインメツ――

 ヒキガエル様と同じ異能。死体はきちんとこの世から”完全に”消してあげる。

 でも、私の絶対音感は彼の断末魔を完璧に記憶する。甘美なる悲鳴。生と死の狭間の叫び。それはとても狂おしく。それはとても愛おしい。

 “音”の奏でる狂気は偉大だ。

 将来は、音楽の先生になりたいな。そう思っていた時期もあったっけ。

 でも、私は本番に弱い。合唱コンクールのときに体調を崩してしまって、赤染さんに代わってもらったこともあるぐらいだから。

 でも、もう大丈夫。

「この力があれば、なんでもできますよね♪」

 ま、”将来”なんてないんですけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ