第1話 殺人カリキュラム⑥
「…………で、あるからにして」
はぁ、退屈だ。眠い。とにかく眠い。昨日やっていたシューティングゲームで失敗した場所を思い出しながら、どうすればあそこを回避できたのかを考える。そのぐらい、退屈だ。
校長の話は長い。とにかく長い。欠伸を噛み殺しながら、俺は校長の話を聞き流していた。
《自在転移》――ジザイテンイ――
――――瞬間。
校長の首が飛んだ。
「…………は?」
状況を理解するまでに、3秒。分析するまでに、5秒。把握するまでに、10秒。
校長の首が、飛んだ。
切り離された首はそのまま体育館の壇上にごろごろと転がり、床へ落ちる。
「きゃああああああああああああああああああああああああッッッ!」「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!」
悲鳴と怒号が同時に木霊し、鼓膜が破けそうになる。音の暴力に視界すら滲む錯覚。俺は目を奪われたように、呆然と校長の生首を見つめていた。
目が合い、パチリ、と瞬きをした。そして、時間差で鼻に来る強烈な血の臭い。
「おえっ……」
その瞬間、何人かの生徒が吐いた。
「やあ、皆さん。初めまして。我々は《赤い羊》」
朗らかな青年の声が響く。
校長の首が吹っ飛んだことに衝撃を受けすぎて、気づかなかった。いや、気づけなかった。
首なしの校長の横に、一人の青年が立っていたことに。さっきまではいなかった。なのに、いつの間にか”ヤツら”はそこにいた。
白いYシャツとジーンズを着た白い髪の青年と、その背後に控えるように立っている6人の人間。そいつらからは何か独特の気配を感じた。普通の人間には無い、異様な存在感。禍々しく、恐ろしい正体不明の恐怖感に、俺の足は僅かに震えた。
青年は7人を代表するように壇上に立ち、右手にドス黒いオーラのような剣を持ち、それを払う。すると校長の血が床へ一筋の線を作った。
理解不能。状況のあまりの不可解さに思考がフリーズし、とにかくヤバいという実感だけが沸き出し、けれど金縛りに遭ったように両足が動かない。
「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
一部の生徒が正気を取り戻し、慌てて体育館から逃げだそうと――――
《発狂密室》――ハッキョウミッシツ――
何故かドアのところで手こずってしまい、出て行く様子が無い。
「開かねえっ! 開かねえぇ!!」
ドンドンとドアを拳で叩きながら、男子生徒が悲鳴混じりに叫んでいる。
「リリーさん、《発狂密室》は既に発動していますね?」
青年が何かを確認するかのように、後ろの6人の内の1人に声をかける。
「ええ、もちろんですよ透さん。この体育館だけではなく、学園という空間そのものに対し、《発狂密室》は発動しています。凄いね、この力。今までの自分が馬鹿みたいに思えてくる。これが、ジェネシスなんだね……」
リリーと呼ばれたイアリングをした若いショートボブの女が、うっとりとしたような恍惚の表情で呟く。リリーと呼ばれた女からは、紫色のオーラのようなものがあふれ出していて、途方も無く不気味だった。
「僕らは手出しはしない、というスタンスではありますが、無能の拾い食いぐらいであれば、演出の一環としてやってもいいですよ。あなたも自分のジェネシスを試してみたいでしょう? ちんぷなスナッフビデオをちまちま撮るのはもう終わりだ。これからは、あなたが好きなときに、あなたの好きな人間を、あなたの好きな方法で殺せばいい。その力は既に”分け”てあげたのですから……ね?」
”ヤツら”の会話を聞くだけで、身がすくむような恐怖を感じる。なん、だ……。この感覚は。