あらすじ ケモノジビ科の先生(イヌジビのマキ編)
その子達は私達、人と同じ姿をしながらどこか違います。
耳は動物の耳であり、腰から動物のシッポが生えているのです。
私達はそんな彼らを『ケモノの耳と尾がある人』からケモノジビと呼びました。
そんな世の中、ケモノジビを治療する医者の先生がいます。
ある日、彼の元に三人家族に飼われているイヌジビの少女マキが患者としてやってきました。
医者はマキの診察をしました。
マキは、見た目は少女のままだけどもうすぐ寿命でした、ケモノジビは人よりも寿命が短く、イヌジビの寿命は15才前後です。
彼女はもう長くはありません。最近では誰かと一緒じゃないと歩くのもままならず寝てばかりの生活をしていました。
マキを連れてきた飼い主の主人と奥さんはその事は既に知っていました。彼らはマキを自分の息子に任せ、先生のいる部屋から出します。
そして主人は医者に最近のマキの生活を話した後、言いました。
主人「安楽死させてもらえませんか?」
医者「ウチではやっていないよ」
主人「どこかやっている所があれば教えて頂けませんか?」
医者「安楽死なんて勝手すぎる、最後まで面倒みなさい。飼い主でしょう」
マキ「安楽死ってなんですか?」
診察室の入り口でマキは聞きました。彼女は飼い主の息子と一緒に彼が置き忘れた携帯を取りに戻ってきたのでした。
マキの飼い主の二人は答えません、息子も初めて聞いた話に驚いてましたが、医者は言いました。
医者「安楽死っていうのは苦しまないように死なせる事だよ」
それを聞いたマキは笑顔で答えました。
マキ「それはとても良いですね、お願いできませんか?」
医者は彼女の言葉に驚きながら聞き返しました。
医者「死ぬっていう事が分かっているのか? 死んでもいいのか?」
マキ「ちゃんと分かっています。私はこのまま皆に迷惑をかけたまま生きていても辛いだけですから、それなら死んでも構いません」
医者「迷惑かけてもいいじゃないか、それが家族だろう」
マキ「私は、私が歩く時手伝ってもらったり、怖い夢を見て騒いで皆を起こしてしまったり、そんな時、皆がため息をつくのを見たくないんです。皆の疲れた顔は見たくない、笑っていてほしいんです。だから、安楽死させてもらえませんか?」
医者「僕は安楽死なんてさせないよ。確かに君は生きてて辛いかもしれない。だけど死にたいわけじゃないだろう」
マキ「いいえ、私は安楽死の事を聞いた時、分かりました。私は死にたかったんだって」
医者「それは違うだろう。君が一番辛いんだ、君が家族の顔色をうかがう必要はない。一番に甘えていいんだよ」
マキ「先生、私はもう17才なんですよ、そんなわがままは言いません。私はもう長くないから、このまま死なせてください」
医者「死んだら、そのわがままを言えないまま死んじゃうんだよ? 家族に隠し事したまま死んでもいいのかい?」
マキ「私は、私はこれ以上嫌われたくないです」
マキは泣き始めます。
マキ「ご主人様たちが好きだから、嫌われたくないんです。だから先生お願いします」
医者はマキではなく飼い主に話し始めました。
医者「あなた達は本当に安楽死させるつもりなんですか?」
うつむいたまま黙っている飼い主たちにマキは謝りました。
マキ「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
泣き続けるマキに息子は言いました。
息子「僕はマキの事嫌いにならないよ」
その後、医者の元にマキが訪れる事はありませんでした。なので彼にはマキがどうなったのか分かりませんでした。
けれど医者は彼女を安楽死させなくて良かったと信じています。