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二人きりのアヴェンジャー  作者: 菰之村陸
第3章『偶像証明者』
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38「くたばれ、厄介事」

「…………気が重い」

「もっと気楽に行かない、気楽に」

「依頼人の口からそう言われても、気楽にいけないんだわ」


 ひゅるりらひゅるりら。

わざとらしい口笛を吹きながら、フェルトは明後日の方向へと視線をそらす。

あの後、依頼の承諾と共に、外堀を埋めた手筈を褒め称えたのだが、フェルトは冷や汗をかきながら、ペコペコと頭を下げるばかりであった。

引き込むにはこうした方が可能性高くなるって思ったからであって、つきたくて黙っていた訳じゃないんだよぉ~、と。

弱々しさを多重に重ねた声で平謝りしてきた。

別にサナギとしては責めてる訳ではなく、そのやり口については見習うべき部分があったし、謝られることではないけれど。


「はっはっはっ、僕がいるんだから気を抜いても大丈夫大丈夫」

「そう言ってる奴が横にいて安心できないのはお約束じゃないか?」

「……まあ、こう言って気を抜かれてたらそれはそれで困るからいいんだけど。

 とはいえ、適度に気を抜きなよ。肝心な時に使い物にならないのは本当に困るから」


 こうして隣町である『クルトケルト』へと向かう道中、漂う空気はまったりとしている。

移動に用いている馬車は、馬を巧みに操っているガルディオスのおかげか、乗り心地は悪くない。

そして、いざ戦闘になるとしても、、今回はギルトルテもガルディオスもいる。

ノクロについては最初から合体済。戦闘要員が三人揃っている今、安全という意味では程度が高い。


『ある程度、時間を置いたら適度に合体は解除するわよ』

『そもそも。制限があるかどうかすら未知数なんだよな』

『どこまで合体できるか。限界を試したい所だけど、その結果、貴方が死んでしまっては意味がないもの』


 人間と悪魔が合体するなんて事態が未知数である以上、無理はできなかった。

耐久試験なんて行っても、それでサナギの身体が壊れてしまったら、どうしようもない。


「……その肝心な時が来ないことを祈るよ」


 どうにもサナギの直感は、滅多に無い最悪を引き当てることを肌で感じてならない。

当たらないと信じたいものだが、不運は唐突なくやってくる。

不幸の前準備はしておいて損はない。もっとも、こうして故郷を滅ぼされて、復讐の旅路を行く事自体が不幸の極みだけど。

フェルトの軽口を適当に流しながら、ぼんやりと景色を眺めている内に、馬車は順調に進み、町へと到着する。

栄え具合では、ピトーピトとそこまで変わらず。故郷がど田舎だった為、大抵の所は都会に感じてしまうのは恵まれているのか。


「それじゃあ、フェルトちゃんは僕達が見ているから、レンジ君は街を見回ってきなよ。

 聞く限りではこの町は初めてだろう?

 護衛として、土地勘を養っておくのも大事だし、いざという時の逃げ道とか把握しておいてくれると助かるな」

「お前は……聞くまでもないか。興味がないことに対してのめんどくさがりは人一倍だもんな」


 人任せ万歳。それの何が悪い。

サナギからすると、気まぐれな彼の態度にはもう慣れているので、特に何も言わないが。

主な理由は、フェルトの横でマシンガントークをずっと聞かされるよりはましだと思っているからだけど。


『ほんと、積極的な子が苦手よねぇ』

『性根が捻じ曲がっていて、人間性が低い奴等の方が遠慮しなくていいからな。

 お前とか、お前とか、お前とか』

『失礼ね。私は貴方に対しては悪意で真っ直ぐよ?』

『なお、たちが悪いわ。悪魔に人間性を問う俺もどうかと思うけどさぁ』


 逆に、悪魔がびっくりするくらい気立てがよかったら、怖い。

絶対裏があると疑うくらいだ。

そういう意味では、ノクロはわかりやすくて、非常に助かる。

宿の手配をしてくるフェルト達と別れ、サナギは適当に町をぶらつくことにした。

人気の旅芝居が来るからなのか、街の空気は浮ついており、華やかだ。

例えるならば、前世でいうクリスマスシーズンか。

護衛の仕事がなければ、この熱気に身を任せてもいいのだが、生憎とそこまで無責任に振る舞える程、サナギは人間性を投げ捨ててなかった。

信用を得るのは大変だが、失うのは簡単だ。取るに足らない面子の信用ならともかく、今後の付き合いにも影響するだろう面子に不義理は働けない。


『本当に、損な処分』

『利害関係をしっかり考えてるといえ』

『…………まあ、今はいいわ』

『含みがある口振りで、余計な心労を増やさないでくれ』


ノクロについては、一旦置いておいて、こういった状況だからこそ、周りに気を配らなくてはいけない。

いざという時の逃げ道、人通りが多い場所、少ない場所、見るからに治安の悪そうな通り道。

こういったものは他者から聞いた情報だけでは正誤性が微妙だ。

実際に自分の足で通った感想から、判断基準を下していくしかない。

自分が回った後は、ガルディオスやギルトルテも同様に周り、各々の判断ですり合わせていく算段だ。


『よっぽどのことがない限り、大丈夫とは思うけれど』

『そのよっぽどがこの前あったばかりだからな』


都合よく厄介事に遭遇してたまるか。

立て続けに厄介事に巻き込まれる星の下に生まれた訳でもあるまいし、平穏無事に護衛を終わらせたい。

そう、今もこうして視界の端で何だか言い争いをしている男女がいて。


『よっぽど、早速現れたわね』

『馬鹿言うな。まだ、無縁だ。目を合わせず、そっと離れたらセーフだ。

第一、言い争い程度なんだ、巻き込まれたとしても毅然な対応をしたらいい』


うわ、絶対に厄介事だ。

表情に出さなかった自分を褒めてやりたいくらいである。

お約束だとこのまま巻き込まれてしまうのだろうが、そうはいかない。

サナギからすると、赤の他人の厄介事にわざわざ首を突っ込む義理はない。


――ライハや姉さんなら、助けたんだろうな。


特大特上、呆れるくらいのお人好しならば。

優しくて、誰にも負けない勇者様なら、きっと。

ほんのちょっとだけ視線を言い争いの二人に向けて。そして、女の方と目があった。

少し、浸ったのがまずかったのか。サナギは内心、まずいと感じながらも、ここで焦りを見せたら泥沼だ。

平常を必死に維持し、そのままスルーして逃げようとするも、もう遅い。


「そこの通行人」


そんな努力も女から放たれた言葉の前に、粉々に打ち砕かれ。







「私を助けろ」


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