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二人きりのアヴェンジャー  作者: 菰之村陸
第2章『比類なき悪の右手/比類なき善の左手』
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25「護衛依頼」

 率直に言って、ここまでフレンドリーだと大変面倒くさい。

気に入られるにしても、もっとドライな感じが良い。

あまりにも身勝手な理由ではあるが、サナギとしても予想外だったのだ。


「という訳で、専属の護衛になってくれないかなぁ!

 私専属! 私仕様! 一から十まで全部私のもの!」

「清々しいまでに自分勝手……ですね」

「お嬢様だしね、傲慢なのもある種当然だよ! というか、敬語じゃなくていいよ、ほらほら、軽く軽くゥ!」


 快活な笑みを浮かべ、フェルトはひらひらと手を振る。

最初の出会いが例外だったのだろう、本来はこのような性格なんだとサナギは溜息をつきながら結論づけた。


「少しは謙虚になろうという気持ちが……まあ、ないか」

「うん、ないね!」

「即答されると、流石に何も言い返せねぇよ」

「慎重が極まって考え過ぎよりはましじゃない?」

「違いねぇ。言いたいことも言えないよりはな」


 やれやれと肩をすくめ、フェルトは軽くため息をついた。

折角の機会なのに勿体無い。そう言わんばかりに彼女のポーズは大げさである。


「ま、こういうのは本人と相手が問題なければいいんだよねぇ!」

「俺の意見がまるで通されてないこと以外は確かに問題ねぇな」


 フェルトはこれでいて絶妙な距離感を取っている節がある。

その証拠か言葉には親愛が確かに乗っており、冷たさは感じられない。


「わかった。とりあえず、お前の奇天烈な距離感のことはひとまず置いておく」

「うんうん置いておこ置いておこ」

「そんで、お前の護衛になるって選択肢も置いておく」

「なんでぇ!?」

「あのなぁ、そんな出会ってすぐに即決する訳ないだろうが」


 縁を作るとは言ったが、あくまでもある程度深くだ。

ずぶずぶの深い縁を作ってしまえば、いざという時に動けなくなる。

そして、自分の復讐に巻き込んでしまう。


(平然とした顔で巻き込んで、利用するだけ利用して使えなくなったら捨てればいい。

 それが一番最短で効率がいい。復讐を選んだなら、他を顧みる余裕なんてないからな)


 けれど、できない。前世も含めて、サナギは所詮、一般人なのだから。

口でどれだけ強い言葉を使おうと、覚悟は埋まらない。

復讐以外を全て切り捨てるなんて簡単にできるはずもなく。

心中で吐き捨てた言葉は口には出さない。

素の彼女は存外にしつこいということがわかった今、下手に刺激を与えないのが吉である。


「護衛ができないっていうのは、そのお連れさんがいるから?」

「違う。いや、違わないって言っておいた方が断りやすいか」

「弄ばないで!? というか、君、意外と口が達者だね!」


 命の危機であった状況と違い、お互いにある程度は調子を取り戻し、軽口も叩ける。

まあ、前世でいう女子高生なのだから、このぐらいのテンションの高さで当然だ。

本来はおしゃべり好きな性格っぽいし、前世の学生に戻った気分になる。


「彼等、相性いいねぇ」

「ほんとにね。私達を無視しておしゃべりに夢中みたい」

「外野から好き勝手いいやがって。というか、ギルトルテ、いい加減仕切ろよ。

 お前が此処にいる理由も含めて、一体全体何を企んでやがる」


 はいはい、と。ギルトルテは軽く肩をすくめて、一歩前に出て一通り周りを見て、頷いた。


「君等も知っての通り、やんごとなきお嬢様と使用人は実家帰省の途中。

 まあ、道中危険もいっぱいだし? 実際危険だったし? 君がいなかったら、彼女達は間違いなく死んでたし?」

「笑えねえ冗談はやめとけ。俺はともかく、こいつらにはよくねぇ発言だぞ」

「軽口にでも昇華しとかないと、いつまでも引き摺りそうだっていう僕なりの気遣いさ。

 それに、彼等も割り切ってるしね、もう。危険が去ったとはまだ言えないけど、塞ぎ込んでても、ねぇ?」

「その通り! ギルさんが言ってることは正しい!」

「話を戻すよ。まだ、帰省の途中なのに、雇った護衛はほぼ全滅。こんな様で今後も帰省の旅を続けるのは不可能だね」


 話された内容については事実だ。残された使用人もとい護衛はガルディオスただ一人。

この状態で帰省の旅を続けるには危険が多すぎる。

ロスターのような冒険者崩れが襲ってきた場合、今度こそ全滅してしまう。


「だから、新たに護衛を雇う必要がある。今度は簡単にやられないような強い奴を」

「その当てが俺達って訳か」

「そういうこと。一番手っ取り早いのは現地調達。やっぱり自分の目で見て選んで判断するのが、安心も違う」


 ギルトルテの発言から顧みると、自分達は強さも信頼も担保が取れているということだろう。

フェルト達に至っては眼前でロスターを倒した光景を見ている。


「俺が襲った奴らと共謀してうまく取り入ってるとか考えないのかよ」

「考えた上でだよ、これでも僕は人を見る目があるんでね、自信を持って担保するよ。

 というか、本当に真っ黒だったら、自分からそういうこと言わないでしょ」

「アーヴェン様とは既に見解について共有しておりますので、私も同意見です。

 これで真っ黒でしたら演技派もびっくりですな」

「腹芸ができない真っ正直さ……とまでは言わないけれどね」


 褒められているんだか、けなされているんだか。

ともかく、サナギが感じた疑惑は抱かれてないらしい。

昨日の泥酔から、そこまでの思慮深さはないと判断されたとは思いたくないけれど。


「それで、回答は?」

「…………即答はできない」

「だよねー」


 もっとも、彼等の印象に関わらず、サナギの回答は決まっていた。

彼等との縁を作ったとはいえ、深入りしていいものか。

この選択ではいを取ると、彼等とは一蓮托生になってしまう。

確かに、彼等との縁は得難いものになるかもしれないけれど。

そういった意味でもサナギの回答は保留しかなかった。

これで離れる縁であったら仕方なし、潔く諦めよう。


「そもそも、俺は冒険者登録をしていないから、先にそういった手続きを踏まえないと」

「確かに。登録の機会がなかったというか、一応の理由は聞いてたけど。

 どちらにせよ、二人は実家に連絡しないといけないし、回答は急いでないよ。ですよね、ヴォルティさん?」

「そうですね。しばらくはピトーピトで待機。無理に急いでも、またこの前のような苦難に巻き込まれるかもしれませんし」


 結局の所、今回の会合については頭出しに過ぎなかった訳である。

ギルトルテ達もこの場で結論を出すつもりはなく、とりあえず念頭に置かせておくのが目的だ。

そう考えると、サナギ達を呼び寄せる事ができた時点で、彼等の目的は成功である。

まあ、サナギとしても損はしていないし、両者何かしら得るものがあったと言うならそれはとてもいいことだ。


「やーだー、やーだー! ごーえーいしてもらうのー!」


 この駄々っ子お嬢様と出会ったことだけは正直間違いかもしれないけれど。

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