20「泥酔証明」
「ちょっとぉ、あからさまにめんどくさそうな顔しないでくれる?」
「……だって実際めんどくさいし」
勝ち気そうな吊目に、整えられた様子がない藍色の長髪。更には、露出過多とも言えるタンクトップとショートパンツ。
首元に巻いている首巻きがあるから寒くないとでも言うのだろうか。
武器を何もぶら下げていないのは気になる所だが、如何にも荒事専門ですといった風貌である。
そして、何と言っても、目を引くような胸の大きさ――詰まる所、爆乳だ。
サナギ自身、女性慣れしていないからか思わず目を逸らしてしまうぐらいにスタイルがいい。
動く度に揺れる胸は酷く扇情的で、耐性がないサナギからするとどきどきしてしまう。
「そこまで言うことなくない!? あたし、ギルに迷惑かけてないし!」
「普通にかけてるからね。ファルちゃん、結構けじめ案件あるからね」
「うわ、はっきり! もう、泣くよ、泣いちゃうよ!?」
「勝手に泣きなよ……あっ、泣くなら外でお願いね。耳と目が腐るから。
お酒がまずくなるのは僕としては、不本意なんで」
「…………うぅ」
ただ、すごく酒臭い。それはもう、近くにいるだけで酔ってしまいそうなくらいに酒臭い。
顔の赤み、臭いからして既に泥酔一歩手前の状態であろう。
間違いなく、これはめんどくさい案件だ。
セルナと呼ばれる女性へと無遠慮に辛辣な言葉をぶつけているギルトルテからしてもう自明である。
自分に対してフレンドリーな態度だった彼がここまでの態度とは、どう考えても厄ネタだ。
ここで勝手に割り込んでこの二人の碌でもないやり取りに巻き込まれたくはない。
黙って静観して、不穏な空気になったら即座に逃げよう。
「ところで、そっちの奴は? 初見っていうか、この辺りで見たことないんだけど」
このままギルトルテに注視して、こっちは無視してくれて構わなかったのに。
セルナの興味はサナギへと移ったのか、嬉々とした表情で視線を向けてくる。
そんなキラキラとした目をスルーできる程、サナギは薄情になれなかった。
「サナギ・レンジ……です」
「僕の時と違わないかい!? 僕相手にはめちゃくちゃ警戒してたのに!!」
「明らかに胡散臭さ全開で声をかけて、こっちの神経を逆撫でする雰囲気出しておいて何を今更」
「胡散臭くないし、博愛の心で話しかけたのにかい!?」
「その心、もう腐ってるから早めに取り替えた方がいいぞ」
しかし、ギルトルテに対しては何故か鋭い言葉を投げかけられる。
同性かつ同年代っぽいという理由もあるが、何よりも一番は胡散臭さだ。
外見から中身に至るまで、胡散臭さオンリー。
「はいはい、サナギね。あたしはセルナ。【セルナ・ファルハイム】。
というかギルと比べて堅苦しくない? あたしに対しても砕けた喋り方でいいよ?」
「流石に初対面でいきなり砕けられる程、な」
「ええ……それじゃあ、ギルとはそれなりに絆を深めちゃったりしたってこと?」
「いいや、さっき初めて会った」
「何でさ!? あたしとほぼ同じじゃん!?」
これはギルトルテにも言えることだったが、出会って分単位だというのに、すごく馴れ馴れしい。
幼馴染のライハでもここまで積極的ではなかった。
もちろん、男の心情としては爆乳の美少女とお近づきになれるなんて嬉しいが、今のサナギはそこまで気分ではない。
「あ~もう~、ムカムカポンポンッ!」
「そう言われても、性分だからな」
「そこを曲げようよぅ! というか、ギルも冷たい目で見ないでっ」
「うざ絡みしてる先輩冒険者って正直、ないよね」
「どんどん辛辣さが増してってるんだけどぉ!」
最初は一人、静かにたそがれているはずだったのに、どうしてこうなった。
ギルトルテといいセルナといい、ほうっておいてほしい。
「はぁ、こうなったら意地でも距離を縮めるんだからっ」
ふんすと拳を握り締め、決意を固くするセレナを尻目に、そろそろ無理矢理にでも話題を打ち切って逃げようかと思った、その時。
「それじゃあ、死んじゃえっ」
「――――――は?」
その脈絡のない言葉が耳に入ってくるのと同時に、セレナが動く。
身動きなど、取れない。全て、彼女の動作の方が速い。
握り締めた拳はそのまま後ろに引かれる。強く、しなやかに、真っ直ぐに。
綺麗で、鋭い一撃だった。残像すら残さぬ速度で、その拳は放たれた。




