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二人きりのアヴェンジャー  作者: 菰之村陸
第1章『悪魔と復讐と少年と』
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12「ライハとコナギの華麗なる放課後」

 ライハ・ストルトースには、生まれた時から世界が煌めいて見えた。

木々のせせらぎ、穏やかに吹く風、空に浮かぶ太陽。

周りにとっては当たり前と断じるものにも素晴らしさを感じ取れる感性の強さを、彼女は持ち合わせていた。

そして、それに付随した善良な志がライハを真っ直ぐに成長させた。

その真っ直ぐさを辟易しながらも、嗤わない幼馴染に、微笑ましく見守る両親。

加えて、奇跡とも称せられる才能を持ったことが、彼女の成長に拍車をかける。

両親はその才能を肯定し、幼馴染はほんの少しの嫉妬を感じながらも、優しく送り出してくれた。


 ――頑張らなくちゃ。


 内に秘めた意志は瞬く間に燃え上がり、努力は実を結ぶ。

検査で認められた才能を開花させるべく、彼女は王都に来てから研鑽を怠らなかった。

元々正義感が強く、名前も知らぬ誰かを助けることを苦としない少女だった。

この才能が周りの一助となり得るならば、磨き上げてみせよう。

学業も、剣技も、魔法も。全て兼ね備えてこそ、である。

そんな才能ある者が他の人が眼を見張るくらい努力をしたら、それはもう強くなるに決まっている。

周りもそんな彼女を見て、相乗効果で上へと押し上げていく。

 

 彼女の世界は、光り輝いている。

ライハだけが上るのではなく、周りもそれに釣られて高みへと上っていくのだ。

輝かしい王道を歩む少女を見て、自分も、と。奮起する人間が徐々に増えていった。

天性の光とでも言うのだろうか。誰が呼んだか、彼女のことを最近はこう評されるようになってきた。


 ――英雄、と。


 大層な肩書が彼女に付き纏い始めたが、ライハの目指す先は全く変わらない。

今も、彼女は王都で、将来の為に学んでいる。

とはいえ、つれつれと授業に集中できない時もあるが、それはそれだ。

教卓で教鞭をとっている教師の話がまるで耳に入ってこない。

これでは、サナギのこと言えないな、と。誰にも気づかれない程度に口元を緩める。

幸いなことにライハの席は窓際なので、気晴らしに窓からぼんやりと外の景色を眺めることができる。


(会いたいなあ。今頃、サナギ、何してるんだろ)


 見上げた青い空と白い雲はサナギのいるカイフルトにも繋がっているのだ。

いつか、交わした約束である手紙は案の定、そんなに来ない。

筆不精の彼のことだ、面倒くさいとかかったるいとか色々理由を付けてサボっているに違いない。


(サナギなら、こんな授業サボったって問題ないって言うんだろうけど)


 そんなにも集中できないなら、授業なんてサボってしまえばいい。

彼ならそういった事を言うだろうが、生憎とライハは品行方正で通っている。

それに、学生としての日々の趣を疎かにしない。

どんなに周りが持て囃そうとも、まだ少女なのだ。

それでも、学生生活の傍ら、ライハは人助け、魔物退治など様々なものに手を出した。

その過程で今、彼女は冒険者として活動している。

勿論、若輩者ではあるし、周りのサポートこそあるが、こういったケースはそこまで不思議がられるものではない。

自分と同じように実力ある者は冒険者になったり、飛び級で研究所で助手になっていたり、と。

学生の身分でありながら、悪を挫き、弱き者を助ける正義の学生冒険者。

ゆくゆくは国に召し抱えられるかもしれないが、今はこれでいい。

仲間と一緒に、強くなれたらそれでいい。


「ライハちゃん、今日はどうする?」


 ぼんやりと今後の展望について考えていると、いつの間にかに授業が終わっていたらしい。

一緒の教室で学んでいるコナギがとてとてと近づいてくる。

傍目から見るとぽややんとしたおっとり系の女の子だが、弟であるサナギが絡むと途端に暴走する恐ろしい親友である。

寮では同室であるが、常に弟君日記を付けていたり、少し気を抜けば、弟が近くにいない悲しみのあまり、突然発狂したりするが、それもまあ、些細なことだ。


「軽く良さげな任務がないか見に行って、なかったらそのまま直帰。最近、学業疎かだし、復習しておきたいなって」

「それなら、私も付き合うよ。今日の分のサー君日記はもう書き終わっているしね」

「何冊目? もうすぐ十冊目だっけ? というか、いつまで書くのさ。分厚い日記帳の置き場をいい加減考えないといけないんだけど」

「サー君と添い遂げて、一緒のお墓に入るまでだけど?」

「……重いなぁ」


 自分なんかより、彼女の方がよっぽど重症である。

コナギもまた、故郷に中々帰れていないので、弟への想いがいつ溢れることやら。

せめて、彼女にくらいはまめに手紙を書いてあげたらいいのに、当然の如く放置気味だ。


「冒険者にならなければ、サー君ともっと会えたのかなぁ」

「それはどうだろう……?」


 自分と共に王都に来た彼女もまた、ライハ程ではないが、才能溢れる学生である。

冒険者として、ライハのグループに所属しているコナギは、将来はサナギを心身共に護れるように、研鑽を怠らない。

努力の方向性は間違っていないのだが、理由が狂っている為、ライハはもう突っ込むことをやめた。


「サナギのことだし、私達が近くにいなくても元気にやってるよ」

「…………」

「ああ、うん。そんなサー君日記に珈琲を零したような顔を。忙しいもんね、私達。でも、これも将来、生活に困らないようにする為だって、コナギも納得したでしょ。

 こうやって、多方面で伝手だったり作っておけば、将来サナギが王都に来た時も困らないじゃん?

 まあ、村で彼女を作ったりしてて来ないかもだけど」

「………………おげぇ」

「女の子が出しちゃいけない声はやめよう! まだここ学校だから!」


 ここ数年は学業や訓練、冒険者としての活動から、故郷に帰ってのんびりすることができないからか、サナギともご無沙汰である。

もっとも、領主や貴族でもないのだから、気軽に里帰りはできないのだけど。

何をするにもかかるのはお金と時間だ。冒険者として任務をこなしてはいても、浪費ができる程、潤沢ではない。

いくら学費をある程度免除されているからといって、里帰りに全額開放はライハもできない。

それに、何かあった時にいつでも使えるように貯蓄は欠かせなかった。

コナギなど、稼いだお金は消耗品や装備を抜かすと、ほとんどサー君貯蓄である。


「お、あ、あ、がが、がが、が」

「本当にサナギが絡まなければ、まともなんだけど……」

「私は普通だよ! ちょっとサー君への愛が強いだけだよ!」


 隙あらば、カイフルトへと帰ろうとするコナギを抑えるのはライハにしかできない役目だ。

というか、他の事情を知らない人に押し付けたら、それこそ身内の恥になる。

一応、自分達にも外面というものが存在し、カイフルトでは微笑ましく見守られていた彼女の弟狂いも、ここでは奇異の視線で見られかねない。

何とかして抑えなければ。ライハが通算何度目か数え切れない程の決意を固めている時。


「やあやあ、お二人さん。今日も仲睦まじくて何より」


 その決意を洗い流すかのような、脳天気な声が割り込んできた。

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