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二人きりのアヴェンジャー  作者: 菰之村陸
第1章『悪魔と復讐と少年と』
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0「鏖殺の比翼連理」

 戦い、抗い、奪い合う。

戦場に観客席は存在しない。誰もが等しく死の恐怖を身に纏い、戦っている。

人は死ぬ、魔物は死ぬ。勇者であっても、魔王であっても。

立場なんて何の役にも立ちやしない、強さを持ち合わせていなければ、生き残れない。


「生存者は零。皆死んじまったな」

「あら、私達がいるのだから零ではないわ」

「じゃあ、一」

「私を含めて二でしょ」

「お前は数えたくない」


 屍が転がっている。人も死んだ、魔物も死んだ。そこはかつて、村だった。

過去形ではあるけれど、人の営み、明日への希望で溢れていた幸せがあったのだ。

永遠とは言わないが、少なくとも自らが老いて死ぬまでは続いていく。

そんな根拠のない予測を抱いて、誰もが過ごしていた。

されど、されど、だ。

世界は不条理が蔓延っていて、日常は何の予兆もなく終わってしまう。

平和な日常は、この景色からはもう融解して跡形もなく消えている。


「しかし、酷い有様だ。自衛の戦力が整っていようが滅びる時は滅びるもんだな」

「大都市でもない限り、常にこういった事態は身近にあるでしょう?」

「違いない、ああ、本当に」


 そんな終わってしまった光景の中に、少年と少女はいる。

少年は軽装の冒険者らしい服装であるが、少女はなんとナイトドレス。しかも、露出過多といえるぐらい、肌が見えている。

しかし、そんな少女に対して、少年は全く意に介さない。少年の表情は疲弊。少女はそれを嗜めるように苦笑い。

少女の態度に辟易したのか、少年は額に掌を当てて、前髪をぎゅっと握り締める。


「とりあえず、残った魔物は全部殺すとして」

「ええ、そうね。それはともかくとして」


 慟哭しながら潰える命を見た。一切の例外なく、人は死んだ。

爛々と炎が上がる建物。ねじ切れた肉塊。異形の叫び声。

ここにある全てが、悲劇だ。見るのも背けたくなる、成れの果てだ。

熟練の冒険者、清廉なる騎士、勇猛なる猛者も無反応ではいられまい。




「今日のご飯がない!」

「今日の宿がないわ!」




 しかし、この二人、欠片もこの地獄を気にしていない。

まあ、仕方ないよねと言わんばかりに平常通り。

死んだら、燃えたらもうお終い。頭の中にあるのはこれから先の展望だ。


「どうするんだよ、お前。こんな有様の村救っても何の得もないぞ」

「そうよね。せめて、生き残りがいたらよかったのに」

「間に合うかなぁ~って思ったけど、ご覧の有様だよ!」

「全く、少しは持ち堪えなさいよね。一人の生き残りもいないなんて弛み過ぎじゃない?」


 死人に聞こえないからと二人は辛辣に言葉を投げつける。

廃村確定の村を救った所で何があるというのか。

生存者もなし、建物は崩壊、田畑は見る影もない。

ご大層な領主様に救いました~とひけらかしても怪しまれる、げんなりである。


「もう、さっさと魔物を潰して帰ろう、次だ次。俺はご飯が食べたい」

「ちょっと、それよりも金目のものを物色しないと」

「この有様で残ってるかぁ? それに、貧しい村っぽいし期待はできないぞ」

「もしかしたら没落した名家的なものがあるかもしれないじゃない。

 物色する前から決め付けるのはよくないわ」

「へいへい。そんじゃ、さっさと漁る為にも邪魔者にはご退場ということで」

「ふふふっ、邪魔者と魔物をかけているのね、ふふっ」

「かけてねえよ!? ほんと、緊張感皆無だな!?」


 吐き出しそうになった溜息を噛み砕き、少年と少女は手を取り合い、目を閉じる。

理不尽蔓延る世界に、ファックサイン。うるせえ黙れ知ったことか。

何であろうと、邪魔をするなら叩き潰す。


「装悪」


 その言葉と同時に、圧が深まった。

最強の身体と最強の中身。一人では何もできない出来損ない。

されど、二人で手を取り合えば数倍、否――数十倍。

彼らは鏖殺の比翼連理。二人で一つ。地獄であろうとも変わらない唯一無二。

遂げるのは復讐。告ぐのは必滅。理不尽を強いたモノを彼らは許さない。


 ――始まりが理不尽ならば、終わりもまた、理不尽である。


 貫き通せば、嘘も真実もわからなくなると信じて。

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