0「鏖殺の比翼連理」
戦い、抗い、奪い合う。
戦場に観客席は存在しない。誰もが等しく死の恐怖を身に纏い、戦っている。
人は死ぬ、魔物は死ぬ。勇者であっても、魔王であっても。
立場なんて何の役にも立ちやしない、強さを持ち合わせていなければ、生き残れない。
「生存者は零。皆死んじまったな」
「あら、私達がいるのだから零ではないわ」
「じゃあ、一」
「私を含めて二でしょ」
「お前は数えたくない」
屍が転がっている。人も死んだ、魔物も死んだ。そこはかつて、村だった。
過去形ではあるけれど、人の営み、明日への希望で溢れていた幸せがあったのだ。
永遠とは言わないが、少なくとも自らが老いて死ぬまでは続いていく。
そんな根拠のない予測を抱いて、誰もが過ごしていた。
されど、されど、だ。
世界は不条理が蔓延っていて、日常は何の予兆もなく終わってしまう。
平和な日常は、この景色からはもう融解して跡形もなく消えている。
「しかし、酷い有様だ。自衛の戦力が整っていようが滅びる時は滅びるもんだな」
「大都市でもない限り、常にこういった事態は身近にあるでしょう?」
「違いない、ああ、本当に」
そんな終わってしまった光景の中に、少年と少女はいる。
少年は軽装の冒険者らしい服装であるが、少女はなんとナイトドレス。しかも、露出過多といえるぐらい、肌が見えている。
しかし、そんな少女に対して、少年は全く意に介さない。少年の表情は疲弊。少女はそれを嗜めるように苦笑い。
少女の態度に辟易したのか、少年は額に掌を当てて、前髪をぎゅっと握り締める。
「とりあえず、残った魔物は全部殺すとして」
「ええ、そうね。それはともかくとして」
慟哭しながら潰える命を見た。一切の例外なく、人は死んだ。
爛々と炎が上がる建物。ねじ切れた肉塊。異形の叫び声。
ここにある全てが、悲劇だ。見るのも背けたくなる、成れの果てだ。
熟練の冒険者、清廉なる騎士、勇猛なる猛者も無反応ではいられまい。
「今日のご飯がない!」
「今日の宿がないわ!」
しかし、この二人、欠片もこの地獄を気にしていない。
まあ、仕方ないよねと言わんばかりに平常通り。
死んだら、燃えたらもうお終い。頭の中にあるのはこれから先の展望だ。
「どうするんだよ、お前。こんな有様の村救っても何の得もないぞ」
「そうよね。せめて、生き残りがいたらよかったのに」
「間に合うかなぁ~って思ったけど、ご覧の有様だよ!」
「全く、少しは持ち堪えなさいよね。一人の生き残りもいないなんて弛み過ぎじゃない?」
死人に聞こえないからと二人は辛辣に言葉を投げつける。
廃村確定の村を救った所で何があるというのか。
生存者もなし、建物は崩壊、田畑は見る影もない。
ご大層な領主様に救いました~とひけらかしても怪しまれる、げんなりである。
「もう、さっさと魔物を潰して帰ろう、次だ次。俺はご飯が食べたい」
「ちょっと、それよりも金目のものを物色しないと」
「この有様で残ってるかぁ? それに、貧しい村っぽいし期待はできないぞ」
「もしかしたら没落した名家的なものがあるかもしれないじゃない。
物色する前から決め付けるのはよくないわ」
「へいへい。そんじゃ、さっさと漁る為にも邪魔者にはご退場ということで」
「ふふふっ、邪魔者と魔物をかけているのね、ふふっ」
「かけてねえよ!? ほんと、緊張感皆無だな!?」
吐き出しそうになった溜息を噛み砕き、少年と少女は手を取り合い、目を閉じる。
理不尽蔓延る世界に、ファックサイン。うるせえ黙れ知ったことか。
何であろうと、邪魔をするなら叩き潰す。
「装悪」
その言葉と同時に、圧が深まった。
最強の身体と最強の中身。一人では何もできない出来損ない。
されど、二人で手を取り合えば数倍、否――数十倍。
彼らは鏖殺の比翼連理。二人で一つ。地獄であろうとも変わらない唯一無二。
遂げるのは復讐。告ぐのは必滅。理不尽を強いたモノを彼らは許さない。
――始まりが理不尽ならば、終わりもまた、理不尽である。
貫き通せば、嘘も真実もわからなくなると信じて。