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頭こぼれて  作者: nyone
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第8話 テレビ・カード

※本項は多少人種差別とも取れる要素があるため、不快に思われる方は閲覧ご遠慮願います。

※本項は多少性的とも取れる要素があるため、不快に思われる方は閲覧ご遠慮願います。



 先日、秘密結社の会合のためシティーに赴いた時の事である。

 会の開催に先立ち、その日泊まる予定のビジネスホテルにチェックインした折、俺は廊下の隅にひっそりと佇む直方体の自販機を見つけた。

 それは通常の飲料や煙草の自販機とは比べる事も出来ぬ程小さく、説明を受けねばなんなのか分からない程に何も書かれていない。

 テレビ・カード販売機である。

 

 俺はビジネスホテルが嫌いではない。寧ろ好きだ。

 ビジネスホテルがどうこうというよりも、あの無機質な空間に染み付いている『出張感』のようなものが好きなのかも知れぬ。

 俺は職業柄出張というものがないため、出張という行為そのものに飢えている可能性があった。


 なんでもない平日、溜まった有給を消化するも予定がなく、暇を持て余している。

 掃除も洗濯も終えてしまった正午前、何気なしに車を出し、道中の国道沿いにあった食堂で昼飯を食べる。山あいを適当に走り、隣県の大きな街に着く頃にはすっかり夕方である。俺は手元の携帯を取りブラウザを立ち上げ、近くの目ぼしいビジネスホテルの当日予約を取る。車を適当なコインパーキングに停める。


 地元の居酒屋でぼっち飯を食いながら生ビールを飲み、寂しい系ツウィート(恥)を実施する。腹が満たされたところで気になっていたバーに立ち入りジントニックとモルトを数杯、ほろ酔い気分で宿に帰る。俺はホテル一階に併設されたコンビニでもって缶チューハイとカップ麺なんぞを買い求め、部屋で一人宴の続きと洒落込む……そういう事で確実に満たされる精神的バロメーターが確実に、これは、ある(同意求む)。


 ところで、ビジネスホテルにはテレビ・カード販売機なるものがある。販売機にて購入したテレビ・カードを部屋のテレビジョンに挿し入れれば、通常の民放や国営放送と異なる、淫猥いんわいなる有料放送を視聴する事が出来る。そうした設備がある場合、各部屋の壁際には、何日の何時にどんなセクシー・プログラムが放映されているのかという番組表が置いてある。


 日本人男性の九割九分は、ビジネスホテルの部屋に入れば、何は無くとも番組表を確認する可能性がある。テレビ・カードを買う買わないに関わらずである。

 まあそれは良いのだが、チェックアウトの時間を確認するためテレビ台下の冊子を開いた折、とある頁にお知らせのようなポスターを見つけた。

 どこか途上国の恵まれない黒人の子どもが写っている写真が添付され、その横にこんな文面が書いてある。


『皆さまからいただいたビデオ料金の一部を、公益社団法人○○に寄付させていただいております』


 確かこういったニュアンスの文面だった筈である。 

 これには、さすがの俺も衝撃を受けた。


 俺は、以前からこういった『恵まれない子どもたちへの寄付』というものに不思議な違和感を覚えていた。その違和感の正体を突き止めぬまま放ったらかしにしていたのだが、俺の師匠が同じ考えだったらしく、曰く、


『僕は難民遺児に対する募金や寄付をずっとしていたが、ある時を境に止めた。することなくてセックスばかりして、子供をポロポロ作る貧乏国の難民遺児はそれほど可哀そうに思わなくなったからだ。地球上の人口は今現在72億人、毎年8,000万人ずつ増えている。そのうち6,500万人はアフリカだ。アフリカの子供達は、自力で生き残れるだけにしなきゃ大変だ。それを「可哀そう」だけでやっていたら、日米欧や将来経済成長するアジアの子供達の背中にアフリカの乞食みたいな連中が伸しかかってくる。ようやく今の歳になって分かったが、「可哀そう」とか「助けたい」とかいう気持ちと行動は自分の生活の範囲内に留めないといけない(一部編集有り)』


 極論なのかも知れぬが、その意見は大いに賛同出来るものだった。

 自分自身さえ食うや食わずやの環境で、どうして子どもなど作れようか。そしてそした性活の中で生まれた子どもの写真を使って他国の人間から募金を募ろうとは何事か。

 そのポスターを見て、俺はなんだか悲しくなってしまった。

 

 俺はシーツの張られたベッドにどかりと腰掛け、目を閉じて、疲れた中年のサラリーマンの姿を幻視した。


 突如決まった急な出張である。面倒だと周囲にうそぶく内心、中年はわくわくしている。それもその筈、中年が30代の頃、35年ローンでもって購入した自宅には妻と年頃の娘が居る。妻とは最近ご無沙汰である為、彼は性欲を持て余している。

 出張にかこつけて、見知らぬ土地に至った彼は、ホテルのチェックインの手続きを早々に終えるとエレベーターに乗る。エレベーターの案内板によると、テレビ・カードの販売機は三階のようである。中年にあてがわれた部屋は六階であるが、彼は迷わず三階のボタンを押す。三階廊下、中年は周囲に他の客が居ないかを警戒しつつも、少年のように軽やかな足取りで件の自販機に辿り着く。財布から取り出したしわくしゃの千円札を販売機に差し込む……永遠にも思える数秒の後、機械から吐き出されるテレビ・カード。中年は早速に部屋に引き篭もり、熟女ものだの女子大生ものだのいうアダルト・コンテンツを食い入るように見つめつつ一心不乱にセクシーに耽る……


 そういった極東大国のしがない性生活にて払われた金の一部が途上国に送られ、その金をアテにした生活の中で、現地の彼らによる動物本能的大セックス・パノラマが展開される。その後、我が国にはまたぞろ恵まれぬ腹をすかせた子ども達の写真が送られ、今以上の寄付が要求される。子ども達の写真は、高級なカメラでも使っているのだろう、大体良く撮れている。


 さて、中年の悲しみのスペルマの行く末は何処にあろう。

 真に搾取されているのは一体どちらであったろう。


 そこまでで思考を打ち切り、俺は溜息を一つつき、テレビジョンを消して部屋を出て、秘密結社のアジトに向かった。



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