その5
(5)
それから一時間ほどかけて二人は、ゆっくりと料理を食べた。金額の事が気になっ
てしまって藤本教授にはほとんど料理の味など分からなかったが智遊は美味しそうに
料理を平らげた。
「ああ、美味しかった。ねえ、先生。この店は当たりでしょ?」智遊は満足そうな表
情で言った。
「そうですな。確かに旨かった」
藤本教授は水を飲みながら話を合わせた。
「先生、実はね。あの写真に写ってたのは『無用の鍵』の扉なんです」
突然、智遊はコソコソと小声で言った。藤本教授は思わずブッと水を吐き出し
てしまった。それを見て智遊はしかめっ面をする。
「先生、大丈夫ですか?これで口を拭いて下さい」
智遊はポケットからハンカチを取り出すと手渡した。藤本教授はそれを受け取ると
口を拭った。ハンカチには香水が染み込ませてあるのかして口元に運ぶと良い香りが
した。
「失礼。可額さんが突拍子も無い事を言うもので」とハンカチを返しながら言った。
「別に大した事じゃないですよ」智遊は何でも無いように言った。
「可額さん、あなたには何も分かっておらん。あの『無用の鍵』が万が一にでも無用
でない事が分かったら世界中の学者連中が黙っておらんですよ。まさに今世紀最大の
大発見だ!」藤本教授は興奮して言った。
「ですけど、それは扉が見つかってキチンとした結果が出たらの話でしょ?」
「まあ、それはそうだが」
「それでね、先生。遅くなりましたけど、私の願いって言うのは写真に写ってる扉を
先生に見つけてもらうことなんです」智遊は言った。
藤本教授は一瞬、自分の耳を疑った。
「失礼、可額さん。何とおっしゃいましたか?」
「ですから先生に扉を見つけて出して貰いたいって言ったんです」智遊はくり返した。
その言葉をまともに聞いた藤本教授は意識を失い、ガタンとテーブルに倒れ伏した。