その2
(2)
藤本教授は女に言われた通りに正門の前にやって来ると女が車で迎えに来てくれる
のを待った。しかし、十分が過ぎ十五分が過ぎても女は現れなかった。通り過ぎる学
生達がジロジロとこちらを見ていた。恥ずかしさのあまり穴があったら入りたい気分
だった。待ち合わせしてる感を強調するために時計を見てみるが、次第に不安が増し
てきた。やはり、からかわれているだけなのだろうか?藤本教授は思った。きっとそ
うに違いない。あんな若くて奇麗な子が年寄りなんかに構ってくれるはずなどないの
だ。きっと今頃はどこかで仲間達と間抜け面のわしを眺めながら大笑いをしているに
違いない…。
そう勝手に決め付け諦めて帰ろうとした時だった。一台の赤いスポーツカーが近づ
いて来て、クラクションを鳴らした。藤本教授が振り向くと、赤い車からは先ほどの
女が出てきた。女はサングラスを外すと、こちらに近付いて来た。
「遅れてゴメンなさい。駐車場の出口が混んでいたもので。待ちましたか?」
女は悪戯っぽく微笑むと頭を下げた。。
「いやいや、わしも今しがた来たところだよ」藤本教授は嘘をついた。
「それじゃあ、行きましょうか。乗って下さい」
女は再びサングラスをかけると運転席に乗り込んだ。藤本教授は女に言われるまま
助手席に乗り込んだ。近くに溜まっていたいた学生達がチラチラとこちらを盗み見し
ている。『ふん、ざまあみろ!』わしは本当に待ち合わせをしておったのだ、と激し
く思った。
「先生?」女が怪訝そうな表情で言った。
「な、何ですか?」
「どうしたんですか、ボケッとして。出発しますからシートベルトを締めて下さい」
女は言った。藤本教授は慌ててシートベルトを締めようとしたが、うまくいかない。
しばらく、モゾモゾとしていると女が笑いながら助けてくれた。
「先生、ちょっと貸してみて下さい」
女は藤本教授の手からシートベルトの金具の部分を受け取った。その時、女の柔ら
かな手が触れた。思わず顔が赤くなってしまう。しかし女はお構いなくカシャッと云
う気持ちの良い音を立ててシートベルトを締めた。
「これで良しと。では行きますよ」
女はそう言うと車を走らせた。