その4
いろいろ実験的に書いております。
「はーっはっはっはっはっは!」
馬部流学園に程近い新小田通り。主に学生向けの店舗が立ち並び、授業が半ドンだった今日のこの時間帯、若者達でにぎわうその場所は今正に阿鼻叫喚の渦に巻き込まれようとしていた。
「さあ、行きなさい。私の作品ナンバー330、ホワイトモンキー!」
「うきいっ!」
メインストリートの中央で馬鹿笑いをしていたのは次元を越えてやってきた侵略者集団“プルートー”の幹部、ドクターだった。そして、その傍には異形の影が。
「うきゃきゃきゃきゃきゃ!」
「「「「「きゃあああああ!!!」」」」」
奇声を上げながら女子高生のグループに突っ込んでいったのは体調およそ3メートルほどの異形の猿人だった。
その顔は人間の風貌をしているが、手足は長く、それぞれ真っ白な毛皮で覆われている。服を着込んで、その背中には自身の身長よりも長い棒を背負っていた。
「うきゃ? うきゃきゃ!」
「きゃあっ!?」
俊敏な動作でグループの中の女子を一人捕まえると……
「い、いやー!?」
いきなり胸をもみ始める。
「ちょ、やめてー!? 変態ー!?」
「うきゃきゃ!」
ひとしきり女子高生の胸を堪能した後、特に何もせずにその子を開放するホワイトモンキー。ほっと安堵の息を吐く少女、しかし、
「え? あれ? ちょ、私のブラが!?」
「うき?」
気が付いたときにはホワイトモンキーの手の中に水色の下着が。
「いやー!? お気に入りだったのにー!?」
「うきょきょきょきょ!」
崩れ落ちる女子高生を残して、ホワイトモンキーは新たなる獲物を求めて走り去る。
「うーむ。私としてはもう少し年下を狙ってほしいのですが。元となった実験体の意識が影響しているのか?」
主に女子中高学生をターゲットにセクハラを繰り返すエロ猿を眺めながら、そんなことを呟くドクター。微妙に不満らしい。
ピンポンパンポン
番組の途中ですが、緊急通信が入りました。
(作者ぁぁぁぁぁ!!! 何で俺様がこんな扱いなんだよおぉぉぉぉぉ!!!)
(えー? 君の出番がなくなりそうだったから出してあげたのにー)
(だからってこれは無いだろうこれは!? 普通は天真のクラスメイトとかそんなんだろう!?)
(いや、主人公はシェリナだし。その設定だと君出番ないよ?)
(う、し、しかし……)
(書いたけど容量の関係で出番が削られた凍夜よりは扱いが上だと思うんだけど)
(むしろすっぱりと切ってもらったほうが良かったわ!)
(いや、それだと怪人のネタが無くてさー。というわけで諦めてくれ。大丈夫、好きなだけ暴れられるから)
(だからそれがやばいって……、作者? おい作者? ちょ、俺様の話はまだ)
(女性への上記のような行為は犯罪になります。読者の皆様は決してまねをしないようにしてください。それでは)
(それは当たり前だけど俺様の話を)
ガチャ。ツーツーツー。
失礼しました。それでは続きをどうぞ。
そうこうする内に警察が駆けつけてホワイトモンキーを包囲する。
「な、何だこいつは?」
「に、人間? いや、猿か?」
「何で女物の下着をたくさん握り締めているんだ?」
対象を銃で威嚇しながら困惑の声を上げる警察官達。今まで遭遇したことの無い出来事なのだから当然といえば当然の反応なのだが。
「ふむ、この世界の守護者達ですか。丁度良い、戦闘データも集めておきましょう。ホワイトモンキー!」
「うきゃ!」
ドクターの声に反応し、疾風のように包囲網の一角に近づくや否やその長い腕を一閃する。
ドゴォッ!
「うがっ!?」
豪腕が警察官を3人同時にごみくずのように吹き飛ばす。あまりの出来事に他の警察官達は対処ができない。
「う、うわあああああ!?」
パンッ! パンッ!
恐慌状態に陥った一人が狙いも定めずに発砲。だが的が大きいのが幸いし、その弾丸は眼前の巨躯に吸い込まれ……
バチッ!
謎の発光を残して弾かれる。その結果に唖然とする警察官達。
「そんな魔術処理も施していないただの鉛玉では、魔力障壁を通常兵装に持っている私の作品に傷一つ付ける事は出来ないと言うのに。まあ、この世界の文明レベルではこの程度ですか。ホワイトモンキー、もういいですから邪魔な人たちを片付けちゃってください」
するとホワイトモンキーは動きを止めて両腕を頭上に振り上げる。一体何事かと周囲の警官達が思った次の瞬間―――
風が唸りを上げ、ホワイトモンキーの周りに渦を巻き始める。そして次の瞬間!
「うっきー!!」
腕を振り下ろすと同時に、周囲に発生する風の衝撃波。
「―――――!?」
悲鳴すらその中に飲み込まれながら吹き飛ばされる警官達。すべてが終わった後、立ち上がる者は一人もいなかった。
「風の魔術との相性は予定値+30%ですか。思っていたよりも効果がありましたね」
目の前の結果に満足そうに頷くドクター。と、その時、
「てめえかっ。この騒ぎの犯人はっ」
「咲! だめだよっ」
その声にドクターが振り向く。視線の先にいたのは誰であろうシェリナの友達の萌と咲であった。
「この野郎、あたいのシマを荒らしやがって。ゆるせねえ!」
「咲! 落ち着いて! 警察の人達でも敵わなかったんだよ! 咲が勝てる相手じゃないよ!」
「そんなもん、気合と根性でどうにでもなる!」
「だめだって! このままじゃあ私達、敗北→陵辱ルート一直線だよ!」
「……いや、お前の脳内ではこの後どんな展開が」
「だめっ、そんな触手なんて!? ああ、そんなところにまで!?」
「萌、とりあえずお前が落ち着け」
ちなみに二人はそれぞれ買出しと集会の帰りにばったり会って、せっかくだからちょっと喫茶店にでも、という所でこの騒ぎに巻き込まれた。
そんな二人を無言で見つめるドクター。やがて、
「見つけたー! お持ち帰りいいい!」
「ひぐ○し!?」
ドクターの奇声にいち早く反応する萌。といいますか、あなたはその年であの惨劇を繰り返していたのですか。
「美少女発見! ホワイトモンキー! 2名様お持ち帰りです!」
「あ、あたいたちは食いもんじゃねー!」
「いやあああああ!? 監禁調教プレイ!?」
それぞれが勝手なことをほざいている間にもホワイトモンキーは迅速にマスターの命令を実行しようとする。これまでかと思われたその時!
「はあっ」
「ごふっ!?」
突然、二人と一匹の間に乱入する影。長い黒髪を背後に流しながら3メートル以上の巨体を吹き飛ばしたのは……
「二人とも、大丈夫?」
「雪姉!」
「雪さん!」
シェリナの姉、紅凪雪その人であった。ちなみに二人は雪との面識がある。正義のヒーローよろしく助けに入った彼女の手には物干し竿。
「時間が無くてこんなものしか用意できなかったけど、間に合ったみたいね」
「雪姉! いくら雪姉でもあんな化け物相手じゃ」
「分かってる。私が時間を稼ぐから、二人はその隙に逃げなさい」
「でも、それじゃあ雪さんが」
「大丈夫。二人が逃げたら私も逃げるわ。それより、来るわよ」
視線を向けると、ようやく起き上がった大猿がこちらを睨み付けて……
「あれ、なんか様子が……」
萌の言う通り、ホワイトモンキーの様子がおかしかった。じっと三人、いや、雪を凝視している。しかも顔を赤く染めて、鼻息が荒い。
「な、何……」
そのただならぬ様子に少しおびえた表情で後退する雪。
「あーこれはもしかして……」
その様子を興味深そうに観察するドクター。そして、
「うっきゃあああああああああああああああああああ!!!!!」
「「「きゃあああああああ!?」」」
突然雄たけびを上げるホワイトモンキーに、びっくりする三人。だが、そんな様子も目に入らないのか、ホワイトモンキーは狂ったようにその場を駆け回り、バク転し、飛び跳ねる。
「な、何が……」
「あー、そこのお嬢さん」
「はい? 私ですか?」
いきなりドクターに話しかけられて、きょとんとした表情を見せる雪。
「どうやらホワイトモンキーはあなたに一目惚れしたみたいです」
「はあ……、ってええ!?」
突然すぎる展開に目を白黒させる雪。と、ホワイトモンキーがその挙動を止め、雪の前まで歩いてくる。
「な、っく!?」
あわてて構えを取る雪。ちなみに雪は武術の道場をやっている天真の家で薙刀を習っていて、その腕前は達人の域に入ろうかと言うほどに凄まじい。
そんな雪の様子を見つめながら懐に手を入れるホワイトモンキー。そして取り出したのは……
「うきゃ」
「……はい?」
大粒のダイヤがはめ込まれたプラチナのリングだった。
「『給料3ヶ月分です。結婚してください』だそうです」
「給料あるのか!? それ以前に言葉分かるの!? というか結婚って早!? 一目惚れにも程があるぞ!?」
「咲、そこまで全力で突っ込みを入れなくても。気持ちは分かるけど」
外野の喧騒をよそに、先ほどまで女の子に痴漢行為を働いていたとは思えないくらいに真剣な表情で、雪を見つめるホワイトモンキー。
「え、えっと……」
その真摯な瞳に見つめられて雪は……
「ごめんなさい! 私好きな人がいるんです!」
深々と頭を下げて拒絶した。
「!?」
ホワイトモンキーの全身を走る衝撃。耐え切れず、膝から崩れ落ちる。彼は男として大事な部分で敗北したのだ!
「……なんだろう、なぜか涙があふれてくる」
「……泣くな萌。やつは男として立派に戦ったんだ。その男の最後に涙は似合わねえよ」
その哀愁漂う背中に誰もが涙を抑え切れなかった。やがてホワイトモンキーは肩を落としながら去っていく。彼女への未練を断ち切るように。一度も振り返らずに。
その肩に手を置いて並ぶドクター。その顔には分かっているといった風な笑みが。その瞳には涙が。
「……今日は飲みましょう」
「……」
無言で頷くホワイトモンキー。そして二人は去って……
「って私はあなたの告白を見守るためにここにいるのではありません!」
「!?」
そこでようやく我に返るドクター(手にハンカチを握り締めている)。危うく侵略者としての本分を忘れそうになったのは秘密だ。
「っく、しまった! あまりにも奴が哀れすぎて逃げるのを忘れてた!」
「うん! 確かにお猿さんがかわいそう過ぎて」
「うきゃあああっ(かわいそう言うな)!」
年少二人のあんまりな言葉についに切れるホワイトモンキー。
「え? あれ? もしかして私何かいけないことした? でも駄目なものは駄目だし……」
「雪姉、死者に鞭打ってるから、それ以上はちょっと……」
「さすがにかわいそうすぎるよ……」
見れば再び撃沈しているホワイトモンキー。もう手の施しようが無い。
「ええい! いつまで泣いているんですか! もうこうなったら3人まとめてお持ち帰りです! それで良いですね?」
「うきゃあああああ!」
ホワイトモンキー復活。というかリミットブレイク。その周囲に風が集まり渦を巻く。
「ちょっ、ひょっとしてピンチ?」
「ひょっとしなくてもピンチだよ! っていうかあんなの相手じゃ」
「っく、何とか二人だけでも……」
弾丸のように飛び出すホワイトモンキー。もはやその姿は常人には捉えきれない。そのまま三人の下へと突っ込んでいく。
「!? 天……」
哀れ三人の穢れなき乙女が怪物の餌食になるかと思われた、
その時!!!
ドゴオッ!!!
「うぎゃああっ!?」
またしても吹き飛ばされる巨体。萌と咲には何が起こったのかわからない。だが、雪は見ていた。こちらに到達する直前、上からの謎の攻撃があの怪物を強襲したのだと。
「何奴!?」
ドクターが驚愕の表上下攻撃が行われた方向を向く。そこには一本の街灯が立っており、その頂点に謎の人影が!
そして―――――
凍夜君の出番が見たいという奇特な方が居られたらご連絡ください。