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その3

 パクリと言わないで。

 あなたにすべてを託します


 どうかあの人を見つけてください


 それだけが、唯一の希望なのです


 お願いします、もう一人の―――






 連れ帰った白竜(推定)の怪我は思っていたよりもひどいものではなかった。


 しかし、衰弱が激しかったようで怪我の治療を終えて数時間たった今も目を覚ます気配は無い。時折うなされているような表情を見せるのみだ。


「……あなたはどこから来たの? あの声の人を知っているの?」


 問いに答えは帰ってこないと分かっていても、言葉が自然と出てきてしまう。自分自身でも不思議だった。なぜ、これほどまでにあの声の主のことが気になるのか。今も理解できない焦燥感がシェリナの胸の内をぐるぐると渦巻いている。一体なぜ―――


「…………ぐう」

「!」


 その時、白竜がわずかなうめき声をもらす。あわててその顔を覗き込むシェリナ。その視線の先で、ゆっくりと目を開いていく白竜。


「…………」


 焦点の定まらない瞳は金色の光を宿していた。まだ意識がはっきりとしていないのか、ぼんやりとこちらを見つめている。


「大丈夫?」


 言葉が通じるのかよく分からなかったが、とりあえずそう問いかけるシェリナ。しばらくしてようやく意識がはっきりしてきたのか、その目に意思の光が宿り始める。


「……君は」

「!?」


 突然言葉を発した白竜に驚くシェリナ。もちろん、外見上の変化は微細なものであったが、内心ではここ数年無かったほどに驚愕していた。その反面、とりあえず言葉が通じそうだということに安堵する。


 と、今度はなぜか白竜が驚愕の表情を見せる。そして開口一番、


「姫様っ!?」


 と叫んだ。


 もちろん、シェリナはお姫様でもないし、そんなあだ名で呼ばれたことも無い。というか、この白竜とは初対面のはずだ。


「姫様、ご無事だったのですね。よかった……」


 考え込んでいたら、白竜は勝手に話を進めてしまっていた。さすがにわけの分からない誤解をされたままでは気分が悪い。


「私は、姫様じゃない」

「……え?」


 きょとんとした表情を見せる白竜。かまわずシェリナは話を続ける。


「私の名前は紅凪シェリナ。ここは私の家。怪我をしていたあなたを治療するために連れ帰った。ついでに言うと、私とあなたは初対面のはず」

「え? え? え?」


 理解が追いついていないのか、眼を白黒させながら顔に疑問符を浮かべる白竜。


「でもその顔はイデア姫様で、あれ? でも僕は次元を超えたはず。だったらここは異世界で、そこにイデア姫様と同じ顔の人がいるって言うことは……」


 器用に腕を組んでぶつぶつと呟きながら考え事に没頭する白竜。黙ってその姿を眺めていたが、こちらも聴きたいことは山のようにあるのでいいかげん正気に戻ってもらおうと声をかけようとした、その時、


「ああああああああああーーーーー!!!」


 いきなり大声を出しながらこちらを指差す白竜。突然の出来事に今度はシェリナが目を白黒させる。


「まさか、君が姫様の“対存在”? こんなに早く出会えるなんて……。いや、これも運命なのかも」

「……“対存在”? 私が? 運命って」

「えっと、シェリナ!」

「な、何?」


 その勢いにたじろぐシェリナ。だが次の瞬間白竜が発した言葉に思考が吹き飛ばされた。






「魔法少女になってくれ!!!」






 思考が止まったシェリナは、脊髄反射で戯言をほざいた粗大ごみを窓から放り投げた。


「のおおおぉぉぉぉ!?」


 軽くドップラー効果を聞かせながら、2階の窓から落ちていく姿を認めたシェリナ。ぴしゃりと窓を閉めた後、ここ数時間ほどの記憶を消去する。


「……明日の授業は」

「死ぬから!? いきなりそんなことされたら竜でも死ぬから!?」

「!?」


 いきなり奇跡の生還を果たした白竜に驚くシェリナ。


「……」

「って何無言で刃物を持ち出しているの!? 待って! お願いだから僕の話を聞いて!」

「……ちっ」

「今舌打ちした!?」


 さすがに全身全霊で命乞いをする相手を葬ることはできないシェリナは、机の引き出しから取り出したカッターナイフを、しぶしぶ元の場所に戻す。そのまま未だにがたがた震えている白竜と視線を合わせ、無言で話を進めるように促す。


「え、えーとじゃあ少し長い話になるけどいいかな」

「話は簡潔に、手短に」

「努力するよ……」


 そこで咳払いを一つ。やがて神妙な顔になったムートは説明を始めた。


「まず最初に怪我を治療してくれたお礼を言わせてくれ。ありがとうシェリナ。僕はムート。ムートって呼んで」

「わかった、ムート」


 頷きながら答えるシェリナに満足げに微笑むムート。そして話を続ける。


「僕はこの世界とは別の次元にある世界からやってきたんだ。僕のいた世界の名前は“オリジン”」




 オリジンは魔法文明と機械文明が高度に融合した文明を持つ平和な世界だった。その政治形態は王制で、世界と同じ名を持つオリジン家と呼ばれる王族がその世界全体を統治していた。


 オリジン家はその世界で最も力の強い魔術師の一族でもあり、その力を使って世界を平和のうちに治めていた。


 しかし、ある時次元を越えて侵略者がやってくる。彼らの名前は“プルートー”。冥府の王の名を掲げる彼らはオリジン家が守る世界の至宝を求めて侵略してのだ。


 その至宝の名は“宇宙の瞳(コスモアイ)”。それを使えばすべての次元を支配することもできるといわれているほど強力な力を秘めた秘宝だ。


 当然、オリジン家をはじめとするオリジンの人々は侵略者を相手に戦った。悪しき者達に秘宝を渡すわけには行かなかったから。しかし、プルートーたちの力は強大だった。


 主だったものたちは殺され、あるいは幽閉された。オリジン最強の王族達も歯が立たず、一人を除いて全員が虜囚の身となってしまった。


 だが、捕まった王族は誰も宇宙の瞳(コスモアイ)を持ってはいなかった。もしもの時のために、それは王族の末娘、最も幼くそれゆえ戦闘に参加しなかった姫に託されていたのだ。


 彼女の名前はイデア。イデア姫は残った臣下と共に秘法を守りながら逃走を続けた。しかし、プルートーの執拗な追跡の前にとうとう追い詰められてしまった。


 そのとき、臣下を守るためにイデア姫は宇宙の瞳(コスモアイ)を使用した。幼いながらもその潜在能力は王族1とまで言われていた彼女の願いに、宇宙の瞳(コスモアイ)は答えた。しかし、魔術師としてまだ未熟だった彼女はその強大な力を制御することができなかった。


 結果、彼女とその臣下達は自らの身を守るための結界の中に閉じ込められてしまい、外から手出しできなくなったのと同時に、身動きが取れなくなってしまった。さらに、力を暴走させた宇宙の瞳(コスモアイ)は次元を超えてどこかに飛び去ってしまった。




「何とか皆が最後の力を振り絞って僕だけ結界の外に出られたんだ。その時、僕はイデア姫様から宇宙の瞳(コスモアイ)の捜索の任を帯びて……」

「この世界にやってきた」


 その通りとムートは頷く。だが、


「その事と私との間に何の関係があるの?」


 シェリナの当然の疑問にムートは真剣な表情で話を続ける。


「イデア姫様は強力な魔力を持っておられたゆえか、時々未来の出来事を未来視という形でご覧になられることがあった」

「……」


 それはまさか自分の力と同じものなのだろうか。シェリナは内心の動揺を押さえ込みながらムートの言葉にじっと耳を傾ける。


「そして、そんなある日姫様ははるか次元の彼方、異なる世界に自分と同じ力、いや、力だけじゃなくて容姿、年齢全てが自分に瓜二つの存在を知覚した。」


 ドクン、と心臓が跳ねた。


 そうだ、今分かった。いや、前から心のどこかで理解していたのだ。あれは、あの声の主は―――――




 お願い、皆を助けて。もう一人の私―――




「あ、あの子は、私の……」

「そう、君とイデア姫様は同じ魂を持った“対存在”。魂の双子と言っても良いかも知れない」


 やっと分かった。自分があの声にこだわっている理由が。あれは私。もう一人の自分。同じ魂を持った私の半身。だから、あんなにも求めていたのだ、声の主を。まるで引き裂かれた半身が呼び合うかのように。


「そして、イデア姫様の“対存在”たる君には大いなる力が宿っている。」

「大いなる力……未来視のこと?」

「それはその力の一部でしかない」


 ゆっくりと、ムートが口を開く。


「その名は“真眼”」

「“真眼”……」


 かみ締めるように呟くシェリナ。


「その力の詳しいことは実は僕も知らない、けれどそれはオリジンの王族の中に数世代に一人しか出てこないほど貴重な能力で、とてつもない力を秘めているらしい。」

「でも、私は未来を見るだけで、そんな力は……」

「それは力の使い方を知らなかっただけだ。きちんとした方法さえ理解すれば君も力を扱えるようになる」

「…………」


 そしてムートは器用に正座をするとその額を床にこすりつけた。


「お願いします! どうかその力を姫様達を助けるのに貸してください! もうシェリナしか頼れる人はいないんだ!」


 すがるような声でお願いをするムート。だが、彼に協力するということは、敵と戦うということだ。


 まだ小学5年生でしかない自分が一つの世界を攻め滅ぼした敵たちと戦う。いくら自分に強大な力があると言われても、やることは殺し合いに他ならないのだろう。それを分かっていながら、なお助けてほしいといっているからこそ、ムートも真剣なのだろう。


 普通ならば断るべきだ。自分は特別な存在だからという理由で敵と戦えるほど熱血な性格はしていない。むしろ厄介ごとには極力かかわらないようにして生きてきたし、これからもそうするつもりだ。


 だからここでの答えはNOでいいはずだ。なのに、なぜ……


(イデア……)


 遠い場所に存在するもう一人の自分、魂の双子。彼女のことを考えるたびに不思議な感情が胸の内を駆け巡る。私は―――


「わかった」

「え?」


 気が付いたときにはそう口に出していた。ムートが信じられないという表情でこちらを見つめているが、自分でも信じられない。だが、


「あなたに協力する。イデアを助けるために」


 どうやら自分はもう一人の自分を放っておけないらしい。何もしないという選択肢は最初から存在していなかったようだ。


「じゃあ、魔法少女に」

「待て」


 せっかく良い話でまとまりかけていたのに、再び不吉な単語を聞いてしまった。


「……魔法少女って何?」

「あれ? 知らないの? おかしいな、確かこの次元にもそういう存在の知識はあるって聞いたのに」

「……それは」


 まさか、こちらの世界でおなじみの、コンパクトを使って変身したり、ステッキを振って魔法を使ったりする、フリフリの衣装の小学生位の年齢の女の子が実在しているというのか。


「魔法少女って言うのは成人を迎える前の魔法使いの女の子達の総称のことだよ。まあ訓練生とか見習いみたいなものかな。実力的にそう呼ぶのが失礼な子も何人かいるけど」

「……そうなんだ」


 思っていたよりも普通の存在らしい。ムートの説明に内心で安堵するシェリナ。


「魔法少女になれば力も扱えるようになると思うからね、なっておいて損は無いと思うよ」

「それはどうやってなるの? それ以前に魔法を使った事の無い私がなれるものなの?」

「大丈夫」


 ムートは安心させるようにシェリナに言った後、なにやら呟き始める。


「ゲート0401オープン」


 すると驚いたことに、いきなりムートの前の空間に直径15センチほどの黒い穴が開いた。


「それが、魔法?」

「そう。これは亜空間との出入り口で中に荷物なんかを置いてあるんだ。やり方さえ知っていれば結構簡単だから、後で教えてあげる」


 そう言うと穴の中に手を突っ込んで何かを探し始めるムート。やがて目当てのものが見つかったのか、いくつかの品を中から引っ張り出した。


「とりあえずこんなところかな。さあ、好きなものを選んで」


 そう言って3つの品を床に並べる。そこには、



 

 先端が三日月形になっている短いステッキ


 小さな鍵の形のペンダント


 模様の付いた卵




 が置かれていた。


「さあ、どうしたの?」

「…………」


 どうしろと、むしろ作者はどうしたいのか、シェリナは心の中で呟いた。


 まずステッキ。セーラー服で戦えというのか。それ以前になぜにセーラー服。確かに元々は海軍の衣装だが。というかもう古いのでは?


 次に鍵型のペンダント。カードを集めるのか? それとも異世界を回って羽根を集めるのだろうか。いや、それは違う作品か。


 最後に卵。確かに一番新しいものではある。しかし、なりたい自分と言われても急には思いつかない。というかこれを選んだ場合、自動的にマスコットキャラが一人以上増えるのでは?


「どうしたの? 何か不備でもあった? 僕の友人が自信満々に“向こうで魔法少女といったらこれだ”って言って一式渡してきた道具なんだけど」

「……その友人とは縁を切ったほうが良い」

「え? 確かに時々わけの分からないことを言い始めるやつではあるけど……。気に入らないなら他のを」

「あなた達の世界で普通に使っているものが良い」


 ムートが次に取り出そうとしたとげ付き金棒のような物を見て、シェリナはすぐにそう結論を出した。撲殺したくないし、私は天使でもない。


「え? でも一応この世界に合わせた物の方が」

「むしろその方が駄目。友人のアイテムを使わせようとした時点で私はこの件から降りる。誰がなんと言おうと」

「そ、そうなんだ」


 シェリナの迫力に頷くしかないムート。触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものだ。


「えっと、じゃあ僕達の世界で普通に使っているやつを……あれ?」

「どうしたの?」


 穴の中に手を入れたまま首を傾げるムートに何が起こったのかたずねるシェリナ。もしや、ムートの世界のアイテムが無いとでも言うのだろうか。


「いや、見覚えの無いものが入っていたから。こんなもの入れた覚えは……あれ? 僕宛の手紙が付いてる」


 そう言いながらムートがチェック柄の布の包みを引っ張り出す。確かにそこには手紙のようなものが張り付いていた。


「えーと何々、『ムートへ、これはもう一人の私のための変身アイテムで……』ってイデア姫様!?」

「!?」


 驚いた顔でその名前を叫ぶムート。シェリナも僅かに目を見開いて驚きの表情を見せる。彼女はこの時のことまで予知して自分に戦う力を与えてくれたのか。


「どうやらこれは君専用のアイテムらしい。詳しい効果は使えば分かるって書いてあった。それにしても、いつの間にこんなものを……」


 ぶつぶつと呟きながら手紙を穴が開くほどに見つめているムートを尻目に、シェリナは緊張の面持ちで包みを開封する。そこにあったのは―――






 中央に金色の輝きをたたえた宝石をあしらったペンダントだった。






 ラグビーボール型の金属の板に繊細な彫金がなされており、その中央に宝石がはめ込まれている。このような輝きの宝石はシェリナは見たことが無かった。おそらく、この世界には存在しない鉱石なのだろう。


 そのもう一人の自分からの贈り物を胸に抱きしめ、万感の思いをこめてシェリナは呟く。


「よかった……。パクリじゃない」

「そっちかよ!?」


 即座にムートが突っ込みを入れる。何気にそういうキャラなのかもしれない。


「ま、まあこれでアイテムの問題は片付いたわけだし、後は……」


 次の瞬間、ムートは弾かれた様に顔を上げる。


「どうしたの?」

「……奴等だ!」


 その答えに表情を引き締めるシェリナ。


「くそ、追いかけてくるとは思っていたけど、早すぎる! それにこの魔力の乱れは、無差別に暴れてこっちをいぶり出すつもりか! まだ準備が……」

「何処?」


 焦るムートとは対照的な、落ち着いた声音でシェリナが問う。一瞬、その雰囲気に呑まれそうになるムート。


「いや、でも危険だ。まだ練習もしていないのに、いきなり実戦だなんて。ここはしばらく様子を見て……」

「その間にも被害は広がっていく」

「う……だけど今の君じゃあ」

「大丈夫」


 ペンダントを手早く首に装着して、不思議なほどに確信をこめた声で断言するシェリナ。


「もう一人の私が力を貸してくれる。負けるはずが無い」


 ペンダントから感じる暖かい力。それが会った事も無い、イデアと呼ばれている自分と瓜二つの少女のものだということが、なぜか分かった。


「……分かった。僕について来て。でも絶対無茶はしないでね。」


 シェリナの表情に何かを感じたのか、ムートも覚悟を決めた様子で頷いた。


 そして二人は戦場へと駆け出した。

 これに力を入れたせいで魔王付きの方が遅れるかも。

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