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ある少女のモノローグ 2

俺とユナは喋っては少し黙って、また喋って黙ってを繰り替えして時間を過ごしていた。

 話す内容は自分の趣味や好きな食べ物などありきたりなものだったけど素直に楽しいと感じた。

 話しているうちにわかったけど、どうやらこの世界は俺のいた世界よりもだいぶぎz術面では劣るらしいことだ。世界各地、どこの都市でも生活の中心がオリジンによるもので、技術を進化させる必要がなかったためだろう。

 そのため、テレビもなければ、パソコンもない。携帯に似たものはありはあるのだが、それにすらオリジンが使われているらしい。

 また特にこの島は技術の進歩とは遠い所にあり、住居でさえ木造のものしかなく、この小屋と大して変りないところで寝泊まりしているらしい。

 この小屋にもベッドが置いてあるそうで、ここでも暮らせるそうだ。

 今の俺はベッドに寝るよりはここで座っていたいから、あまり関係のあることじゃないけど。

 そんなこんなで時刻は十二時を回ってすでに一時もすぎていた。

 これで半日か。

 たった半日でずいぶんと驚いてばかりだったと思う。

 気が付いたら知らない場所にいたこと。

 ユナと出会ったこと。

 オリジンのこと。

 自分が異世界人だということ。

 そしてこの世界に人間がユナしかいないこと。

 引きこもりが半日で体験していいことじゃないよなこれ。

 こんな体験をしておいてまだ引きこもっている自分にもはや呆れている。

「なあユナ、俺何か予想外のことが起きたら引きこもりからふつうの人にもどれるかなって少し思っていたんだ。でも俺は今も引きこもってる」

 呆れるよな?そう聞こうとした。けど返事がかえってこない。

 あれ?

「ユナ?おいッ!ユナ!返事しろって」

「あっ、……うん。ごめんごめん聞いてるよ。でなんだっけ?」

 どこかはっきりとしない声色でユナは言う。

 なんかさっきまでと違うな。

「話はもういいよ、どうせ独り言と変わんない内容だし、それよりどうした?なんかあったのか?」

「え?……ごめ……ん。もう……今なんて……いったかな?」

「おいおい、大丈夫か本当にどうした?」

「あ~っとなんか、意識……が……途切れるん……だよ。たぶ……ん、眠いの……かな……私」

 当然といえば当然か。

 なにせユノは今日、死にそうにな目にあっているのだから。

 きっとあの状況になるまえにも動いてだろうし、ユノからしたらここに座っているだけってのも疲れるだろう。

 俺とちがって慣れてないのだろう。

 別に寝るな、なんて誰も言っていないのにどうして無理して意識を保っているんだ?

 あぁ、そうか。

 ユナは寝ている間に俺が部屋からでて、なにか食べたりだとかをするのを危惧しているのかもしれない。

「ユナ言っとくけど、別に俺はユナが寝てる間に部屋からでたりしねーよ。第一ユナが扉の前で塞いでる限り出れないよ。窓からでれなくもないけど、窓から出たらカーテン直さないといけなくなっちゃうし、窓からは出ない。だから眠いなら寝ろよ」

「でも……なにか来るかも、そしたら……大変……」

「ユナは寝起きいい方か?」

「え?かなりいいと……思う。私の……一族……訓練……されてるから」

 訓練か。守ることを仕事とする一族なのだから寝込みを狙われることも4あるからだろう。もしかしたユナは本当は、徹夜には慣れてるのかもしれない。

 それでも今、眠そうにしているのはやっぱり慣れないことをしているからかな。

「じゃあ、なおさら寝ても平気だろ。なにか来たなら俺だって聞こえるよ。そしたらユナを起こせばいいだろ。だから無理すんな。なにかあったらユナに頼っちゃうからさ、ユナには万全でいてもらわないと」

 言っておいて情けないな。

「だったら……仕方ない……かな」

 すーすーと気持ちよさそうな寝起きが後から響いてくる。

 寝付くの早いな。それだけ耐えてたってことか。

 ユナの言ってた通りだとするとユナは半年間一人だったてことになる。

 一人で半年もこんな所で。よく耐えていられるなと思う。きっと俺だったら耐えられない。

 引きこもりだって言ってしまえば一人みたいなものだけど、違うはずだ。俺は引きこっているときだって周りが生きているのは感じていた。テレビの向こうだったり、外から聞こえる笑い声だったり、それらに俺はあこがれたりときには恨んだりしてた。

 でもユナは、それもできない。

 誰の姿も見えず、誰の声も聞こえない。

 自分も死にたいと思うこともあったはず。

「ユナ、君はなんで笑っていられるんだ」

 俺の質問に答えてくれるのは穏やかな寝息だけで、でもどこかそのことに安心していた。

 



 ちゅんちゅん、と小鳥の鳴き声が聞こえる。この世界でも鳥の鳴き声は変わらないようだ。見た目も同じでいてほしいな。

 時計の針が示すのは八の数字。もうすっかり朝だった。

 ユナはあれからずっと寝てままのはずだ。確信が持てないのはもちろん姿を見ることができないからだ。

 俺は宣言通り寝ていない。引きこもっている間に何回も徹夜は経験ぢているし、ときには三日徹夜したこともあったから割と平気だった。

 このままユナは寝かせておいた方がいいと思う。

 そっちの方がユナにとって俺にとってもいい結果になる。

 ユナと会話したい気持ちがないでもないけど、そうしたって俺はここから出ることはない。だったユナに期待させないためにもあまり話さない方がいいはずだ。

 ユナと話すことで俺は変わってしまうかもしれない、そのことに俺恐怖を抱いている。

 ユナと話しているうちに双葉のことを忘れてしまうかもしれない、そんな考えが頭にちらほらと出てきていて、だからユナと話さない方がいいと思うのかもしれない。

 それが自分の本音だった気づいてはいた。

でも今は、別な理由がほしい。

 ユナと話したくないのはユナの為だって、自分のためじゃないって思いたい。  

 そう思わないと自分で自分をどうにかしてしまいそうなきがするのだ。

「だから、まだ起きないでいいからな。ユナ」

 ただの先伸ばし。問題の先送り。

 俺がもとの世界に戻るにしろ、この世界で暮らすにしろ、ユナの助けは必要だ。

 必ずユナと交流することになる。

 だからそれまでには答えを出さないといけない。

 俺はユナと心から関わっていくのか、表面だけで関わっていくのか、そしてそれが誰のためなのか。

「まだ決められないよな」

 俺呟いた時だった。

 背中から急に体重が消え、どさりと重いおとが耳に届く。

「おいユナなにがあった!」

 扉に向かって叫ぶが返事がない。

 なんかやばい。

 そう頭が告げている。昨日のユナが眠たくて反応がなかった時とは違う。

 今回はもっとなにかある。

「おいっユナ!ユナ!返事しろって!おいっどうした!」

 どうする。どうする。どうする。どうする。

 声をかけても反応無し。

 何かユナに届言葉は?

 無い。

 ユナに届くものは?

無い。

 ユナと関わる方法は?

 無い。

 あるわけがない。

 だってここにはあるのは、簡素なベッドとテーブル、それからランプと少しの本くらい。

「そうだ。警察に、って何いってんだ。ここにはいないだろッ!」

 ダメだ。もうなにもできない。出来ることがない。 

 いや、本当はある。そんなことは分かってる。

 この扉を開けて直接確かめればいい。それだけだ。

 分かってる。分かってるッ!

 けど!

 ダメだ。俺は出れない。

 体が、脳が、心が、俺が、出たくないって、出たらいけないって俺の動きを止める。

 ここから出たら、俺が外にいたらまた双葉のときみたいに。

 フラッシュバックしたイメージが頭に流れる。

 俺の手を引いて笑顔の双葉。

 俺より前をその笑顔のままで走っていく双葉。

 俺の目の前で血を流しながらも、必死に微笑む双葉。

 ッッ!

 やっぱり無理だ。無理だ。無理だ無理だ無理だ無理なんだ。

「俺は出れない」

 ユナごめん。

ユナになにが起きてるのかは分からない。

分からないけど助けてあげたい。でも俺には無理みたいだ、せめて無事でいてくれ。

目を閉じながら俺は祈った。

―――その、さ、ありがとう。助けてくれて。

 聞こえた声に思わず目を開ける。

 目の前にあるのは当然、扉。

 その扉にまだ見たことのないユナの笑顔が写る。

「俺は何してんだよッ!」

 過去を理由にして、逃げて、ユナを見殺しにするつもりか!

 俺に出来ること、あるんだろうが!

 ドアノブを掴んで捻る。

 よし。動く。ユナがドアを開ける障害にはなっていない。

 ユナはおそらく倒れているはずだ、開けるのは少しにしないとユナにぶつかってしまう。

 大丈夫だ。俺は出れる。ここから。独りだけの暗闇から。

 でも、ここでさっきまでユナが写っていた扉に双葉が写る。

 目の前に双葉はいつものように微笑んではいなかった。

 俺を、まっすぐ見つめる双葉。

 その双葉を見つめ返す。目を背けないで、まっすぐ。

 ――出るの?。

 ああ。出るよ。今出ないともう二と外に踏み出せない。そんな気がするから

――なんのために?

 助けたいから。こんな俺にもありがとうって言ってくれる人を。

 だから、

 行くよ。外に。

 双葉はまたいつものように微笑んで、そして扉からいつのまにか消えていた。

「ありがとう」

 ぶつからないように気をつけながら扉を開く。

 その先には横になって倒れるユナがいた。

「おいッ!どうした大丈夫か!」

 しゃがみこんでユナの顔色を伺うと顔が紅潮し、苦しそうな息遣いが聞こえてくる。

 よかった。息はちゃんとしてる。

 ユナの額に手を置いて体温を確かめる。

「熱いよな、そりゃ」

 ものすごい高熱。このままじゃだめだ。

 とりあえずもっとしっかりした所に寝かせないと。

「そうだ、小屋にベッドがあるじゃないか」

 ユナの体をお姫様だっこのように担ぐ。

 想像以上に軽いな。

 これくらいなら俺でも運べる。

「ユナ、がんばれ」

 今度はしっかりとそう呟いた。

 



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