ある少女のモノローグ 1
第二章ある少女のモノローグ
一枚の扉を挟んで俺とユナは変わらず座り続けていた。
ここには三度の沈黙が訪れていて、俺もユナもただ、互いが互いを意識しながら紡ぐ言葉を探していた。
最後にユナが喋ったのはなんだったかふと思い出す。
「えっとね。今から信じられないかもしれないけど、この世界に何が起きているか説明するね。これから話すことは全部真実なの」
「まずはどこから話せばいいのかな?……塔かな。そうだ、塔の話からするね」
「この島はね、三日月みたいな形をしているんだ。今私たちが居るのは三日月の端っこ、角になっているところのすぐ近く。え?うんそうだよ、私が落ちそうになっていたところがちょうどこの島の角。えっと話を戻すね。この島の中央にはね、塔が建ってて」
「その塔は革命の塔って呼ばれてたんだ」
「『塔の扉が開かれる時、世界を革命する』『この扉を開けしものは死から遠ざけられる』っていう二つの言葉があるんだけど誰もその言葉の真意はしらなかった、だって革命の塔の門を開けた人はいなかったから」
「それはね革命の塔を守る一族がいたからなんだ」
「実は、私もその一族の一人なんだけどね。今は最後の一人だけどさ」
「門を開けようとした人はね、たくさんいたんだけど、私たちの一族はそれを許さなかった。だって門をあけてはならないって代々言われてからさ」
「でもね。ある雨の日に、一族の一人が門を開けてしまったの。その人はその日、門の正面を守護する役目でね、人望があった人だったからみんな、その人一人に正面は任せてたんだって。」
「そうしてできた隙を狙って門を開けた」
「門を開けたらそこから白い霧みたいなものが溢れてきたんだ。改変の霧。その霧にのまれた人はみんな消えていった。死んだんじゃなく、消えていったの。跡形も残さず、霧に触れてしまっただけで嘘みたいにね」
「改変の霧は最初にこの島を飲み込んだらね、海の向こうへと広がっていった。霧から逃れる方法はないからきっともう、人はどこにも生きていないんだ」
「これが世界から人がいなくなった理由。信じてくれる?」
ユナの言葉にはどれも証拠はにない。けれど有無を言わせない気迫というか意志が伝わってきた。
信じられないけど真実だ。そう頭は判断を下す。
でも。今の話には一つだけ嘘がある。
いや、嘘というよりは話していない、話すのを避けた部分がある。
「なあ、ユナ。その話を信じる信じないはともかくとしてさ。どうしてだ。どうして“なんでユナは生きているのか”を隠した?」
ユナだってこの島にいたはずだ、そして霧に抗う方法はないってユナ自身が言っていた。
ならどうしてユナは消えていない。
ユナが助かった理由が説明されていない。
「あ~えっと。……リカバリー。私のオリジンはリカバリーでしょ、だからえっと、体が全部消える前に体を直したんだ。ちょうど霧が出たとき力がすごく高くてさ、なんとか直せたの。でも、次きたら直せない。その一回でだいぶ無理したから。もうあれくらいのリカバリーは使えないかな」
へへへとユナは笑ってごまかす。
どこか釈然としないけど、今はよしとしよう。
だって世界の人類の滅んだ世界に飛ばされてきたと言われたのだ。
俺の脳みそはその事実にたいして余すことなく使われる。
「私の話を信じてくれるならさ、そこから出てきてほしいな。そしたら塔を見せてあげられるし。どうかな私もずっと一人で寂しかったんだよ。だって塔の門が開いてらもう五か月経つんだもん。ひとりは悲しいよ」
ああそうか。だからユナは俺に構ってくれたのか。
ずっと一人で生きてきて、その命が危機に晒された時に自分以外の人類を見つけたんだ。
そりゃ、追いかけるし、話しかけてくるよな。
そんな分かってしまえばなんてことのない事実に俺はどこか落胆していた。
なにを落ち込んでいるんだよ俺は。
くそ。なんだこれ。
自分の感情がよくわからなくない。
「ねえ、なんとか言ってよ」
「ごめん。整理する時間をくれ」
なんで俺の声はこんなにも冷たいんだろう。
まるでユナを突き放すようなそんな声に自分でぞっとした。
こうして二人の間に沈黙は生まれた。
ふと時計に目をやると針は九時を指していた。
引きこもり始めてもう八時間もたったのか。
窓がカーテンで覆ってあるため外の様子は分からないがそろそろ暗闇に覆われてきたころだろうか。
幸いというか夜が近づいてきても、気温が極度に下がることはなく引きこもるには適していた。
俺はともかくユナは大丈夫だろうか。屋内と違って外はもう少し冷えているかもしれない。ユナはここの環境に慣れているはずだけど、いくらなんでも外に女の子が出っ放しというのは気になるものだ。
正直話しかけにくい。
俺が考えるといってから会話が途絶えているのだ。数分どころではなく数時間。
でも今切り出さないともう話しかけるのは無理な気がする。
躊躇する心をなんとか抑えつけ、ゆっくりと口を開く。
「ユ「心葉そろそろきかせてくれるかな?信じてくれるのか信じてくれないのか」
またしても声が被される。
そして相変わらず俺の声はかき消され、残るのはユナの言葉だけだった。
出鼻を挫かれてしまったがなんとか気を取り直して言葉を絞り出す。
「あ、ああそのことなんだけどさ。ユナの言葉を信じるよ。他になにかあるわけでも無いし、信じてみたほうがいいと思うから。でもここからは出ないよ」
出てても意味がないというのが正しいのかもしれない。
出ることは出来ると思う、それなりの気持ちをしっかりと落ち着かせればできるはずだ。
でも、その後だ。きっとユナと目を合わせた瞬間に双葉が俺の前に現れる。そしてまたあの時のように微笑むのだろう。
そうしたら俺はまた暗闇へと逃げ出す。これは気の持ちようでどうにかなる問題ではないのだ。
だから俺はここからでることはない。
「そっか。本当は今すぐ出てきてほしいけど、出来ないなら出来るまで待つから。絶対心葉はそこから出てきてくれる。心葉が私の言葉をしんじてくれたんなら、私は心葉なら出てきてくれるって信じるから」
暴論だ。
信じるっていいながら俺の言葉と逆のことを待っている。けど。そんなユナの言葉を俺も信じてしまいそうだった。
そのうち俺はここから出てユナとめんを向かって話す。
そんな未来が頭によぎったのだ。
なんだかユナと話すと自分が揺らぐ。
引きこもっていた時はあんなに変わらない、変わることができなかったのにユナと話すだけで少しずつ俺は変わっていた。
「信じるか。別にユナの考えにとやかく言うつもりはないけど、信じる価値はないと思う。俺はダメな人間だから」
「心葉、怒るよ。そんな言い方」
今までにない口調でユナは言う。そこに冗談は含まれていないと感じた。
「心葉は自分のこと低く見すぎてるよ。心葉はね、自分が思ってるよりしっかりした人だよ。ダメなんかじゃない」
「なにを根拠に言えるんだ、まだ会ってから一日もたってないんだぞ。それなのにどうして言い切れる」
「時間は関係ないよ。私は分かる。だって心葉さ、私のこと助けてくれたじゃん」
「言っただろ、あれは目の前であんなこと起きてたら誰でもそうするって。第一ほとんど何もしてないだろ、結局はユナのオリジンで助かったわけだし」
「でも心葉がいなかったら無理だった。それに気づいている?今自分が言ったこと。目の前であんなことが起きてたら誰でもそうするっていったよね。そう言い切れるのが心葉が本当は優しくていいやつだって何よりの証拠だよ。」
「そんなのユナの勝手な考えだろ」
「そうだよ。その通り。だから私は勝手に心葉を信じる」
……
返す言葉が見つからない。
どう反論したところでユナは俺のことを信しるっていうはずだ。
なんでここまで信じてくれるんだ。
俺には理解できない。
「ねー心葉。心葉は一個賭けをしない?」
「賭け?」
「そう賭け。私と心葉、先に諦めた方が負け。心葉が出てきたら私の勝ちで私がここからいなくなったら心葉の勝ち」
「わかりやすいルールだな。それで?勝ったどうなる?」
「私が勝ったら心葉には私のお願いを聞いて貰おうかな。心葉が勝ったらね、私に一つ命令していいよ。どんなことでも従うから。もちろんエッチなことでも」
ごくり、思わずつばを飲み込む。
昼間に見たユナの体が頭に再生される。
ぜんぜんちいさくなかったよな。あとユナの体は適度に筋肉がついていて綺麗だったな。
ってことは服で隠れてた部分も。
思わず頭の中で何も身にまとっていないユナを想像してしまう。
「今、私の裸を想像してるでしょ」
「はあぁ?してない、してない。してないから」
「わかりやすっ!」
あわてすぎでしょとユナは呟く。
……あんまり耐性ないんだからしかたないだろ、こういうの。
「あ~そうだ。いっとくけど私かなり着やせするから。胸だけ」
「……マジ?」
「マジ」
頭のなかに再び裸のユナが表れる。一部がさっきよりも大きくなった姿で。
待て待て!なにを想像してるんだ俺は、落ち着け。
「……賭けはともかく俺は出ないからなk¥、ここから!」
「とかいいつつ頭では私のことを妄想しているのであった」
「してねぇよ」
またしても図星で声が大きくなる。
だから耐性ないんだって。




