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ある少年のオープニング 2

 あらためて赤毛の少女を見てみると歳があまり変わらないことと、かなりの美少女であることに気づく。

 この森、いや島か。この島の気温はそれなりに高く、そのためは少女の格好はなかなかに露出が多い。

 ヘソだって出ているし、脇だって見えている。女の子ってこんなに綺麗だったっけ。

 なんというか、そのずっと見ていたいなこれ。

 …………

 女の子どころか人間を直に見るのも四年ぶりなのだ、ちょっと考えが危ない方向に傾いていた。引きこもりには毒だなこりゃ。

 そして一方、俺の格好はというとジーンズに半袖のシャツというなんともさえない格好だった。家からでない俺にオシャレを求めるほうがおかしいのだ。だれも求めていないのしっているけれど。

 片や露出の多い美少女、方や根暗な引きこもり。

 その二人が向かいあって座っているという奇妙な構図ができあがっていた。

 そんな中、赤毛の彼女がおもむろに立ち上がったと思いきや、俺の前まで歩みよってくる。

 そして態勢を低くして俺の顔を覗き込んできた。

 礼でも言うつもりなのか、口を開こうとする彼女。

 しかしその口が言葉を発する前に、俺は咄嗟に立ちあがり飛び出していた。

 飛び出していたというよりも逃げ出していたという方が正しいのだろう。

 かがみこんで俺を見つめてきた彼女が俺の双眸をたしかにとらえ、目と目があった瞬間だった。

 俺の目には赤毛の少女ではなく、微笑む黒髪のショートカットの少女が写っていた。

 双葉。俺の妹。

 今はもう微笑んでくれない、俺がそうしてしまった妹。

 雰囲気が似ていたからなのか、それ以前に女の子だからなのかはわからない。けれど微笑む双葉に俺は恐怖した。

 怖かった。

 いくら謝っても、あくら後悔しても、戻らない過去。

 その過去が俺を見つめていた。

 怖くて、逃げた。走って逃げた。何の解決にもならないのはわかっていたけれど。

 走って走って走って走った。

 後ろから声が聞こえたがするけれど、今の俺にそんなことを気にする余裕はなかった。

 どれだけ走ったかわからない。というか自分がこんなに走れたことがまず驚きだ。恐怖はここまで人に影響をもたらすのか。

 なんだか今日は驚いてばかりだなと、頭の中でつぶやく。

 やがて、体力の限界が訪れるはずだ。そしたらもう逃げられない。追いつかれる。赤毛の少女、いや双葉に。

 双葉。双葉のことを考えただけなのに。

 ただそれだけなのに。

 落ち着きかけていた精神が再び、乱れだす。

 逃げ場のない恐怖と罪悪感が体の隅から隅まで埋め尽くし、俺の体を再び蝕む。

 どこかに隠れたかった。またあの暗くて周りから隔離された部屋へ帰りたかった。

 あそこにいれば双葉は追ってこない。俺が引きこもっていたらすべてがうまくいくのだ。

 そうだ。そうだよ。

 俺は引きこもり。

 周りから隔離された部屋でしか生きられない。あの部屋でしか生きてちゃいけない。

 そういう人間だ。

 俺のそんな考えがもたらしたのか、走っている俺の前に小屋が見えてくる。

 幻覚か?

 まあどっちでも変わらないか。

 俺はその小屋へと近づきドアを引く。

 そして部屋の中へと駆け込んだ。

 ドアを閉めて、そのドアによりかかる。

 どうやら幻覚ではく、この小屋は実在しているようだった。

 小屋はおそらく道具を置く倉庫なのだろう。

 窓は一つしかなく、今はその窓をカーテンが塞いでおり、小屋の中は真っ暗だった。

 ああ、なんて楽なんだろう。

 この暗さは俺に良く合っている。

 この暗い、どうしようもなく暗い空間。これが俺の世界だ。

 いったいなにが起きてこんな所に来ているのかは分からない。

 でもそんなのどうでもいいじゃないか。

 俺には関係ないことだ。だって俺は引きこもりで、この小屋からもう出ないのだから。

 それでいいんだよ。それで。

 俺は暗闇に身をゆだねた。

 体が闇に溶けてほしいと切に願いながら。

 次第に俺の瞼が閉じていく。

 だんだんと視界が狭まり、ぼやけていく。

 そして瞼が完全に閉じ、俺の意識は闇へと、

「開けなさあぁぁあああああいっ!」

 落ちる前にそんな声が俺の頭へと炸裂した。

「私っ!まだお礼も言ってないのに勝手に逃げないでっ!せめてお礼とか言わせてよ!」

「っていうかあなたの名前は?私に自己紹介だってさせてよ。ねえ、聞こえてるんでしょ。ねえ、なんとか言ってよ」

「……無視しないでよ。なんで反応してくれないの?私なにかしたかな?」

「ねえ……なんとかいってよ」

 俺を追ってきた、と気づくのに少しの時間を要したものの、俺はすぐに思い当たる。

 彼女に返答する必要はないと。

 俺に今は感謝しているようだが、そんなものはすぐに薄れる。所詮一時の感情なのだ。だからこうして無視続ければいずれ気付くはずだ、俺に話しかけても意味がないって。

 現にもう彼女の声は弱弱しくなってきている。

 せいぜい後一時間いないには諦めてどこかへ行くだろう、そう確信した俺は手元の時計へと目をやる。

 時計の針は午後の一時を指していた。



 □一時間後□

 「そろそろ反応の一つくらいしてくれてもいいと思うんだけど私が悪いなら謝るからさ、ね、一回出てきて来てよ。」

「出てきてくれたらさ、ん~とね。そうだ!リンゴ、リンゴあげるからさ。リンゴきらいかな?私は好きなんだけど……」

 一時間たったにも関わらず彼女はいなくなるどころか俺に話しかけ続けていた。

 思っていたよりも根性があるらしい。

 でも別にだからと言って俺がここから出る理由にはならない。

 それに、食べ物で釣られているというのが気に入らなかった。



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