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ある少年のエピローグ

照明がついておらず、窓すら開いていないため、昼間であるのも関わらず薄暗い部屋。

なんの音もない静寂にのみ支配されている空間は間違いなく俺の部屋だった。

 まるで夢でも見ていたような気分だ。もしかしたら本当に夢だったのかも。この部屋で知らないうちに寝てしまっただけなのかもしれない。どこか知らない世界に行っていたというよりもこちらのほうがまだ現実味があるというものだ。

「そんなわけあるかよ」

 心のどこかで夢だった、幻想だったと思おうとしている。でもそれが間違いで、本当に違う世界に行っていたってことは分かっていた。分からざるをえなかった。だって残っていたから。確かにユナと触れ合っていたぬくもりが、ユナと交わした口づけの感触が。

 ユナを一人残してきてしまった。

 その結果が俺の体に荊が巻き付いているように痛みつける。

 俺は何してんだ?

 ユナはどうなった?

 俺はまた誰も助けられないどころかより不幸にしてたのか?

 俺は何もできずにのうのうと生きてる。

「あ、あ、あ、ああぁがうああぁがぐあ」

 涙があふれ出し、止まらない。俺の意思とは関係なしに零れ落ちていく。

 泣く権利が俺にあるのだろうか?

 俺は助けられただけで、俺はユナを助けられなかった。

 最後までユナは俺を助けようとしてくれていたのに。

「なんだよ、これ。なんで。なんで。なんで」

 俺ばかりいつも助かって周りばかりがいなくなって。

 誰が悪い?そんなのは俺だ。俺が悪い。

 俺がいるせいで、俺が関わったせいでこうなるんならやっぱり俺はこの部屋から出るべきじゃない。

 いっそ死んでしまえばいい。

「だ、れか。俺を……お、れを?」

 俺はこんな時まで誰かを求めてるのか?

 自分で死ぬ勇気すらないってことか。いざとなった怖いのかよ。

 なんだよ、それ。

「ただのクソ野郎じゃねぇかぁぁぁぁぁっ!」

 自分に対する怒りを近くに散らばっている小物にぶつける。その被害を受けた小物たちは盛大な音をたてて四方八方へと吹き飛んだ。

直後、プンッという音ともにテレビの電源が入る。

「え?」

 なにか違和感を感じる。おそらく小物のなかにテレビのリモコンが入っていて電源が入ってしまっただけのはずだ。でも不思議な違和感を感じた。

 何か重大な違和感。自分に対する怒りが収まっていないし、涙もこぼれているままだ。なのにもかかわらず俺はテレビへと顔を向けた。なぜか分からないけれど、その違和感は今、無視したらダメなそんな気がした。

 テレビでやっていたのは特番だった。

 ある無人島でかなり古い遺跡が発見され、そこの最近はやりのタレントが行っている。

 そういえばこんな番組やっていたな。

『ではさっそく遺跡を御見せいたしましょう』

 写っているのは森の中だ。背の高い木々がそびえたつその様子はどこか別世界のようだ。

『不思議なもりですね~。幻想的というかなんというか。まるで異世界にワープしてきたみたいです』

『ではいよいよ、遺跡の大本命。その中心となっている部分となります!』

 場面が切り替わる。そこも先ほどまで写っていた森とおなじよう木がかなりの数並んでいて、画面の中心には調査員らしき人が写っていた。でも、俺はそんな人たちよりも気になるものがあった。

 調査員らしき人たちの奥、この遺跡の中心でもあるそれは、 

『見てください!この大きさ!これほどまで大きな建造物をはるか昔の人々が建てたのです!』

 大きな、大きな塔だった。

「革命のと、う?」

 ずいぶんと寂びれているがそれは間違いなく、改革の塔だった。

 どうして塔がこの世界に?あれはユナの世界の……。

『この遺跡はいつ作られたのか分からないほど古いもので……』

 タレントが何かを言っているようだけれど、耳には入っていない。俺の全神経はおそらく、画面を見ることに使われていた。吸い込まれるように見ているうちに何度も映像が切り替わる。そのどの景色も俺がユナといっしょに見た景色だ。

『次はこの島を上空かやとった映像です』

 島の端に見えるのはユナと最初に会った崖。そこから塔の方にある木の生えていない場所は村があった場所。

 映像は塔の屋上に向かって次第にアップになっていく。

 屋上もまちがいなくユナと過ごした場所だった。

 そこで黒く光るものが目に映る。瓦礫に隠れるようなっているのに見つけられたのはそこが俺とユナがいた所だったからだ。

 今のは……?

 左腕の手首に目を向けるとそこにあるはずの腕時計は無い。

「俺……の?」

 違う世界にあるはずの島と塔。いつの間にか塔に落としてきてしまった大事な腕時計。

 抜いたはずの電源が入っていたテレビ。

 ああそうだったのか。

 俺はようやく理解した。自分のオリジンを。その本当の力を。

「時間を俺は……」

 でも、だからなんだと言うのだ。俺のオリジンが時間を操るのだったところで何も変わらない。ユナを一人残してきたしまったことは変わらない。その事実は覆らない。

「もうどうしたって……ユナは……」

 助けられない。過ぎ去った過去は変わらない。終わってしまったことはどうにもならない。全て手遅れだ。

…………違う。

「違う。違う違う違う違う!」

 手遅れ?過去は変えられない?

 いや俺ならそれができる。俺ならまだ過去を変えられる。

 ユナを救える。

「まだあきらめるのは早いよな」

 涙をぬぐって、顔をあげる。

 やるできことはたくさんある。

 オリジンをちゃんと使えるようなって。他のオリジンに目覚めた人を探して。双葉を起こして。ユナを助けにいく。まだこの世界には希望がたくさんある。いろんなオリジンがあるはずだ。だったら、

「絶対にユナを助けられる」

 この世界に連れてくることだって出来るかもしれない。

 本当にやるべきことはたくさんあるみたいだ。

 なら、まずは外に出よう。

 もう怖くはない。ユナのためなら、なにも怖い物なんてあるもんか。

 もしかしたら今の俺は笑っているのかもしれない。

 ドアノブに手を掛けて扉を押す。

 扉は軽く、すんなりと開く。

 開いた先にあったのは母さんが作ってくれた料理だ。

 そのなかの卵焼きを手に取って口に運ぶ。

「なんだよ。暖かいじゃん」

 残りはあとで食べる。ちゃんと食べるよ母さん。

 右に曲がって階段を下りる。家には誰もいないみたいだ。

 一階に降りてまっすぐ向かう先は玄関。

 玄関の扉は部屋のもとのよりも重たい。

 でも、ここで引き返すわけにはいかない。

 俺は外に出るって決めたのだから。

 ドアの隙間から光が溢れてくる。

 行くよ、ユナ。

 きっとこれは、君へと至る物語。


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