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狩猟

 それは、絵に描いたような原始的な狩猟だった。



 断末魔に誘われて茎を駆け上った僕が声の元を探すと、それはすぐに見つかった。距離にして主観で三百メートルも離れてはいないのではなかろうか。


 像ほどもある芋虫が太く白いロープで編みこまれた網で地面に釘付けにされており、それに自分に似たような姿の怪人たちが集っている様子が見えたのだ。


 芋虫の体には無数の槍が突き刺さっており、傷口からにじみ出た体液でぬるぬるになっている。体色の緑と違って、まるで墨のようなどす黒い液体だ。

 激しくもがく体から飛び散らない辺りからすると、かなり粘度が高いようだ。


 いや、様子を見るとそうではない。


 猛禽のごとく上から槍を持って襲い掛かる怪人たちが、槍を手放す際に何かつぼのような物をついでといわんばかりに投げつけていっているのだ。


 あれは、油だ。


「放て!!」


 と、観察している合間にも次々と槍が突き立った芋虫はハリネズミの様にされながらも元気に暴れまわっている。杭か何かで縫い付けた網も、今にもはずされてしまいそうだが、そこに勇ましい号令と共に止めとばかりに無数の火矢(・・)が放たれた。


 名状しがたい絶叫が芋虫から発せられ、油に着火した炎が轟々と燃え盛る。なるほど、金属性の槍は攻撃というよりも、料理で素材内部に良く火を通す為に刺す串のようなものであるらしい。


 何とも地獄めいたバーベキューだが、多少肉体が欠損しても平然と生命活動を持続する虫の異常な生命力を考えると納得である。


 芋虫を囲む怪人たちは、火をつけてなお油断無く武装を構えていた。


 茎の上から槍を構える者、投擲器で油壺を追い討ちする者、巨大な弓に火矢を番える者。誰しもが当然のように服や鎧を着込んでいるのを見て、少々凹んだのは秘密だ。


 何にせよ、道具を使い狩猟するような同族である。言語にも問題はなさそうであるし、接触を持つのもいいのではなかろうか。


 そんな暢気なことを考えていた僕は、まさか自分にその武器が向けられるとは思っても見なかった。


「おい、そこの不審者」


 芋虫が最早ピクリともっしないほどこんがり焼けたあと、そろそろいいかな、と恐る恐る茎を降り始めた僕に、先ほど号令をかけた怪人(おそらくは男性)が、手に持った槍を向けてきた。


 槍は僕の持つものや芋虫に刺さっている物と違い、穂先に斧がついている凶悪な代物だった。いかに殻に鎧われていても、あんな物を叩きつけられたらパックリ割られてしまうのは目に見えている。

 ハルバードとかいうやつだろうか。


「ここは我々のクランが管理するクロウラー養殖の為の原生林だ。不法侵入した挙句密猟とは、よほど命が惜しくないと見える」


                    ウィキペディアより 

密猟

 ・密猟みつりょうとは、国際間の協定や法令を無視して陸上の動物を採取する事である。





 状況を整理しよう。


 気がつくと怪人になっていた。

 槍が落ちていたので拾った。

 同じような姿の怪人たちが巨大芋虫を狩猟していた。

 怪人たちに見つかり、ここは彼らの養殖場で不法侵入だといわれる。

 手には狩猟用の槍。←いまここ


 オワタ。


「いや、これはついさっきそこで拾いまして」


 あわてて槍を地面に落とすと、敵意が無いことを示す為両手を上げて降参の意を示す。世の中ラヴアンドピースですよ。

 恐怖にすくみあがって声が小さくなってしまうのは仕方が無いことだろう。


「ふん、武器を捨てて素手で威嚇とはなめられた物だ。よほど武芸に自信があると見える」


 隊長、楽しそうですねー、なんてあきれた声が他の怪人から上がるが、隊長と呼ばれた怪人はそれを無視して頭上で器用に槍を振り回している。ヤル気満々だ。


 さて、ここで問題だ。

 あの凶悪な武器を二本だけで体を支えられるほどの力を持つ副腕で対象に叩きつければ、いったいどんな結末がまっているだろうか。


 馬鹿にでもわかる話だ。対象は真っ二つである。


 大上段に構えられたハルバードが、無慈悲に鈍色の刃を輝かせた。

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