第1話 ユウとの出会い
「ここはどこだ?」
青々とした草木が立ち並び、清らかな湖が目の前にそびえた場所。
そこで俺は、晴天の拡がる空を仰いで、1人呟いた。
「夢、じゃないよな……」
壮大な景色の中、俺こと来栖舜は、この場所で立ち尽くす前の事を思い出していた。
『ん~、暇過ぎる、なんかいい暇潰しは、っと……』
中学校を卒業し、高校に入学するまでのちょっとした余暇の中。
天涯孤独の身である舜には、彼女はおろか、友達も居なかった。
故に彼は、インターネットにのみ慰みを求め、ネット中毒に罹っていた。
そんな中、ある無料ゲームに目が止まった。
『なになに?素敵な仲間とほのぼの生活!!ムフフな体験も無料で出来ちゃうよ!!』
『ムフフな体験、ね~?……嘘くせ~』
友達が居ない彼の眼に、素敵な仲間とほのぼの生活と言う文句は、
心惹かれる物であったが、その後に書かれた、
ムフフな体験も無料で出来ちゃうよの文字を見て、胡散臭さを感じた。
『ん?あれ?ちょっ、フリーズ?え、なにこれ、勝手にクリックされてってる』
一旦そのゲームにクリックしたが、すぐに戻ろうとした所、
操作が効かなくなっている事に気付く。
フリーズでもしたかと思い気や、勝手に進んで行き、
名前入力画面まで来てしまっていた。
『何だよこれ……まあいいか、どうせ暇だし、つまんなかったらやらなきゃいいだけだし』
戻れない事を確認した舜は、仕方なしにと言った感じで、
自分の名前を入力し、先に進めて行った。
そして次の瞬間、パンパカパーンと、派手な音を鳴らして、次の画面が映った。
『なんだ?ん?なになに?貴方は幸運です、覇王の職業を選べます……はぁ?どうせこう言う仕様なんだろうな』
画面に映し出された事を読み上げ、頭に?マークを出す舜だったが、
これが仕様なんだろうとクリックして次に進む。
『職業を選んでね、か、まあここは乗らされてみるか』
自分のキャラの、職業選択の画面で瞬は、そのまま覇王の職を選び、クリックした。
次はキャラメイクだと思っていた舜だったが、そうではなく、アンケート画面だった。
『なになに?選択結果で固有スキルが決まります、か、まあ適当に選ぶか』
10項目からなる質問は、プライベートに関わる物であった。
家族構成から始まり、仕舞いには童貞か否かまで答えさせられた。
『ぶっ、な、なんじゃこりゃ、なんちゅう質問だ。………はぁ、どうせ俺は童貞ですよ、ええ、童貞ですとも』
悪意ともとれる質問に、舜は軽く憤慨しつつも、童貞と答えてアンケートを終えた。
すると画面上には次の言葉が書き出された。
『やっぱり童貞だったんだ~可哀相だからレアスキルを贈呈で~す、か…、俺はゲームに舐められてるのか?』
今すぐこの画面を叩き割りたくなった舜だったが、
そこは何とか堪えて、もう一度クリックする。
すると、キャラメイクには行かず、
困ったらヘルプ画面を呼び出してね~と言う文字が出て、
その文字を確認するや否や、画面から眩い光が飛び出した。
それから目を開けるとそこは、舜の部屋ではなく、
広大な風景に包まれ場所に、1人で立ち尽くしていたのだった。
「あぁ、これってあれか?異世界に来ちゃったって奴か?……マジかよ、はぁ」
あり得ない状況下で、舜は溜め息を吐くが、最後に見た文字を思い出し、それを口に出して言ってみた。
「ヘルプ画面」
舜が口に出した途端、目の前にパソコンの画面みたいな物が現れ、
イメージしただけで矢印が動いた。
そして、初心者の為の説明と言う所にアイコンを持って行き、
クリックするイメージを送る。
すると画面が切り替わり、一言、現実ですとだけ書かれていた。
「説明になってね~、何だよこれ、他にないのか?」
他にも何かないかと画面をクリックしまくるが、そのヘルプ画面には、もう何もない様だった。
そこで仕方なく、ステータス画面と口にすると、ヘルプ画面に変わり、ステータス画面が映し出された。
名前 シュン クルス 性別 男 年齢 16 レベル 5001
職業 覇王 称号 覇王の生まれ変わり
HP 65025
MP 無
力 8900
魔力 7050
体力 8600
素早さ 5300
賢さ 2990
運 12
魅力 10000
攻撃力 8900
防御力 8602
回避力 5300
常備スキル
覇王の心 戦闘時パーティーメンバーのクリティカル回避率上昇(極大) 魔法クリティカル回避率上昇(極大)
国士無双 全ての属性を無視した攻撃可能 クリティカル率上昇(極大)
一騎当千 敵の攻撃、魔法スキル効果激減 戦闘時パーティーメンバーの能力上昇効果(極大)
権謀術数 作業魔法以外の全ての魔法スキル取得 作業魔法以外の全ての魔法スキル無詠唱化
神の加護 状態異常無効化 即死無効
武神 全ての武具装備可 戦闘時武具の付加効果上昇(極大)
特殊スキル
転生 死亡時生まれ変われる
ハーレム王 魅力値最大 異性への高感度上昇(極大) 運プラス10
⇒
この画面を見たシュンは、呆れた声を出してしまった。
「チートかよ……けどMP無って、ないのかよ~、魔法スキル全部取得が意味ねぇぇ」
「しかもハーレム王ってなんだよ、いや、魅力値最大って~のは凄いからいいんだけどさ…」
「だけど、運が12って、ハーレム王なかったら2って事?酷くね、俺の運」
チート化されているにも関わらず、MPが無と表示され、
運の良さが元値2しかない事を嘆く舜。
目元から涙を流しそうになった処で、後ろから、
ドスンっと大きな音がして、焦って振り返る。
するとそこには、山の様なでかさの、
首が三つある蛇が、シュンに威嚇していた。
「はははは、出ました、運のなさって奴ですね、うん、解ります。俺が惹き付けたんですよね~これって」
左右の首をゆらゆら蠢かし、真中の首を上下させて、
シャァァァと雄叫びを上げながら、じわじわとシュンに這い寄って来た。
そんな巨大蛇に這い寄られているシュンは、笑い声を上げ半ば諦めの境地で、
立ち尽くしか出来なかった。
「こりゃ~無理だね。意味の分からない異世界で死ぬのか……、寂しいけどこれ、現実なのよね」
よく分からない台詞を吐きつつ、大顎を開いて噛み付いて来る巨大蛇に、
その身を任せた。
頭の中は、チートだろうがなんだろうが、こんな化け物には、
自分なんか敵う筈がないと悟りを開いた様だった。
そんな考えの中、真中から生えている首が、シュンに噛み付いて来たのだが、
ボキッと言う音と共に、大蛇の牙がへし折れ、
身体には傷1つ付いていなかった。
「へ?な、何ともない?ちくっとした気がしたんだけど……」
「あっ、あれか?攻撃スキル激減って効果があったな~、まさか噛むのも攻撃スキルの内に入るのかな?」
シュンの言葉はずばり的中していた。
この世界における行動1つ1つはスキル化されており
通常攻撃である、パンチやキック、噛むや体当たり等もスキルと見なされていた。
まさかとは思いつつ、ステータス画面を呼び出してHPを確認し、
65025の文字を見て、確信へと変えた。
そして、相手のステータスも確認出来ないかな?と思った瞬間、自分の画面から、
相手のステータス画面に切り替わった。
名前 ヒュドラ 性別 雄 年齢 382 レベル3800
職業 ヒュドラ 称号 なし
HP 42500
MP 1600
力 6000
魔力 1500
体力 4800
素早さ 4100
賢さ 1050
運 1020
魅力 0
攻撃力 6500
防御力 5300
回避力 4100
常備スキル
毒蛇の力 毒蛇属固有のスキル 毒の沼地での戦闘中攻撃力上昇(中)
吐息使い ブレスによる攻撃力上昇(大)
⇒
「おお、出た出た、なになに?ん~、やっぱり俺ってチートなんだな」
「それはそうと、この⇒は何だろう?まあ、確認は後でいいか、今は」
相手のステータスを確認し、自分はやはりチートだと確信したシュンは、
牙が折れて怯んでいるヒュドラに対して、突進して、右腕を突き出した。
「ギュオォォォ」
「もう一発喰らえぇぇ」
「ギャオォォォン」
胴体の比較的柔らかい部分だと思われる場所に殴り掛かったシュンは、
悲鳴の様な雄叫びを上げるヒュドラに、
間髪を入れず左の腕でアッパー気味の殴打を浴びせ、ヒュドラを硬直させた。
そしてもう一度、相手のステータスを見て、
42500から13500までHPが減ったのを確認した。
「もう一発で倒せるな、くぅらえぇぇ」
「ギャハッ……」
ステータス確認後すぐ、シュンはもう一発殴打をぶち込んで、
ヒュドラの息の根を止めた。
ドゴーンと巨体を横たわらせたヒュドラを横目に、
シュンはまたもや思考状態へと入った。
「ふぅ、他のモンスターと比較してないから分からないけど、これで只の雑魚モンスターだったら結構やばいかもな……」
確かにチート化されているとは思いながらも、このモンスターが、
スライムで代表される様な雑魚だったらと想像したシュンは、
嫌な汗が噴き出て来るのを感じざるおえなかった。
そんな事に思考を巡らしていると、木と木の間から、シュンに向かって来る者がいた。
「今度はなんだ?」
「ひっ、あ、あぅぅ」
「ん?女の、子?」
足音に気が付いたシュンは、サッと構えつつ、その足音の方に身体を向けた。
するとそこには、有名RPGに出て来る勇者の格好をした、1人の女の子が居た。
その女の子は警戒したシュンに、ビクッと身体を震わせて驚き、
次の言葉を飲み込んでしまっていた。
「大丈夫、ですか?」
「ん?うん、大丈夫だよ」
「良かったです、でも凄いです、あんなモンスターに噛まれてなんともないなんて~」
「まあ、うん、俺も良かったと思ってる……、ふぅ、どうやら言葉はそのままみたいだ」
「自分でも良かっただんて、うふふ、あれ?どうかしましたか~?」
「うん?あぁ、なんでもないよ、ところでさ、このヒュドラって頻繁にいるモンスターなの?」
「ん~、どうなんでしょう?そのぉ私……まだ駆け出しなんで…」
シュンの警戒心が消えた事を感じ、女の子は飲み込んだ言葉を出した。
心配してくれた女の子に対し、シュンは大丈夫と答えながら、
言葉が変わっていなかった事に安堵する。
その呟きに女の子は、またもや心配する様に問い掛け、
シュンは慌てて、別の話をした。
しかし女の子は、まだ駆け出しだと言って、
シュンへ答えが出せず、申し訳なさそうに頭を垂れ下げる。
「ああ、そうなんだ、いよいいよ、そうそう、君の名前をまだ聞いてなかったね。教えて貰っていいかな?」
「あっ、えっと、私はユウです、ちなみに貴方のお名前は?」
「俺は~シュン、シュン クルスって言うんだ、あぁ、ステータス画面見せた方が早いかな?」
「えっ?見せて頂けるんですか?」
「うん、って~、普通は見せない物だった?」
「そうですね、余程信用した人以外には見せないですね」
「そっか~、まあ、ユウちゃんは勇者だよね?」
「はい、よく判りましたね?」
「ははは、だろうと思ったよ、まあ、ユウちゃんは信用出来そうだし、……どう見える?」
「はい、って、えぇぇぇぇ」
名前を聞き出したシュンは、自分も名前を教えるついでに、ステータス画面も見せ、
色々説明をして貰おうとすると、ユウと名乗る少女は、
自分にステータスを見せると言う言葉に驚き、
信用した人以外には余り見せない事を教えてくれた。
それを聞いたシュンは、見た目的にユウが勇者であろうと憶測し、
信用に足る人物であると勝手に決めて、ステータスを見せた。
シュンの目の前にある画面を覗き込んだユウは、
名前を確認して職業の欄を見た瞬間、可愛い声で悲鳴を上げた。
「ん?どうしたの?」
「あわわわ、覇王様だったのですか?」
「うん?職業の事?」
「は、はい」
「うん、あれ?覇王って結構凄いの?」
「凄いも何も、ランクが全然違います、って、まさか、知らないのですか?」
「うん、あのさ、あ、いや、言っても信じてくれないし、余り言うもんじゃないか」
「ほぇ?信じてくれない?」
「うん、まあでもいいか、あのさユウちゃん、信じられないかもしれないけど………」
シュンが覇王である事に驚いているユウは、いまいちピンと来ていないシュンを見て、
知らなかったのかと問う。
そんなユウにシュンは、異世界に来てしまった事を言うか言うまいか悩んだが、
少しでも情報が欲しい今、素直に打ち明ける事を決意し、今の状況を説明した。
「覇王様は違う世界から来たって事ですか?」
「う、うん、そうなんだ」
「ほぇ、じゃあこの世界の事は全く知らないんですね?」
「うん、って、信じてくれるの?」
「えっ、はい、覇王様が嘘を言う様な人に見えませんから」
「ありがとう、じゃあさ、覇王って職業はどのくらい凄いの?」
「えっとですね、覇王様はランクS級の職業で、この世界には1人しか居ないと言われてます」
「ほ~、でも勇者も1人だよね?」
「いえいえ、何人か居るみたいです。勇者はランクB+級で、血筋とか、ランクB級の全職業を極めた人なら転職出来ますよ」
「ふ~ん、ユウちゃんは血筋の方?」
「はい、まだまだ未熟ななりたて勇者です」
「へ~、じゃあA級ってのは?」
「A級はですね、覇者です。10人しか居ない英雄の事ですね、この人達はほとんど王様とか王女様でお城に居ます」
「ふむふむ、って、英雄って言われてる人より偉いって事?」
「はい、覇王様は別格です、本来なら私なんかがお話出来る様な御方じゃ」
「そうなのか~、チートが行き過ぎな気がするけど、まあいいか」
「ほぇ?何か言いましたか?」
「いやいや、別に」
覇王と言う職業がとてつもない職業だと聞いたシュンは、その他にも色々聞いた。
ユウが言うには、魔王は勇者と同じランクB+で、大魔王はA-のランクだと言う。
その他にも、この世界には7つの大国があり、
先に述べた英雄達が、王として君臨している。
残りの3人は何をしているかユウも知らないと聞かされた。
その話の中で特に驚愕だったのは、魔族の職業も転職可能で、
人間から魔王になった者も何人か居ると言った事だった。
「人間からなれるんだ……、じゃあ今は魔王って何人居るの?」
「ええっと、15人と言われてます、勇者は私を含めて3人しか居ませんけど…」
「そっか~、まあその辺は後でいいか、ねぇユウちゃん、ユウちゃんのステータスも、その、いいかな?」
「へ?あ、はい、私なんかので宜しければ」
魔王が15人居る事と、勇者がユウ含め3人居る事を聞いたシュンは、
そんな話より気になる事があり、少し言い淀んだ後、
ユウのステータスを見せて欲しいとお願いした。
シュンの躊躇した表情を感じ取って、ユウも緊張した面持ちを取ったが、
ステータスを見せて欲しいと言うお願いに、そんな事ならと言った風情で、
緊張を解いて、シュンに自分のステータスを見せた。
名前 ユウ ルーベンス 性別 女 年齢 14 レベル 89
職業 勇者 称号 勇者の末裔
HP 903
MP 32
力 88
魔力 28
体力 92
素早さ 75
賢さ 6200
運 2800
魅力 9200
攻撃力 138
防御力 152
回避力 70
常備スキル
勇者の心 戦闘時パーティーメンバー自動回復(極小)
勇敢 戦闘時攻撃力、防御力上昇(極小)
神の恩恵 死亡しても復活出来る(パーティーメンバーにも適応)
剣使い 戦闘時剣を装備中攻撃力上昇(大) 斧によるダメージ増加(極大)
特殊スキル
鬼神化 戦闘中攻撃力上昇(中) 回復、補助魔法無効
覇王への尊敬 覇王のパーティーメンバー中戦闘時クリティカル率上昇(小)
⇒
映し出された画面を見て、ユウは驚いていた。
「あれ?レベルが凄い上がってます」
「うん?ユウちゃんってレベルいくつだったの?」
「たしか12だった筈です」
「ふむ~、あれじゃない?ヒュドラを倒したの見てたからじゃない?」
「あっ!そう言えば勝手にパーティーに入ってました……すいません」
「いや、謝る事じゃないけど、なんでパーティーに?」
「あの、微弱ですけど自動回復がありますし、パーティーメンバーなら少し離れた場所でも回復魔法の効果があるので」
「そうなんだ~、ユウちゃんは優しいんだね、見ず知らずの俺を心配してくれたんだ」
「あ、あの、勝手な事をしたのに怒らないんですか?」
「ははは、怒る訳ないよ~、ユウちゃんみたいな可愛い子に心配されたら嬉しいよ?」
「えっ、か、可愛い、ですか?私が?」
「うんうん、凄く可愛いよ」
「そ、そんな~、は、恥ずかしいですよ~」
シュンに可愛いと言われたユウは、頬に両手を当て、
恥じらいながら身体をクネクネさせていた。
実際ユウは、もの凄く可愛い少女でその容姿は、肩まで伸ばした水色の髪に、
キリッしながも可愛らしい目、整った顔立ちは、並みの女優でも敵わない程美しく、
しかも年齢には似つかない、存在感のある胸を持っていた。
産まれてこの方、女性にもてなかったシュンには、
高嶺の花と言って過言ではないユウに、話をしているだけでも、
実はドキドキものであった。
だが幸いな事に、シュンの話を聞き続けてくれたどころか、
恋心まで見せてくれている様であった。
常備スキル
勇者の心 戦闘時パーティーメンバー全員自動回復(極小)
勇敢 戦闘時パーティーメンバー全員攻撃力上昇(極小)
神の恩恵 死亡しても復活出来る(パーティーメンバーにも適応)
剣使い 戦闘時剣を装備中攻撃力上昇(大) 斧によるダメージ増加(極大)
特殊スキル
鬼神化 戦闘中攻撃力上昇(中) 回復、補助魔法無効
覇王への尊敬 覇王のパーティーメンバー中戦闘時クリティカル率上昇(小)
シュン クルスへの恋心 シュン クルスの傍に居る事で能力上昇(微小)
⇒
画面に映し出されているユウのステータス画面の一番下に、
覇王への尊敬と書かれている更に下に、
シュンへの恋心と言うスキルが追加されていた。
「ねね、ユウちゃん、この、特殊スキルの…、俺への恋心って、なに?」
「ほぇ?あっ、あぁ、あぅあぅ」
「あ、あのさ、まさかユウちゃん?」
「はぅぅぅ、す、すいません、覇王様が凄くかっこよくて、その、あの、すいません」
「ちょっ、そんな謝る事じゃ」
「あ、あの、すいません、私なんかが覇王様の事を好きになるなんて大それた真似、す、すいません」
「いやいやいや、謝らないでよ、それに、俺なんかを好きになってくれたの?」
「は、はい、覇王様って凄く偉い御方なのに、私なんかにも優しくお話下さいますし、お顔もかっこいいですし」
「俺がかっこいい?そんな事絶対ないよ~、産まれて初めて言われたよ~」
「そうなのですか?私には凄くかっこよく見えますが、あ、す、すいません」
「だから謝らないでよ、じゃあさ、ユウちゃん、俺の恋人になってよ」
見た目も中身も凡庸だったシュンは、前の世界では全く誰からも相手にされておらず、
美少女のユウに、かっこいいと言われ、
思わず舞い上がってしまい、告白してしまった。
次の瞬間、何とも言えない空気がその場を襲い、
シュンは慌てて冗談だと言おうとしたが、ユウの瞳が段々と光り輝き出し、
満面の笑顔でシュンに口を開いた。
「私なんかでいいんですか?」
「えっ、う、うん」
「うわぁぁぁ、凄く嬉しいです、勇者でしかない私なんかが覇王様の恋人、はわわぁぁ」
「ちょっ、ユウちゃん、大丈夫?」
私なんかでいいんですか、と声を張り上げたユウに、
シュンは吃驚しながら顔を縦に振る。
それを見たユウは、感極まったのか、身体から力を抜いて、
ヘナヘナと後ろへ倒れ込みそうになり、
シュンが慌ててユウの身体を抱き止め、大丈夫かと声を掛ける。
「あぅぅ、大丈夫です、あ、あの、嘘、じゃないですよね?」
「うん、ってか~、ユウちゃんこそ冗談で言ってないよね?」
「はい、冗談なんかじゃないです、それに、スキルでもう出てますし…」
シュンに抱きかかえられたユウは、嬉しそうな顔をしていたが、
一瞬顔を強張らさせ、嘘じゃないか確認した。
その言葉にシュンは、大きく頭を振って答え、逆にユウへ問うが、
ユウはふにゃふにゃ顔をさせながら、冗談じゃないと告げ、
画面を指差してスキルをもう一度確認させる。
「じゃあ本当にユウちゃんが俺の恋人に」
「はい、私も覇王様の恋人でいいんですね?」
「うんうん、凄く嬉しいよ」
「わ、私も嬉しいです…こんな気持ち初めてです」
抱きかかえてユウの顔を見たシュンは、
その惹き込まれる瞳が閉じて行くのを確認した。
そしてユウの頬は少し紅く恥じらい、シュンの唇を待ち構えて居る様に見えた。
そんな状況にシュンは、一瞬の躊躇の後、ユウの唇に自分の唇を軽く押し当て、
ファーストキスをしたのだった。
「んっ、はぁぁぁ、覇王、様、私、初めてのキス、しちゃいました」
「お、俺もだよ、俺もユウちゃんとしたキスが産まれて初めてなんだ」
「そうなんですか……、凄く嬉しいです、私なんかが初めての相手なんて名誉な事です」
「ははは、俺こそ、凄く名誉な事だよ」
「そう言って頂いて、凄く嬉しいです」
「ユウちゃん、その、もう一回いい?」
「はい、その様な確認を頂かなくても、私は、いつして頂いても構いませんよ?」
「そうなの?じゃあ」
「んっ、はぁぁ、覇王様、まだ、しますか?」
「ん、ん~、その前にもうちょっとだけ話を聞きたいかな」
「は、はい…、なんでも聞いて下さい」
お互い見つめ合い、もう一度キスを交わして、顔を離すとユウは少し上気した表情で、
シュンを見つめていた。
そしてもう一度キスをしたいかと問うが、
シュンはその前にまだ聞きたい事があると言って、
顔を遠ざけた。そんなシュンにユウは、少し寂しそうな顔をしたが、
すぐにその表情を改め、何でも聞いてくれとシュンを見つめる。
「ん~と、地図みたいのはある?」
「はい、えっと、はいこれです」
「今の場所は、分かるかな?」
「あの、私もよくわからないんです……」
「そっか~、あぁ、ユウちゃんは移動魔法とかは?」
「すいません、まだ取得、してません」
「む~、じゃあ空飛ぶ魔法とかは?」
「それも……、あっ、覇王様なら飛ぶ事なんかすぐ出来るのでは?」
「んっ、ほら、俺って、MPないみたいだし……」
「ほぇ?またまた~、覇王様のMPは無限にあるじゃないですか」
「無限?」
シュンが自分のMPは、無い物だと思っていたが、
実は無と表記されていたのは無いのではなく、無限と言う意味であった様だ。
その事を指摘したユウは、ついでに魔法無詠唱化の意味も教えくれた。
ユウが言うには、頭の中で思い描くだけで魔法効果が表れるらしく、
ヒュドラのステータスを見れた事も魔法の1つだと言い、
本来は結構な魔力が必要な物であるとも教えてくれた。
なのでシュンが飛ぶのは訳がないと悟り、
現に2人は今、浮かんだ状態にあった。
「ほ~、あっちに山が見えるね~、あの山がここかな?」
「そうですね、と言う事は、私の住んでいる街は、あっちの方向だと思います」
「なるほど、じゃあ、あっちの方に向かって進んで行こうかね~」
「はい、あっ、でも、この格好のまま行くのですか?」
「ん?苦しい?」
「いえ…、私が重くて覇王様に迷惑かと」
「あぁ、全然重くないって、それに、この格好なら、いつでもキスが出来るかな~って」
「あぅぅ、そ、それなら、はい、このままが、いいです」
「じゃあ、行こうか?」
「はい、お願いします」
上空から見える景色を手掛かりに、ユウが住んでいる街まで、
シュンの浮遊魔法で行く事にした。
移動魔法を使う案もシュンは出したが、
一度も見ていない場所には行けないと教えられ、その案は却下した。
その為シュンは、ユウをお姫様抱っこした状態で浮かび上がり、
浮遊魔法での帰宅の道を選んだのだった。
何故お姫様抱っこかと言うと、会話で判る様に下心を含んでいたが、
ユウも嬉しそうに首に手を回してシュンに抱き付き、
その下心は自分も嬉しいのだと態度で表わしてくれた。
そんなアツアツの2人は、デート感覚で空の旅を楽しんで行くのだった。
空中デートの中、シュンは何度となるキスを交わした後、ユウに尋ねた。
「そうそう、ステータスでさ、⇒ってあるでしょ?あれってなに?」
「あぁ、それはですね、次の画面に移行させる物です」
「なるほど、おっ、装備品とか見れるのか」
聞いてすぐに自分のステータス画面を表示したシュンは、
⇒の所をクリックさせ、画面を移行させた。
装備
覇王の服 防御力 2 重さ 0 使い古されたジャージ、汚い、ダサイ、価値がない
戦闘スキル ⇒
魔法スキル ⇒
作業スキル ⇒
⇒
「俺の着てるジャージ…、防御力2しかないんだ、しかも酷い言われ様……」
「あ、あの、私は覇王様が何を着てても、その、似合ってると思います」
「いや、そんなフォローいいから…、街に付いたらまずは服から買おうかな…」
「そ、そうですね、装備も買った方がいいと思います。鱗とか牙とか、高く売れると思いますし」
「うん、そうだね、高く売れたらユウちゃんにも何か買って上げるね」
「えっ、い、いえ、私は、そんな…」
「ははは、いいからいいから、まあ、高く売れたらの話しだけどね」
ユウの街に帰る手前に、倒したヒュドラがいつの間にか消えていて、
その死体のあった場所に、鱗や牙、角と言った物が転がっており、
それを見たユウが、それらは売れると言うので、鞄に詰め込んで貰った。
それを元手に服や装飾品を、買って上げると言ったシュンに、ユウは遠慮しながらも、
ほのかに表情を綻ばし、嬉しそうにシュンの首に回している手の力を強めたのだった。
誤字脱字、文章の切り方を改善しました。