1.召使、募集
轟々と大きな音を立てて燃えている。一度だけちらりと振り返り、そして私はもう二度と戻れないことを改めて認識しなければならなかった。父も、母も、兄も、姉も皆死んだ。助かったのが私一人だけなのは、この広大な野原で見渡せばすぐにわかってしまう。
だから、そう。あいつを殺そう。私はそう決める。そして今、この瞬間を生き延びるために歩き出す。見渡す限り農地の続く、この広い広原で。
貴族が嫌いだった。
この国の、この世界全ての。
彼らは傲慢で、嫌らしく、自分の事しか考えない。そんな貴族の事が嫌になって、私はいつからか貴族というこの身分を捨てたがっていた。そして父を、母を、兄弟たちをこの鎖から解放したいと考えるようになっていた。
そんなちっぽけな願いもかなえられないまま、今、私は死のうとしていた。貴族という身分を剥がされた途端、私はどうやってこの先生きていいのかわからなかった。たとえどんなことを思っていても、私の中にあるのはどこまでも貴族的な心なのだ。そう自嘲することで何とか、崩れ落ちそうな精神の安定を保つ、そんな日々が幾日も続いた。ふらふらとさ迷い歩きながら、雨水を啜り、ゴミを漁って生きながらえた。
次第に意識が混乱して、起きているのだか寝ているのだかもわからなくなった。果たしてこんな私が生きている価値があるのだろうと幾度も考えた。結局答えは出ずに、ただ結論を後延ばしにするために生きるしかなかった。
だからその看板を見つけたとき、私は生きる為に、死なない為にその選択をしていた。もう私に残されていた選択肢はそれしかなかったから。私はプライドも捨てて、それにすがることにしたのだ。
そこにはこう書かれていた。
「召使、募集」