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◇始動



 運命の出会いからはや一日。

 チョコレートを世界に普及させるべく、王立図書館に情報を求めやってきた。今日もアリカは父親に会いに行く、というかしごかれに行くのだろう。物凄く嫌そうな顔をしていた。

 図書館の利用には本来は面倒な手続きをしなければいけないのだが、父上におねだりしたから問題ない。こういう時に親が権力者だと便利だ。

 司書にアルバロン島関係の本を探して貰うが、全部で五冊しかなかった。アルバロン島は謎が多い島なのだ。

 この辺りでこの世界の地理をおさらいしておく。

 まず、西方三国。楕円型の大陸の真ん中を天竜山脈が縦に貫く。その左側がアイカシア王国である。次に右側を南北に隔てる、川幅二十キロ以上のライン河の北がエルトリア王国、南側がサラディール帝国となる。

 次に草原の国オルレアンがエルトリア王国の東方に、砂漠の国マケドニアがサラディール帝国の東方、オルレアンの南方に位置している。

 更に東方には天華国という、香辛料、砂糖を独占している国がある。

 陸の交易路をオルレアン、エルトリアが抑え、海の交易路をマケドニア、サラディールが抑えているため、エルトリア、サラディールと中の悪いアイカシアには、ただでさえ高い香辛料、砂糖がもっと高くなるという事態が起きている。

 最後にアルバロン島。アイカシアの南方に位置しどの国にも属さない島。天竜山脈で一部接しており、半島と呼ぶべきかも知れないが、実際には陸路で行くことはかなり厳しいので、島と呼ばれている。

 最も謎に包まれた島であり、わかっていることは、強力な魔獣がいる未開の地であり、海の交易路を荒らす海賊の根城であること。そしてカカオが自生する場所であるということだ。

 地理についてはこれで終わりにし、次にチョコレートを作り出すために必要な事を考える。

 まずは場所だろう。カカオの栽培にはアイカシア王国は向いていない。南方のアルベル辺境伯領付近は温暖なんだが、ほとんど雨が降らず乾燥しているため、カカオには向いていないからだ。

 他国も無理だろうから、やはりアルバロン島を開拓するしかカカオを生産できないろう。

 が、それが一番難しい。

 五冊の内一冊には、過去のアイカシア王が大規模な探索、開拓隊を編成したという記録が残っている。

 その結果は二千程いた開拓隊は、最終的に三人まで減り失敗。

 三人が持ち帰った情報には金鉱があることが示されていたが、その王の後、開拓隊が組織されたという記録はない。

 投資に対して割が会わないと判断したのだろう。先見の目がなかったと言わざるを得ない。

 だが俺にとって幸いな事に、小学生の落書きレベルだがアルバロン島の地図が書かれていた。

 アルバロン島の北には人が住むのに適した平地があるが、中央部に強力な魔獣が住む森があり、食料を求めて襲ってくるらしい。北東には天竜山脈を源流とするだろう川が流れているようだ。金鉱もここで発見されている。

 書かれているのはこれだけだ。

 やっぱり情報が少な過ぎる。

 開拓に必要な人材と物資を揃えるのと平行して情報を集める必要があるか……。

「隣に座っても宜しいかしら?」

 いつから居たのだろうか? 俺よりも少し年上の利発そうな銀髪の少女が声をかけてきた。

「構いませんけど」

 初対面だが、誰だかはわかる。

 銀髪と年齢、そしてこの場に居るということから推測すると、ほぼ間違いなくシャルロット王女殿下だろう。記憶が確かなら現在十三歳だ。

「はじめまして私はジュリア・アルベルと申します。貴方様はシャルロット殿下でございましょうか?」

 椅子から立ち上がり、自己紹介をすると、

「ええ、私はシャルロット・アイカシアよ。宜しくお願いするわ」

 シャルロット王女も応える。砕けた言い方だがどこか気品のある、人を従わせる力のある声だ。

 ひざまずき王族に対する礼をした後、疑問に思っている事を尋ねる。

「シャルロット殿下、何か御用でしょうか?」

「いえ、特に用がある訳ではないのだけど、貴方が珍しい本を読んでいるから、少し興味が湧いたのよ。アルバロン島の事を調べてる様だしね」

 シャルロット殿下はそう言うと、テーブルに置いてある本にちらりと視線を向ける。

「ああ、この本ですか? 先日父に興味深い物を頂いて、何でもアルバロン島を原産とする果実、カカコについて調べていたのですよ」

「あら、そうなのね」

 シャルロット殿下と他愛のない世間話を続けていると、唐突に、脈絡なくシャルロット殿下が話しを切り出す。

「貴方はこの星が丸いと思う? 私はそう思うわ。正直に答えなさい」

 射ぬくような視線は嘘を許さなそうだが、本当に突然過ぎる。たぶん今までの会話は前置きでこれが本題なのだろう。さっきから探るような雰囲気はあったし。

 しかし、頭が良さそうだとは思っていたがこれほどとは。この時代の常識は世界の果てには大きな滝があるぐらいの認識でしかない。

「……失礼ですが、殿下がそう考える根拠を聞いても宜しいでしょうか?」

 シャルロット殿下の瞳を覗き込む。

「この前月触が起きたでしょう。その月の影は丸く欠けていたわ。それに月は丸いし……」

 しりすぼみになるシャルロット殿下。おそらく直感的に地球は丸いのではないかと疑っているのだろう。

「根拠としては弱いと思いますけど、有り得ない話しではないと思います」

 返答に驚いた表情をするシャルロット殿下。

「貴方は否定しないのね」

「否定して欲しかったのですか?」

「そういう訳じゃないわ。ただ……驚いたのよ。こんな事を言ったら気がおかしいと思われると思って」

「では、何故私に?」

「それは……、貴方の父が貴方の事をとても頭が良いと言っていたから。同年代の子が同じような事を考えるのか気になったのよ」

 普通の子供はそんなこと考えないだろうな。

 シャルロット殿下はどうやら自分の考えている事が否定されなかった事が嬉しいらしく、アルバロン島についての自身の会見について嬉々として語ってくる。

「――だからね、こことここを川で繋いで一つの大きな運河にすると、アイカシアもサラディールを経由しない貿易ができるようになるでしょ――」

 シャルロット殿下の政策は現実可能かを考えなければ、非常に素晴らしいと思われるものだった。

 その後もシャルロット殿下と話しをしていると、いつの間にか夕餉の時間が近づいていた。

「――では、シャルロット殿下の力になる事を約束しましょう」

 話しをしている内にシャルロット殿下に認められたようで、アルバロン島の開拓の際にはいろいろと援助して貰う事になった。

 今日はアルバロン島についてわかった事は少なかったが、シャルロット殿下と言う強力な協力者を得る事ができた充実した日となった。


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