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CCと婚約者候補達

こんばんは。

まずは感想を書いてくれた人にこの場を借りてお礼申し上げます。

模試の結果があんまり良くなかったので、これからも早くてこのペースだと思います。


たぶん誤字脱字は一区切りついたら纏めて修正します。


後、今回色々と突っ込まれそうな所がありますけど、こんな感じの雰囲気かなとか思って深く考えないでくださいね。言い訳ですけど。


「まずはおめでとうと言えば良いのかな? ジュリアス」


 誰が見ても高価な物だとわかるであろう家具で彩られた執務室の椅子に、エルリック兄様は細く長い足を組ませている。

 兄様が背もたれに体を委ねながら左手の親指で口元を押さえる様は一枚の絵画のようだ。


「私にはもったいなきお言葉にございます。エルリック兄様」

「ふっ、楽にしなさい」

「はい、エルリック兄様」


 澄んだ氷の瞳に柳の眉、人好きのする笑顔で、俺に視線を向けてくる。


「誰なんだい?」


 女あればで思わずくらっとしてしまうだろう甘い表情に心地好い声。

 男に蠱惑的と形容するのは普通なら違和感を感じてしまうが、兄様にはこれとないほど当て嵌まる。男でも思わずあっちの道に堕ちてしまいそうだし、事実兄様は両方イケるらしい。俺は嫌だが、こっちではそう珍しくはない事だった。


「誰? とは婚約者候補の事でしょうか?」

「それ以外に何かあるかい?」

「いえ、ありませんね」


 出来の悪い子供を諭すような上から目線。普通の人間がしたら、確実にイラッとする仕草も兄様にかかれば、自分は傅かれる対象であると無意識の内に刷り込ませる道具の一つなのだろう。

 領地経営や政治力が壊滅的だったアルベル家が軍事だけ今まで生き残ってきた理由の一つ、人心掌握の技。


「公爵の令嬢は噂通りの可憐さだったけど、ジュリアスはどう思っているのかな?」


 誕生日会の初日、招待客への挨拶が終わった後、軍閥派――公爵家とアルベル家を中心にした派閥――の年の近い子供達との会合があった。


「――可憐な方々でしたね」

「――嘘は良くないな。自分の心には正直になりなさい」


 兄様が人をからかうような声を出す。

 貴族が嘘つきでなくてどうするのだろうか? それとも心の底から言っているように嘘をつけと言うことか?


「嘘など……」

「アルフレッド君に聞いたよ。人見知りのアイリスがあんなに饒舌になっているなんて初めてだと。もう口説き落とすなんて、ジュリアスも血は争えないみたいだね」


 別に口説いている訳ではないのだが……。アイリスは見た目通りと言えばそうかも知れないが、根っからの研究者タイプだった。空を飛びたいという夢を抱いた。今までに話そうとしなかっただけで、本当は誰かに聞いて欲しかったのだろう。


「いえ本当――」

「恥ずかしがる必要なんてない、欲しい物は全力で手に入れなさい」


 両肩を掴んで話しかける兄はまったく話しを聞かない。意図的でないにしろあるにしろ質が悪い。


「話しは変わるけど、どこが欲しい?」


 本当に話しの主導権が取れない。


「セイロン地方が欲しいです」


 アルバロン島――チョコレートがある島に一番近い地方。魔物の被害が多いが、豊かな土壌をもっている。

 兄様は意外だな、と思ったようで一瞬目を見開いたが、納得という風な視線を向ける。


「セイロン地方ね。私としてもあの地方は遊ばせて置くにはもったいないて思っていたんだよ」


 兄様は足を右から左に組み替える。何気ない動作すら絵になる人だ。


「でもジュリアスが魔鉱石の事を知っているなんて思わなかったよ。その事は漏らさないようにしていたんだけどね」


 魔鉱石? そんな物があるのか?

 兄様を見ると今までの緩さはなく、水色の瞳は総てを見通すかのように、こちらをみてくる。

 兄様が何を求めているのかはわからないが、嘘は通じないだろう。


「魔鉱石ですか? そんな物が?」

「おや、知らなかったのかい? ――そうか……」


 兄様は俺を射抜くように見て、独白めいた言葉を呟た後、兄様は数秒間考え込む。


「そういう事にして置くよ」


 そう言って兄様が微笑む。

 全く兄様の真意が量りかねない。これが経験の差なのか。






 chocolate commisson 

 チョコレート委員会。


 兄様と話し終わった後、俺はチョコレート委員会――略称CCを発足させた。発足させたと言っても、正式に発表する訳でも直ぐに活動できる訳でもないのだけれど。それでも俺の成人の日に、ある種の誓約のような形で設立するのは、この世界での初めての目標を明確に心に刻みつける為だった。


 チョコレートの全世界、全階級への普及。これが委員会の設立理念にして至上命題だ。だってチョコレートへの好みはあるかも知れないが、それでも一度も食べない人生なんて人生じゃない。少なくとも俺にとってはそうだから。


 六年。俺が二十歳になるまでにチョコレートを普及させる。キリストもアレクサンダー大王も大した時間をかけなかった。道半ばで倒れただけかも知れないが。


 六年後から逆算すると、チョコレートの安定した生産には三四年程度しかかけられない。どんなに美味なる物でも普及するにはそれなりの時間がかかる。その上、一般庶民が普遍的に食べれるレベルまで安くする為には大量に作るしかない。しかし、この世界では手工業が主でそういう設備がない。


 自室の割と大きな机にアイカシア王国とアルバロン島の地図を並べる。

 俺が生まれた国アイカシアはこの世界で一番大きい中央大陸の西端に位置している。隣国との国境を天竜山脈と呼ばれる高く険しい山で遮られているので、数少ない、と言うか一つしかない山道を抑えるだけで防衛が容易な為建国以来七百年独立を保っている。


 で、その唯一の山道を守備する門番がアルベル辺境伯家である。王国の南方に位置しそれなりに広い領土を持っている。俺がいる領都ランカは、山道にある砦に一番近い城塞都市かつ交易都市でもあった。


 ここで隣国へ行くために陸路しか使えない理由にアルバロン島――正確には天竜山脈で繋がっているのでアルバロン半島と言うべきか(どの道陸路では行けないのだが)――の存在が出てくる。沿岸線の大半が切り立った崖であり、凶悪な魔獣が蔓延るアルバロン島はとても開拓できる土地ではなく、外回りの航路は補給無しで進める程穏やかでは無かったからだ。


 もう一つ誰も開拓しようとしない理由がある。それが森の民の存在だ。基本的には知的で穏和、それなりに交易もできる相手なのだが、一族のテリトリーを侵す者には容赦しない戦闘民族だし、何よりハイスペックぶりが凄まじい。生れつきの魔力保有量が多く、扱っている言語が魔法を扱うのに適しているが恐ろしく難解な“古代上級魔法言語”であり、険しい森で暮らしているだけあり身体能力も高い。しかも情に篤く忍耐強い。隣人にするのは良いが、敵対するとこの上なく面倒な相手だった。


 要するに強力な森の民を相手にした上に魔獣を駆逐し、森を開拓してまで手に入れる土地では無かったと言うことだった。


 でもそれだと困るんだよね……。

 指先に髪を巻き付けながら視線を天井へ向ける。

 高い天井には魔力を光に変える照明がかかっていて少し眩しい。

 手で光を遮りながら思う。大量のチョコレートを得るには、カカオのプランテーションを作るのが一番効率のいい方法だ。

 ちまちまと交易なんてやってられない。

 やはり森の民を攻略するのが――。


「ジュリアス様、アルフレッド様とアイリス様がお見えです。お通しになりますか?」

「――えっ! ああ、通してくれ」

「畏まりました」


 驚いた。太陽が沈んでからしばし経つのに何の用だろう?

 アリカが扉を開けて二人を中へと案内する様子を何と無く眺めていると、出迎えの言葉をかける事を思わず忘れそうになる。


「ジュリアス、邪魔するよ」

「失礼します」


 二人が部屋に入ってくる。しかし何でアイリスも?


「どうぞ、何の用ですか?」


 とりあえず二人を地図を広げているテーブルに座るように誘導させると、アリカにお茶を出すように頼む。せっかくなので紅茶を勧めてみる。


「天華国のお茶だよ。一杯どうぞ」


 シュガーポットから角砂糖を三つ取りだし、ティーカップに一つずついれる。

 この動作にアルフレッドは驚いたようだった。


「紅いな、それに今のは砂糖か?」

「そうだけど」

「流石だな。今の三つだけで近衛の鎧一式揃うぞ」


 別に金がない訳ではないと思うのだが。


「流石っ言われても、自分の金じゃないからね……。それより味はどう?」

「おいしい」

「……」


 特に話す事もなく座っていたアイリスは表情を変えず紅茶の感想を言う。それに対してアルフレッドは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。お気に召さなかったようだ。普通に飲むなら絵になる容姿なだけに残念。


「それでここに来た理由何だけれども、昨日、外国の魔導書が結構あるって言っていただろ? それで、アイリスが本を読みたいみたいだから書庫に立ち入る許可が欲しいんだよ」


 アルフレッドは気を取り直したようで爽やかに笑いかける。紅茶は給仕されてから一口分しか減ってない。

 やっぱりこの国には受け入れられないのか。紅茶のおいしさがわからないとは。


「別に構わないよ」

「そうか、ありがとう」


 アリカが入れてくれた紅茶を口に含み喉を通す。やっぱりおいしい。これにチョコレートがあれば最高なんだけれど。


「本当に感謝する。王都だとあまり外の本は手に入らないから」


 初対面の印象とは違い、アイリスはちゃんと会話もできるし、人の気持ちを推し量る事もできるんだよね。ただ興味がないことに対して何もしないだけであって。


「そう長くは滞在しないだろうけど、家に居る間は自由に読んでいいから。僕以外誰も読まないしね。誰かに読まれた方が本望だろうし」


 アイリスなら本を手荒く扱わないだろうし。紅茶も気に入ったようだしね。


「今日は遅いから、明日になったら案内するよ」


「ありがとう」

「そういえばどうして地図を広げているんだい?」


 おそらくずっと気に入っていたんだろう、アルフレッドは興味深か気に問い掛ける。

 測量技術が発達していないこの国ではあまり正確な地図は作られない。けれどアルベル家は軍事関連にはご執心しており、積極的に技術を取り入れているから世界でもトップレベルの技術を保有している。


「ああこれは、僕は分家する予定だから今の内からちょっと調べておこうと思ってね」


 本当は他人に領内の地図を見せるのは感心される事ではないのだけど、まあ、大丈夫だろう。


「どこを貰うんだ?」

「この辺りかな」


 そう言って、アルバロン島近くを指差す。


「田舎だな。どうしてこんな所を?」

「この辺りは今まで人でが足りなくて、放置されていたけど、結構土地が豊かだからね。この機会に魔獣を一掃して穀物地帯にしようと思って」


 アルフレッドは納得が行ったという風に頷く。


「そうか……。この滞在が終わると暫く会う機会がなさそうだな」

「そうなるねぇ」


 それなら、とアルフレッドは不敵な笑みを浮かべ、さらさらな金色の髪をかき揚げる。


「チェス指さないか」


 髪をかき揚げる必要はまったくないんだけどなとか思いながら、昨日の事を思い出す。


「昨日は見たことの無い戦術で負けたからな、逃げるなよ?」

「もちろん」


 この人結構負けず嫌いなんだな。


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