雨の日のカモミール
その日は、雨の降る少し寒い日だった。
「えー!出かける予定だったのに!?」
「急な雨なら仕方ないでしょ」
わかりやすく不貞腐れる祭李と、それを軽く宥める渚莎。
そんなやり取りをする二人の横で俺はどうするか考えていた。
雨が降るとは思っていなかったから、昨日の時点で傘を持ってきていない。
そもそも昨日だって急に泊まることになって、荷物も元から二人の家に置かせてもらっていたもの程度しかないのに。
「ねぇ、ノア」
「?なんですか、渚莎」
渚莎に呼ばれて、一度考えるのをやめて顔を上げる。
すると迷うことなく「もう一泊していく?」と聞かれる。
「……え?」
急なその言葉に少し驚いて首を傾げると、渚莎は言葉を続ける。
「だって雨だし、ノアだって傘持ってきてないだろうし……何より、家が近いからって雨の中帰すのも嫌だし」
「確かに傘は……持ってきていませんけど……」
渚莎のその提案に少し迷っていると、祭李はもう決まったことのように喜びだす。
「ノア今日も泊まんの!?」
「いえ、まだそうと決めたわけでは」
俺がそう言うと、明らかに肩を落とす祭李。
「……泊まんないの?」
「そんな目で見ないでください……」
「だって……」
まるで捨てられた子犬のような目をする祭李に、困りながらも少し考える。
確かにこのままもう一泊しても、問題はないかもしれない。そう思うと返事は簡単だった。
「……わかりました、今日も泊まらせてもらいますね」
「やった!!」
途端に楽しそうにする祭李を見て、思わず笑みが溢れる。
「ノアって祭李に甘いよね」
「っ、そんなこと、ないですよ」
横で見ていた渚莎にそう言われ、言葉に詰まりながらもそう返すと「どうだろうね?」と返してくる。
そしてそんなことを知ってか知らずか、祭李が楽しそうに話しかけてくる。
「じゃあオレ、ノアが淹れた紅茶飲みたい!」
突然のその言葉に驚きつつも、席を立つ。
「……いいですよ、カモミールティーでもいいですか?」
「うん!」
了承を得て、紅茶を淹れるために必要な道具を借りていく。
「……ほら、やっぱり甘い」
「もう、言わないでください……」
紅茶を淹れる準備をしながら渚莎にそう返す。
その横で祭李はただ楽しそうに作業する俺の手元を見ている。
――雨の日は、まだ始まったばかり。




