【処刑直前で時間逆行】私を救うため何度も時を戻した王子は、今度こそ私を離さない。偽聖女の妹と婚約者が勝手に破滅するのを、王子の腕の中から見物します。
処刑された私を救うために、王子は時間をやり直した。
「お前などただの金儲けの道具だ、聖女」
無実の罪を着せた婚約者の公爵と妹が民衆と一緒に笑っている。
やり直した世界では、助けない。
公爵と妹、民衆が勝手に破滅するのを、王子と見てる。
◆◇◆
婚約者の公爵が私を見つめる断頭台の前。
公爵ではなく、王子を選んでいたらこんな事にはならなかったと聖女の私は後悔した。
でも、私は王子より民衆を選んでしまった。
公爵と妹を信じて、処刑される私に暴言を浴びせて唾を吐く民衆を、聖女になる事で選んでしまったのだ。
私の癒しの力があれば多くの人を救えるから……。
——王子がいてくれたら……。
癒しの聖水を密売していた大犯罪人の聖女の処刑を見ようと集まった人々の怒号が響く。
この中に、王子がいてくれたら……。
一目だけでも顔が見れたら……。
公爵や妹、民衆。
私を裏切って落とし入れた者たちへの憎しみに血が沸ることもなく。
純粋なあなたへの後悔だけで終われるのに……。
最後は王子だけを見つめたい。
私は目をつぶった。
「君も俺だけを想っていてくれたんだ……。やっと気づけた」
王子の声が聞こえた気がする。
処刑の直前、死を覚悟した時に、血の気が引いて、私の身体は一瞬で冷たくなった。
王子——!
自分の意思と関係ないところで悲鳴に似た叫び声が上がる。
皆が、ショーのクライマックスに笑みを浮かべている醜悪な声。
その瞬間に、恐ろしいほどの負荷が私の身体にかかる。
世界と私の間を、刃物よりも鋭く切り裂くものがあった。
魔術の刃に世界とのつながりを切られた私。
民衆の声は消え、抱きしめられるように、空間から持ち上がって飛ばされる。
王子の温もりだと思った。
「……やっと、君を手に入れられる……。この瞬間のために全てを捨てて何度もやり直した……!」
世界が回転して、時間が巻き戻っていく……!
転生した時のように。
◆◇◆
「帰って来たね」
私は王子に受け止められていた。
私が捨てたあなた——。
私は泣いていた。
明るい昼間の庭園で、王子に抱きついて……。
まだ嫌な声が頭から離れない。
「大丈夫だ。もう絶対に俺が君を放さないから…誰にも傷つけさせない……!」
王子が抱きしめて髪を撫でてくれる。
ずっと、優しく——。
少し落ち着くと、周りが見えてくる。
明るい庭園で、私と王子は話題の的になっていた。
でも、そんなことはどうでもいい
この人たちは処刑される時には石を投げる。
何も知ろうとせずに、ただ周りに合わせるだけの人たちだ。
そんなことより王子の方が大切だから……もっとずっと抱き合っていたい。
私はずっと強く王子を抱きしめる。
「令嬢……! 人前で……」
「関係ない、王子がいいの」
私の言葉に王子が息を呑む。
「俺も最初から他人なんて気にしてない、君が嫌がるかと思っただけだ。令嬢が同じなら嬉しいよ。俺には君しかいらない」
王子の言葉に胸が痛む。
「ごめんなさい……王子。私はあなたを選ばなかったのに……。また、会いに来てくれて、ありがとう……」
「俺の方が救われてる……令嬢が喜んでくれて良かった……」
「どうして私が喜ばないなんて思うの? 大好きな王子と、本当はずっとずっと一緒にいたかったのに……!」
「……そうだね……。今度こそずっと一緒にいよう……誰にも渡さない」
私も涙を止められなかったけど、王子も泣いていた。
五年間も会えなくて、処刑されて永遠に会えなくなるところだった。
なのに王子が会いに来てくれた——!
「……それで、今日はなんの日か分かるかな? 令嬢」
「え?」
ここは王都の庭園で、王子は身を隠すようにフードをかぶって私に会いに来てくれている。
五年以上前……。
「……聖女の認定日……」
私が王子を捨てた日——。
◆◇◆
教会に年頃の女の子が集められた。
私も妹と一緒にいる。
「姉さん、聖女に選ばれるといいわね」
妹が無邪気に喜んでる。
前回は、妹は本当にただ無邪気に喜んでいると思ったけど、やり直してる今は違う。
妹にとって聖女の力は権力とお金儲けの象徴に過ぎない。
私の聖女としての能力、祈りを込めた水は聖水になって病気の治癒に使われる。
でも、全員分は作れないから、表向きに使う以外にも、隠されて権力闘争や密輸に使われる運命だった。
私はこの力を知ってから、皆のために使わなければと思っていたけど……。
黙っていよう……。
私を信じなかった世界に関われば自滅させられる。
処刑される運命だもの。
「私は未来が見えます」
妹が言った。
ちょっと待って、そんな力はないでしょう?
前回もそんな嘘をついていたの?
私が本当のことを言わなかった。
結果、妹が聖女になっていた。
外に出る。
聖女になった妹を待ち構えていたように公爵が捕まえて婚約を迫る。
前回は私にしていたことよね?
この守銭奴が、聖女と言うものに憧れて、世界を救いたいと思う純粋な男に見えていた。
妹を上から下まで値踏みするように見つめる公爵。
私は自然に、呆れた冷めた目で見つめていた。
ただ、妹も似たようなものだ。
私の聖水を公爵と密売して不正蓄財していたのは私じゃなく妹だった。
私は不意に抱きしめられていた。
「君が聖女にならなくて嬉しいよ」
王子が言う。
「俺だけを見ているんだ、令嬢」
「うん」
公爵と妹、もう関係ない二人だ。
私は王子と手をつなぐ。
「俺と来てくれ。必ず幸せにする」
前回と同じセリフを王子が私を真っ直ぐ見ていう。
前回は断った。
でも、私はうなづいた。
辺境に私たち二人の城を作る。
◆◇◆
王子の転移魔法ですぐに辺境に着く。
目の前には大きな湖と山が広がっている。
湖畔には白亜の美しい城がある。
緑の草原に小さな花が咲いていて、王都とは全然違う心地よい風が吹いてる。
「王子、私と離れてた五年で魔術を覚えたの?」
「……まあね」
「時間まで戻せるなんて……才能があったのね、王子」
「君を取り戻すためなら、何でもやるさ……」
私を助けるために……?
「君が聖女になってから、癒しの聖水が教会の権力の象徴として取引され出したのは辺境にいても聞こえてきたよ」
「……そう……。あの頃は、みんなを助けられてるっていい気になっていたのね……。公爵と妹が『聖女一人じゃ大変だろう』っていつも気にかけてくれて私は凄いんだって勘違いしてた。二人の目的は不正に聖水を手に入れて密売するためだったのに……」
「そもそも、君の力を制限して、聖水なんてもので力を誇示しようとした教会が悪いんだ」
「え? でも教会は聖水で困った人を助けてたわよ……?」
「優先順位をつけて、自分の思い通りになるものにだけ与えているから、密売なんてされるんだ。君の力は本来はそういうものじゃない」
「……でも、水に癒しの力を込められても、みんなに届けるのは無理だから、教会の人たちの手を借りるしか……」
「この、湖に込めればいいんだよ」
「湖に……?」
「この湖は辺境の水源だから、すべての民に届く! 王都全体まではいかないけど、水は海に出て、雨になった戻ってくる。いつか世界中に力が届くよ……!」
私は息を呑んだ。
涙が溢れる。
「王子は、最初からこれを用意してくれていたの……!?」
『辺境には湖がある!』
思い返すと、前回も王子は伝えようとしてくれていた。
最初からずっと私の気持ちを知って尊重してくれてたのに、聞こうとしなかったは私だ。
私は祈りを込める。
太陽の光が煌めく湖面を命の光が貫いていく。
光と光がぶつかって湖の上に火花が散るように光の爆弾が爆発していく。
川に出て遠く海まで続くような光の爆発は、一瞬だけ湖を太陽よりも輝かせた。
「わあぁぁぁ!」
後ろから歓声が聞こえた。
「城のものに君を連れてくるって言ってあったんだ。すごい聖女が何をするか気になって見ていたんだろう。思った以上で驚いたんだろうな……実は、俺も驚いた……!」
「わ……私も、驚いたわ……!」
私と王子は顔を見合わせて笑った。
五年の願いがやっと叶う……でも……。
「……みんなを助けたいとは、もう思えないの……」
私は王子に告白する。
処刑の記憶がそうさせる。
「俺も君と同じ人を助けようとしたのに冤罪でこの辺境に追放された身だ。気持ちはわかる……」
だから、王子は私が聖女になることを反対してた。
私が聖女になる半年前の事だ。
「できる事をやったなら、あとはその人次第だよ。俺が、幸せにしたいのは、みんなじゃなく、君だけだ」
◆◇◆
王都の教会で私は聖女になった。
姉さんには癒しの力があったけど、私にはない。
でも、未来を見る力があるのは本当だ。
姉さんが王都の中央広場の断頭台の前にいた。
美しい聖女の衣装からボロの服に着替えさせられて、まるで稀代の悪女のようだった。
あの善人で純真な聖女の鏡のような姉さんが……。
『あの女がいなくなったら聖水もう作れないな、次は実物のないものを売るか。聖女のとでも箔をつければなんでもいいだろう。コイツらに本物と偽物を見分ける力はない……』
私の横では公爵が、次の儲け話の算段をしていた。
あなたの婚約者が処刑されると言うのに呆れた。
『もちろん、私も協力しますよ、公爵』
私も姉が処刑されるって言うのに他人事だったけどね。
でも、次の瞬間に処刑は行われなかった。
何故か、聖女の選定日に時間が巻き戻っていた。
認定の時に、姉さんは自分の能力を隠していた。
処刑された記憶があるんだ……。
姉さんはもう人を助ける気がない。
本物の聖女がやらないなら、私がやりましょう。
未来を知っているのは本当だもの。
私が本物の聖女になった。
◆◇◆
妹は未来が見える聖女として大活躍しているようだ。
辺境の地で幸せに暮らす私の元にも噂が聞こえてくる。
「聖女様の妹なんですよね? 姉妹で神に愛されているんですね」
湖畔を眺めていると、紅茶を淹れてくれるメイドが言う。
「湖に聖女様のお力が通うようになって、祖母はずいぶん調子が良かったんですよ。先月亡くなりましたが、最期まで楽しくみんなでおしゃべりしていました」
私の力が役に立っている話を聞くと嬉しい。
「水を汲んで王都に売りにいくものもいるらしいですね」
前回の聖水ほどの効果はないから、そこまでのお金にはならないけど、欲しい人はいるだろう。
癒しよりもお金が必要な時もあるだろうし。
軽い効果でわずかなお金なら、それほど問題にならない。
あまりに強大な力になると、得たいと思うものが増えて問題が起きる。
「未来視の聖女様が鉱山を見つけたらしいですね」
メイドが言う。
「投資した人たちが大金持ちになったって」
前回は偶然農夫が見つけて大騒ぎになった鉱山だ。
農夫と領主が大金持ちになっていたけど……。
投資と言うことは公爵か?
聖水の密売で小金を稼いでいたのに、随分と大金を手に入れたみたい。
妹は前回の記憶があるんだ……。
でも、これって未来を変えたことにならない?
私が聖女をしていて、小銭を稼ぐことで満足していた公爵が大金を手にして、何をするのか?
私のいない癒しのない王都は実はいろいろな事が変わっている。
密売されていた聖水を使って生きながらえている人が死ぬ。
彼が鉱山の管理をさせる適任者だったかもしれない。
妹には本当に未来が見えているの?
前回の未来をなぞる事がもう出来ない。
利用できる聖女だった私は、もう降りたの。
◆◇◆
そろそろ前回の私が処刑される時期ね。
妹は未来が見えると言ってそこそこ上手くやっているようだった。
未来は変わったけど、当たりもしないけど完全に嘘にならない事を言い続けたら続けられる。
過去に数回でも当てた実績があれば、大きく外さなければ信用になる……。
詐欺の才能ありね。
「ちょっと、がっかり……」
私は王子にいう。
「そうでもないよ。あの国はもう長くないから、何をやっても上手くいかない時期が来る。むしろ、そういう時期だから詐欺が上手くいってる」
「見てきたようにいうのね、王子って」
王子はそれ以上、何も言わずに私にキスする。
ただ、とろけそうになって、私も王子にキスする。
二人でいつの間にか溶け合ってる。
処刑された私の、二回目の日常。
◆◇◆
王子の言う通り、妹の嘘は破綻しだす。
まず、鉱山で大規模な事故が起きたのだ。
技術のある責任者の不在が原因だ。
事故を予見できるなかったことで未来視の聖女の評判はガタ落ちになる。
利益を得られなかった民衆が聖女を「処刑しろ!」と声を上げて、処刑の日が決まった。
私が処刑された日だ。
公爵が事故の賠償金を減らしたがり、私の癒しの力を求めて泣きついてきたけど、知りません。
王子が魔術で城を隠して、公爵は辿り着けなかった。
「偽物はいらない、嘘の未来に負債だけが残った! 本物の聖女は湖の水を全て聖水に変えられる君だけだ! これを売りつければ全て元通りだ!」
公爵は散々喚いて、夕方には、トボトボと赤く煌めく湖の横を帰っていった。
私と王子は城からいつも見ている湖面に差し込む夕陽の美しさを見ていた。
「君が聖女だった時も、あの国は長くは持たなかったんだ。公爵と妹は結局、破滅していた」
「……え? なんで、王子が知っているの……?」
私が処刑された時の国は安定していたのに……。
「五年じゃないのね……」
王子が微笑んだ。
「……私のために何年過ごしたの!」
「君を失ってから、俺に時間は流れなくなったんだ。君に再会してやっと時間が流れ出した……!」
時間が逆行して、私の時間も流れ出したの。
王子と二人、湖畔に座って眺める。
五年分の季節の移り変わりを眺めた。
「王子と二人で楽しかった……!」
私が笑うと、王子も笑う。
「俺も……もっと二人で過ごしたかった」
夕陽に照らされて、王子は寂しそう。
私も、ちょっとはそう思うけど。
「それは、怒ると思うの」
王子の手を私のお腹に当てる。
「怒ってないみたいだ……」
しばらく手を当てた後で、安心したようなガッカリしたような声で王子がいう。
赤ちゃんはまだ私にしか存在を感じさせてくれない。
「もうしばらく君と二人でこうしていたい」
王子が私を膝に乗せて抱きしめた。
王子の顔が近い。
私はもっと近くに引き寄せる。
「君と、もっとたくさんの幸せを得るために俺は時間を戻したんだ。絶対に君をここから逃がさないよ」
「ありがとう、王子。私が赤ちゃんと王子のことを、ずっと幸せにするからね」
偽物の時間が流れる場所から、本物の人生を生きられる場所に、王子が連れてきてくれた。
遠い偽物の時間が流れる場所では破滅の音が聞こえる。
「世界のことなどどうでもいい、君さえ居れば……」
絶対に安全な逃げられない場所で、二人は幸せにお互いを囲う。




