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どうする?  作者: 藤田
8/8

初め

数日後。

 午後の講義が終わったあと、真は大学の中庭で陽菜とばったり出くわした。


 「久しぶり。実家、帰ってたんでしょ?」


 陽菜が、ふわりと笑った。


 「うん、ちょっとだけ。なんとなく、息抜きってやつ」


 ベンチに並んで座る。セミの鳴き声が遠くに響いていた。


 「そういえば、このあいだ言ってた絵本、まだ探してる?」


 真が尋ねると、陽菜は少し驚いた顔をしたあと、小さく笑った。


 「うん。あれ、たぶん絶版になっちゃってて。図書館にもなかった」


 「そうなんだ」


 真は鞄の中に目を落とした。あのとき借りた本のことが頭をよぎる。


 そして、言葉が自然と口をついて出た。


 「――書いてみようかなって、思ってるんだ。自分で、絵本を」


 陽菜が目を見開く。


 「え?」


 「なんかね、昔のこと思い出して。小さい頃、自分で物語を作ってたの。ほんとにちっちゃい話ばっかりだけど……でも、あのときは、楽しかったんだ」


 「ちょっとまって」


 隣にいた陽菜が、ふいに吹き出すように笑った。

 けらけらと、楽しそうに、懐かしいくらい無邪気に。


「な、なんだよ、そんなに笑うか?」


 俺が少しムッとして言うと、ひなは笑いながら肩をすくめて、

「だって……真がそういうこと言うの、すっごく嬉しいんだもん」


 少し頬を赤らめて、それでもまだ笑ってる。

 その笑顔を見た瞬間、なんだか胸の奥がじん、と熱くなった。


 ずっと前、俺が絵に夢中だったころにだけ見せてくれていた、あの笑顔だった。

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