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どうする?  作者: 藤田
3/8

自分の

 「君って、無難だよね」


 その言葉を向けられたのは、インターン3日目のフィードバックだった。

 言ったのは、30代前半の社員、木崎。鋭い目をした人だった。

 「無難にこなせる」ことは褒め言葉だと信じていた真にとって、その一言は妙に冷たく感じられた。


 「えっと……どういう意味でしょうか」


 思わず聞き返すと、木崎はコーヒーに口をつけながら言った。


 「失敗しないように動いてるのが見えるってこと。

 でも、それってつまり、自分の責任で決めてないってことだよ。

 “これで怒られないだろうな”っていう動き方。俺、そういうのすぐ分かるから」


 冗談っぽく笑ったあと、木崎はそっぽを向いた。

 「ま、別に悪いことじゃないけどね。君がどうしたいか、だよ」


 “君がどうしたいか”。

 またその言葉だ。


 会社の中は、思っていたよりもずっと「個人」に委ねられていた。

 上司に言われたことをこなすだけじゃダメで、自分なりの意見を持ち、動き、責任を持つことが求められる。

 なのに真は、それができなかった。

 「こうしたら怒られない」

 「こう言えば、評価される」

 そんな読み合いばかりしている自分に、ふと気がついてしまった。


 社内の同期インターンの一人、井川は対照的だった。

 年下のくせに堂々としていて、プレゼンでも自分の意見をガンガン出していた。

 その姿を見て、真は何度も羨ましいと思った。

 でも、それ以上に悔しかったのは、自分が“できない”というより、“やろうとしてこなかった”という事実だった。


 その夜、寮のベッドの上で、真は天井を見上げたまま動けなくなった。

 ずっと、こうして生きてきた。

 正解を探し、評価されるように振る舞い、リスクを避け、他人に嫌われないように、波風立てずに。

 でも、そんな自分がいま、「何も残ってない」ことに気づいてしまった。


 どれだけ優秀なESを書いても、どれだけ笑顔で面接を乗り切っても。

 心の中に、「本当はどうしたいのか」という問いに答えられない限り、自分の人生は誰かの答えのコピーのままだ。


 “自分で選ぶ”ということは、間違える可能性を引き受けることだ。

 だから怖かった。

 でも、選ばないまま進み続けることのほうが、もっと怖いと、今は思う。


 寮の薄暗い照明の下で、スマホを手に取り、陽菜にメッセージを打った。


 ――「俺、何したいんだろう」――


 送信ボタンを押したあと、数秒の間、画面を見つめる。

 返事は、すぐにはこなかった。

 けれどその静けさの中で、真は少しだけ、自分が「問い」を持てたことに、救われていた。



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