表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

9


 ○


 俺が神話調査隊に志願した理由は、不死になってみたかった、どのような報酬でも出来る限り叶えてくれると知っていたからだ。

 魔鉄級冒険者として、金は自分で稼げる。

 金では得られないものなら俺は欲しかった。


 王城での選考に向かい、武器や徒手で軽く戦闘した。

 どれも騎士との1対1。

 それが1日目の選考だった。


 2日目、随分と志願者たちは減っている。

 その日は似た武器を持つ志願者全員と戦うことが選考だった。

 俺は5人の猛者たちと戦い、勝利し最終選考日に残る。


 3日目の最終日。

 その日は1対複数の戦闘だった。

 王も見に来ていて、選考に残った奴らは俺含め暇さえあれば見ている。

 今回の依頼人にして、この大陸における最強国家の王。

 とても平和主義で、暇つぶしに大金を掛けると聞いたことがある。

 不死を求める神話調査隊の募集もそれなんだろう。


 厳しいと言いたいけど、特に厳しいと感じなかった選考を通過したのは俺含め5人。

 ベニッツォという元傭兵にして、金級冒険者。

 名前は聞いたことがある。一緒に仕事をしたことはない。


 ステフェンという泥棒。

 王都で一時期騒ぎになった泥棒と聞いた。

 俺が依頼で出ていた時だろう。

 こいつから人選がおかしいと感じ始めた。


 次はブルーズという元兵士で殺人者。

 村人を切り殺したというけど、顔を見る限りはそんなことをしそうにない。

 見た目で分からないのが犯罪者か。


 最後、レイツェルという殺し屋。

 王都では殺し屋に依頼を斡旋する組織があるという。

 こいつもそうなんだろうけど、見るからに怪しい。

 殺し屋とは言わないけど、普通の仕事をしている人には見えない。

 ただ、そんなことすら忘れさせるような美貌を持っている。


 どこかに去っていった宰相の話では、この5人と記録員という俺たちの仕事を記録する人がいて6人が神話調査隊だと。

 しばらく時間が経って、戻ってきた宰相は1人の男を連れていた。


 黒い髪、魔物製の革鎧で腰に剣。冒険者らしい格好だ。

 顔はほんの少し笑っていて、ずいぶんと機嫌が良さそうに見える。

 宰相によると、金級冒険者でタクアンというそうだ。

 若い金級冒険者もいたんだな。


 身なりを整え、パレードをしてようやく出発した。

 記録員のタクアンに指導をするため、文官のエドワードも一時的に旅に同行するらしい。

 タクアンが旅の色々をしてくれるようで、飯を作るのもアイツは慣れていた。


 俺、ベニッツォ、ステフェンが馬鹿なことをしても、冷静に対処できるあたり旅を任せていた金級よりもやるようだ。

 最初の試練、寄生死人の骨灰を手に入れる前、村に襲撃をしてきた寄生猿と戦闘をすることに決まった。


 大回りして森から村へ向かっていると、予想していたように寄生猿に襲撃された。

 数えきれないくらい倒していると、ローブ姿の男がやってきて、戦闘になる。

 寄生猿、巨人みたいなの、魔人を相手することになった俺たちは、タクアンの指示で分かれた。


 俺とブルーズは巨人を引き付けて、森の少し離れた場所へ移動していく。

 魔物相手にしていた兵士の技量は高く、巨人の攻撃を受け止めていた。

 この巨人、体中すべてが人間で出来ている。

 足が寄り集まって足になっていたり、腕や体は人の胴体や腕で出来ていたり、俺の知っている巨人ではない。


 だから攻撃するタイミングを掴んでしまえば、攻撃は楽に通る。

 しかし、攻撃が通っても血は流れず、膝をつくこともないから、面倒だった。


「ジョッシュ、足を切り落とせるか?」

「あと少しだ!」


 大盾で攻撃を受けながら、メイスで攻撃しているブルーズ。

 打撃は効きづらいようで、動きに変化はない。

 しかし、俺の大斧は足を切り落とした。


 柄から刃まで全て魔鉄製の大斧。

 金級に上がった時、ほぼすべての金を使って作ってもらったものだ。

 今では俺の名前より、こいつの特徴の方が広まっている。


 足を切って転ばせると、今度は腕だ。

 当たれば骨が折れるのは間違いない、そんな攻撃をブルーズが受け、俺が切る。

 両腕を落としたけど、動きを止めない巨人の首を落とす。


「なんでこれで、動くんだよ」


 落とした頭も人の体の集合体だった。

 だから顔という感じはなく、頭の機能を持った場所だと思っていたけど、動き続けている巨人。


「ジョッシュ、俺が周囲の警戒をする。お前はこいつを切っていけ」

「わかった」


 巨人というより化け物の体を俺は切り続けた。

 人で出来た化け物を切るのは、とても疲労が溜まる。

 それでも化け物の体を切り続けていると、首の少し下に体中を寄生された人がいた。

 こいつだ、と大斧を振り下ろすと化け物は動きを止め、死んだ。


 他の奴らの所に戻ってきた時は、死にかけに見えたローブの奴がそんなことなかったのには驚いた。

 魔人ってのは攻撃を受けても生きていられる強さがあるみてぇだ。


 村では地下道に誰よりも早く入ったせいで、寄生死人相手に素手で攻撃しそうになっていた。

 タクアンの短剣を使って倒していたけど、使っているうちにへし折ってしまい、言ったのはその日の夜だ。


 翌朝、ベニッツォとエドワードが街まで向かい、騎士や冒険者の派遣を依頼する。

 その間に俺たちは死体の片づけと骨灰を得る予定だ。


 レイツェルはローブの奴、ゲイシーの見張り。

 他の4人で死体を片付けていると、タクアンがおかしいことに気付いた。

 7日くらい一緒に居るわけだけど、こいつずっと笑っている。

 今もだ。


 死体の片づけをしながら笑っている。

 ブルーズ、ステフェン、俺は真顔だと思う。

 それか多少渋い顔をしてるだろうけど、タクアンはずっと機嫌がいい。

 それに気付いたのは他の奴らもだった。


「タクアン、笑いながらするようなことじゃないだろ」

「ゴメン、ジョッシュ」


 謝罪も笑っていた。

 その後は笑みを浮かべていなかったけど、1人だけ楽しそうだったのは間違いない。

 タクアンは死体を分けながら、記録を取っていた。


「タクアン、何書いてんだ?」

「特徴だ。生き残りとか、もしかしたらいるかもしれないだろ?」

「誰が確認するんだよ?」

「オウグストにいた生き残りだ」

「あいつ文字読めんのか?」

「あ、そうか。考えてなかった」


 生き残りの奴には辛いかもしれないけど、生き残りがいるのであれば調べるのは良いだろう。

 他に生き残っている人がいるかもしれない、で明日を生きられる。

 ああ、でも。そいつは狩人として生きていけそうだって話だったか。


 タクアンが全員を書き終えると、死体を燃やしていく。

 とはいえ、火を使うのはタクアンの仕事だ。

 崩れた家屋を薪にして死体と寄生死人を分けて燃やす。


 タクアンは少し離れた場所で骨灰を得るために、準備をしている。

 やることもなくなり、離れた場所で呆けていると馬車が帰ってきた。

 もう1台馬車があって、止まると騎士2名、兵士3名が下りてくる。


「帰ったか」

「ジョッシュ、冒険者は森で寄生猿の処理をしてる。巨人は兵士が」

「そうかベニッツォ。後ろのは」

「ゲイシーを連れていく人たちだ」

「そうだったな」


 ボロボロのゲイシーはすぐに連れていかれ、俺たちはその日、火の番をして終える。

 陽が落ちる前には骨灰を手に入れ終え、死体を全て焼き終えた。

 変わらず夜番は必要だったけど、タクアンは明日の予定を話す。


「明日は街に行って、2日休む。3日目の朝には神話調査隊の仕事を再開だ」


 旅はどれだけ慣れても妙な疲れが残る。

 休みがあるのはありがたい。


 翌日、街に着くと一時的に調査隊の一員だったエドワードと分かれた。

 仕事を終えたから、王都に戻るという。

 タクアンはオウグスト村のデールに読んで聞かせろと、死体の特徴を記した紙を渡して分かれた。


 宿をとって、馬車を預けると夕方ごろだ。

 食堂に集まった調査隊は机を囲んで、互いを労った。

 正気な奴が少ない調査隊、犯罪者2人と冤罪1人、女好き1人、喧嘩早い俺。いつも笑っている記録員。

 そんな奴らとでも旅をしていれば、仲は良くなる。


「それでは、皆さま。杯を上に!」


 芝居がかった言い方をするタクアンはいつも以上の笑顔でコップを掲げる。

 ひとまず試練を突破して気が楽になった俺たちも笑顔で掲げる。


「我々は今夜、杯を空にすることはないだろう。ヘメロに感謝を!」

「感謝を!」


 レイツェルですら上機嫌に杯を掲げて、今を楽しんでいた。

 食事に酒に、さあ、これからというところで食堂の扉が開かれる。

 そこにはエドワードがいて、こちらを見つけると走り込んできた。


「皆さん、昨夜ゲイシーが牢で殺されました!」


 上機嫌から下がっていくのを誰もが感じていた。

 ゲイシーは組織というものに所属して、色々提供を受けているんだったか。

 背中から生やしたのもそれだという。


「小間使いになってくれたら、死ななかったのに。あはははは!」


 1人だけ変わらない上機嫌で杯を呷ったタクアン。

 誰もが呆れながら、食事を始める。

 俺はなんとなく、これからもこういうことがあるんだろうなと、溜め息が漏れた。

これで終わり!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ