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 ○


 夜が明けて、食事をしてから出発した。

 というのも直線距離でベーゲン村まで行くと、昼頃には着くけど話し合いをして変わったからだ。


「タクアン、大回りして行くんだよな」

「ジョッシュ、覚えてたんだ」

「お前、同い年って分かってから遠慮なくなったよな」

「あはははは! 無い方がいいに違いないからな」

「で、大回りして森から村に向かうんだよな?」

「うん。昨日話し合った通りだ」


 だから今は大きな道を通って、村を無視するように移動している。

 基本的に平原が多い場所だけど、ベーゲン村の近くには森があるようだ。

 そこから寄生猿たちは村に来たという。


「調査隊のどうとかいう奴だったか?」


 頭を捻ってジョッシュが溢した言葉は、まるで覚えていないことが分かる言葉だった。

 まだ「あれ、あれ、あれだよ」とかの方が良かったかもな。

 ブルーズとレイツェルは恐らく分かっているから、ベニッツォとステフェンに顔を向けた。

 手綱はエドワードが操作しているから、気にしなくていい。


「な! 覚えてるぞ俺は、あれ、あれ!」

「あれって?」

「調査隊のあれだろ?」


 ステフェンが答えようとしたけど、覚えていない。

 あれ、と言われても酷いのは変えようがなかったな。


「はぁ。神話調査隊の仕事じゃないからだろ。俺たち不死の試練を突破しに来ただけだ」

「ベニッツォはしっかり食事を出そう」

「おい!」

「俺は⁉」


 怒ろうとしているのか身を乗り出すジョッシュ、自分の食事を心配するステフェン。

 高みの見物をしながら、余裕そうに笑うベニッツォ。

 ブルーズとレイツェルは呆れている。

 神話調査隊の面倒である3人はブルーズとレイツェルに任せよう。


「戦闘がある時はしっかりあるから気にしないでくれ。それよりベニッツォが言ったことだ」

「不死の試練だろ」

「んなこと知ってるよ」

「だから、不死の試練以外のことは手を出す必要ないってこと。必要ないどころか関わる事すら嫌がられるかもしれない」

「寄り道するなってことか?」

「ステフェンの言うとおり、寄り道すると面倒になるかもしれないってことだ」


 エドワードが昨日の話し合いで言ってくれたことでもある。

 ジョッシュやブルーズに流されて、俺も寄生猿を相手するつもりだった。

 しかし、調査隊にそんなことをさせるために国は支援している訳じゃない。

 エドワードがいてくれて助かった。


「だから、わざわざ大回りして森から村へ向かうことになった」

「そうだったな」

「それにしても、ジョッシュやベニッツォ、ブルーズは分かるけど、レイツェルとステフェンが人を助けるようなことに賛成してくれたのはどうしてなんだ?」


 聞きたくてうずうずしていたことでもある。

 依頼で人を殺し、義賊を自称して人から物を盗る奴が結果的に人を助けることに協力する理由が知りたかった。

 この言葉には疑問を持っていたのか、ジョッシュやベニッツォも2人を見ている。


「俺は義賊だぞ、他人を助けてんだよ」

「はいはい、義賊ね。レイツェルは?」


 なんとなく予想していたステフェンの返答を流して、レイツェルを見た。

 殺し屋らしいレイツェルはどういう返答をするのか。


「怪しい人影というのが気になったの」

「確かに寄生猿が強いなら、人影は怪しいか」

「私がいない時に裏で幅を利かせる奴は合法的に殺さないと」

「ああ! 同業かもってことか?」

「そういうことよ。王から仕事を貰って戻るときに名が知れてないと面倒でしょ?」


 同意しかねるけど、話を合わせておくために頷く。

 他のみんなも頷いていたから、レイツェルだけは少し違う世界で生きていると分かった。

 これ以降は特に話すこともなく、大回りで移動していると陽は落ち始める。


「思ったより時間がかかったけど、川まで着いたな」

「今日はここらで野営か」

「そうだな」


 川沿いにベーゲン村へは向かえるらしい。

 俺は馬の世話をエドワードに任せて、火を熾して食事の準備を進める。

 明日、もしくは今日の夜には戦闘があるだろう。

 寄生猿が俺たちを見つけないことを祈るしかない。


 食事を終えると、俺はジョッシュとブルーズに武器を渡した。

 夜番は2人ずつでする予定を組んだ。

 焚火の薪で時間を測るから、多少は前後するだろう。

 俺は最後の夜番で朝飯の準備が仕事になっている。


「タクアンさん、私はしなくてもいいんでしょうか?」

「はい。エドワードさんは明日に備えてください。戦闘している中で動くんですから」

「そ、そうですね。分かりました」

「最初の番はジョッシュとレイツェルだったか?」

「そうだ」

「そうだけど、どうかしたタクアン?」


 レイツェルがどうにかジョッシュを押さえてくれると信じるしかないか。

 ブルーズとステフェン、俺とベニッツォ。

 問題が起こっても笑うしかないから、気にしても仕方ない。


「松明は近くに置いてるけど、問題が起こってから使ってくれ」

「分かってるよ」

「わかった」


 俺が眠りに着いたのは馬車内だ。

 疲れていたのかすぐに眠りに入ったはずだ。

 妙な音が聞こえた気はしたけど、誰も起こさないから問題は無いと思っていた。

 しかし、起こされてもいないのに目を覚ますと、馬車の中には丸まったレイツェルがいる。


 訳も分からずキョロキョロとしていると、小突かれた。

 小突いた、いや蹴ったのはレイツェルだ。


「どうしてここに?」

「寝相の悪い奴が多いから、ここにしたの」

「ああ、なるほど」


 幌がかかっている馬車は、ちょうど良い暗闇と隙間から薄明るい光を見せてくれた。

 日が昇り始めているから、そろそろ交代か。

 レイツェルに切られる可能性があるから、さっさと馬車から出た。


 焚火の前でボーっとしているブルーズとステフェン。

 木々に張った防水布の下で、体を広げて寝ているジョッシュ、動いた様子のないベニッツォ、端で縮こまるエドワード。

 ジョッシュは少し離して寝かせる必要があるな。


「後どのくらいだ?」

「タクアン、起きたのか。薪はあと2つくらいだ」

「2人とも寝ていいよ。戦闘するから多少は休んで備えてくれ」

「ああ」

「助かる。何もないのに起きてるのは辛いな」


 ブルーズとステフェンは疲れたように眠りにいった。

 寒くないから問題ないけど、焚火の近くで寝ることになるとジョッシュは問題だな。

 いや、体の大きい男ばかりだから、場所が取れないか。


 マジックバッグから日記を取りだして、記録を始めた。

 焚火の近くは乾燥しているから、書いていくとインクはすぐに乾いてくれる。

 しばらく書いていると、音が聞こえて振り向いた。

 縮こまっていたエドワードが起きたようだ。


「タクアンさん、おはようございます」

「おはようございます、エドワードさん」

「ん? 日記ですか?」

「はい」

「日記が書けるのは金級冒険者だからこそですね」

「確かにインクや紙は高いですから」


 もちろん、国から渡されたマジックバッグ内のペン、インクを使っていた。

 魔物の羽ペンがあったり、高価なインクはペンによく付いてくれるから助かっている。


「朝食の準備までは時間がありますか?」

「はい。あります」

「記録の簡単な見直しをしますか」

「では、お願いします」


 朝食の準備が始めるまでは、エドワードから昨日まで書いていた記録を見直した。

 書けているけど、足りないところがあったり、書きすぎている場所があったりしたけど、書けてないよりはいいらしい。

 朝食の準備からベニッツォを起こして、周囲の警戒をしてもらった。


 陽が昇って少しすると、朝食の準備が出来たから全員を起こす。

 全員、多少疲れながらも起きて朝食を食べ始めた。


「食事を終えたら、俺たちはベーゲン村に行くんだよな?」

「そうだジョッシュ。森を突っ切っていくことになるだろうから、迷わないようにな」

「分かってる。タクアンとエドワードは遅れてくるんだろ?」

「うん。歩いた場所の木にでも印を付けておいてくれ」

「わかった。俺の大斧で木を切っといてやる」


 太い木が多いから無理だろうけど、深い傷が出来てるだろうな。

 俺とエドワードが後から向かう理由は、エドワードが戦えないからだ。


 頭のいい寄生猿という話から、戦闘できない奴から狙われる可能性を考えて遅れて向かうことになった。

 食事を終えて、5人を見送るとエドワードと一緒に馬の世話をしつつ、野営の片づけをしていく。

 それらが終わった後に、俺たちは森へ入っていった。


 ○


 日記をめくろうとした手を止めて、『神話調査隊 不死の試練 記録1』と書かれている本を手に取ったタクアン。

 表紙をめくると神話調査隊の6人の名前が書かれており、次のページには『不死の泉はなかった。私はそれが心底悲しい。ヘメロカリス王国 第32代国王 へメロス』とある。

 それを見て、彼は口を歪めた。


「あるって記録したのに」


 笑いながらページをめくっていると、ノッカーが叩かれた。

 ゆっくりと立ち上がり、扉へ近づいたタクアンは声を掛ける。


「誰だ?」

「冒険者ギルドで配達依頼を受けました。ジョッシュ様からお届けものです」


 タクアンが扉を開けると、そこには若いというより幼い少年がいた。

 肩で息をしながらタクアンを見て、持っていた木箱を渡す。

 少年は腰に短剣を差し、小さなバッグを肩にかけている。

 戦闘が出来るようには見えなかったが、他人の荷物を運ぶくらいには信頼されている冒険者だとタクアンは理解した。


「こんな外れの地にまで届けてくれてありがとう」

「いえ、依頼ですから」

「疲れてるだろ、水くらいは飲んでくか?」

「い、いえ、急ぎですから、帰ります」


 タクアンは急いで帰っていく少年を見送ると、木箱を持って机に戻った。

 木箱は開けられないように釘を打たれているのを確認すると、タクアンは床において片手半剣を振り下ろす。

 箱の残骸を取り除いたタクアンは、配達物の手紙と短剣を持ち上げた。


 残骸はそのままに短剣を鞘から抜くと、金属光沢が書庫に入る陽光を反射してタクアンの顔を照らす。

 剣身の光沢が特徴的な魔鉄の揺らぎを見せ、タクアンは笑みを漏らした。

 椅子に座りながら、封蝋のついた手紙を開ける。

 『短剣の詫びだ』

 封蝋を必要としない短い文にタクアンは声を上げて笑い始めた。


「あはははは!」


 腰の短剣を出して、ジョッシュからの新しい短剣を見比べるタクアン。

 半ばから折れた短剣、魔鉄性の短剣。

 似た大きさだが、素材の価値はまるで違う。


「いいもの貰えたな」


 ニヤニヤとしたタクアンは新しい短剣を腰に差し、開いたままにしていた本のページをめくった。


 『森へ入った一行は寄生死人と出会う前に、寄生猿の群れと出会う』


「狙い通りだったんだけど、予定外って感じだな」


 記録の先を少しだけ読むと、タクアンは日記を手に取り読み始めた。


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