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 ○


「エドワードさん、どうしたんですか?」

「ジョッシュさん、ベニッツォさん、ステフェンさんが問題を起こしたんです」


 予感はしっかりと当たってしまった。

 デールさんに礼を述べてから、エドワードの案内に従って移動していく。


「それで、なにがあったんです?」

「家を借りて、ついでに馬の世話を任せたんですけど……」

「はい」

「その後、全員バラバラに村を周っていたようで、ブルーズさんとレイツェルさんだけが帰ってきて」

「はい」

「しばらくすると、村の人が訪ねて来まして、ジョッシュさんが村の若い人と喧嘩しているみたいです」

「ベニッツォとステフェンは?」


 ジョッシュなら喧嘩しそうだけど、魔鉄級冒険者が若いの相手にして何をしてるのか。

 強いなりの度量を身に着けて欲しいものだ。

 これは、俺が弱いからこそ使える言葉でもある。


「ベニッツォさんはどうやら、えー、女性に言い寄っているようで」

「色男ですもんね。そういう人でしたか。ステフェンは?」

「ステフェンさんは、盗みを働いたようです」

「手癖だとか言ってましたね」

「はい」

「それで今はどこへ?」

「今はジョッシュさんの所です」


 狭い村の中、段々と聞こえてくる声に気が付いた。

 ジョッシュが怒っているのがよく分かる。

 相手の声は若い男のものだ。

 角を曲がって見えたのは、大柄なジョッシュとそれより少しだけ小さい男が言い合っているところだった。

 周囲には村人が集まって、楽しそうに見ている。

 騒がしさがうれしいんだろうけど、喧嘩だぞ。


「ジョッシュ。ジョッシュ」

「ああ⁉ なんだタクアン?」

「ここには喧嘩しに来てないんだけど?」

「そらぁ俺もだよ!」

「何で怒ってんだ?」


 まずはジョッシュから話を聞くことにした。

 村の若い男は俺よりも身長が高くて老けて見える。

 ジョッシュに怒れるくらいだから、冒険者くらい無謀だな。

 とても向いているとは思えないけど。


「このクソガキがよ、俺のことを命知らずの馬鹿って呼びやがったんだ!」

「冒険者はそういう評価されるもんだろ」

「はあ?」

「はいはい、ジョッシュはよし。君はどうして怒ってたんだ?」

「この冒険者が俺をクソガキって言ってきたんだ!」


 あまりにも面白くて、笑いながらエドワードの方を向いた。

 俺と同じだけど、安堵して溜め息を吐いている。

 こらえようとしていたけど止めて、笑いを開放した。


「お前ら2人ともガキだよ。あはははは!」

「ああ⁉」

「おい、あんた!」

「あははは、はぁ。ジョッシュはどういう考えでクソガキ、なんて言ったんだ?」

「考えてない。ガキはクソガキだろ」

「君はどうして命知らずの馬鹿って?」

「冒険者はそういうもんだろう」

「今ので分かっただろ2人とも」

「なにが?」

「どういうことだ?」

「2人とも考えて話をしてないんだよ」


 俺の言葉に2人は顔を合わせて、探るように見ていた。

 しかし、なにかで通じ合ったのか互いに手を差し出して握手をしている。

 確かに2人とも似ているから、すぐに通じ合ったんだろう。

 馬鹿な所とか、体が大きい所とか、たぶん力でどうにかしてきたはずだ。


「ジョッシュ、もういいか?」

「いや、そう言えば話があるってんだったな?」

「ああ。報酬はいらないから俺を神話調査隊に加えてくれないか?」

「だとよ、タクアン」

「俺?」

「戦闘をしないけど、旅に関することを決めるのはお前だろ?」

「だから俺が決めるのか?」

「ああ」


 村人の若い男は体も大きく、筋肉がついていて戦闘は出来そうだ。

 でも、無闇に危険へ突っ込む奴を調査隊に入れる理由はない。

 それに。


「募集を見て選考を受けてないよな?」

「ああ」

「後から来た奴を入れたら、選考を受けた奴から殺されちまう。しかも冒険者でもないならよりダメだ。冒険者として金級くらいになって言ってくれ」

「だってさ」

「わかった」


 渋々頷いた若い男を見て、似た年ごろで旅をしていた俺も馬鹿だったと思い出す。

 戦闘の腕に自信はないけど、村から少し離れた場所まで旅していた。

 そういう馬鹿は多いんだな。


「タクアンさん、次に行きましょう」

「そうでしたね」

「タクアン、次ってのは?」

「ジョッシュみたいに問題起こしてる奴が他にもいるんだよ」

「犯罪者が3人もいるんだから、仕方ないだろ?」

「ベニッツォとジョッシュ、ステフェンだから冒険者が多いな」

「悪かったな。俺は先に帰っておくぞ」

「いや、帰る途中で喧嘩しそうだから一緒に来てくれ」


 狭い村の中、少し進むとベニッツォが見えた。

 がっしりとした村の男性が女性を背にして、ベニッツォを向かい合っている。

 少し離れたここから見る限り、ベニッツォの顔は穏やかな笑みを浮かべていた。

 近づいていくと、ベニッツォが女性への愛をささやき、男性はそれに文句を言っている。


「ベニッツォ、何をしたか教えてもらえるか?」

「おい、こいつの知り合いか?」

「はい、タクアンと言います。まず、ベニッツォに話を聞きますから、話に割り込まないでくださいね」

「あ、ああ」


 ベニッツォの話は所々に女性への賛美が挟まって分かりづらかった。

 いらない部分を抜き取ってまとめると。


「きれいな女性がいたから、一夜を共にしようと声を掛けた。それが夫のいる人だった。で、あってるか?」

「もちろんだ」

「で、あなたは女性の夫ですか?」

「ああ」


 男性は俺を警戒しているように見えた。

 しかし、今の俺には言いわけがある。


「俺もこの人と会ったばかりでどういう人か分かっていません。ここまで女好きとは知りませんでした」

「そうだったのか」

「はい。今度問題を起こしたときは、食事を抜きます」


 笑顔でベニッツォを見ると、驚いたように目を見開いていたけど仕方ない。

 お金の管理をしているのは俺だ。

 問題を起こすなら、それ相応のことをするだけ。


「ほら、ベニッツォも謝って」

「悪かった」

「ということなので、ご迷惑をお掛けしました」


 ベニッツォの服を掴んで、ジョッシュに掴ませると逃げるようにその場から去った。

 角を曲がって見えなくなると、足を止めて振り返る。

 機嫌を窺う子供のように俺を見る、ジョッシュとベニッツォ。

 食事抜きというのは堪えるようだ。


「ジョッシュとベニッツォは家に戻ってくれ。俺とエドワードさんはステフェンの所に行ってくる」

「飯作って待ってるよ」

「作れないだろ。材料は俺が持ってるから、待っててくれ」

「食事抜きじゃないよな?」

「ステフェン次第かもな。さ、エドワードさん行きましょう」

「は、はい」


 絶望の表情を浮かべる2人を置いて、エドワードの後を付いて行く。

 あまりにも面白くて笑ってしまうけど、それをより酷くしてしまいそうなのはステフェンだ。

 向かった先は家だった。

 大きな家は村長の家だとエドワードが教えてくれる。


「あなたがタクアンさんですか?」


 入ってすぐに年老いた人に迎えられた。

 椅子に座ったステフェンの両側には屈強な村人がいて、逃げられないようにしている。


「はい、タクアンです。こちらは王城に勤める文官のエドワードです」


 わざと権威をちらつかせてみるけど、特に動揺した風もない。

 公正な判断をしてくれる証明になってしまったのか、心なしか明るくなった老人。


「何が起こったのか、お話します」

「はい、お願いします」


 自称義賊のステフェンは村に来ていた商人の馬車から、いくつかの商品を盗んだらしい。

 運よく子供がそれに気付いて大人に報告、取り押さえられたステフェンからは商品が出てきた。

 笑いをこらえながらステフェンを見ると、反省したようには見えない苦笑いをしている。


「この者、どういう処遇になるのでしょう」

「王が集めた神話調査隊の者ですから、これと言った処罰はないでしょう」

「そうですか」

「ひとつ聞きたいんですけど」

「はい」

「商品は戻り、誰ひとり怪我なく迷惑を被っただけですね?」

「はい。しかし、それでは……」


 老人は気の毒なくらいがっくりと項垂れた。

 俺自身も処罰だとかできないから仕方ない。

 この領をまとめる領主に判断を仰ぐ必要があるから、そういうのはとても面倒だ。


「安心してください。旅はこれからも続きますから、俺がステフェンに迷惑をかけ続けます」

「はぁ? どういうことでしょう?」

「とりあえず今日は飯抜きです」

「はあぁぁぁ⁉」

「このように自分のしたことを悔いてくれます。良いと思いませんか?」

「ええ、それ以外にないのであれば良いかと思います」

「連れて帰ってもいいですか?」

「はい」


 ゆっくりと立ち上がるステフェンの隣で頭を下げる。


「ご迷惑をお掛けしました。ステフェン、謝って」

「すまん」

「では、失礼しました」


 家を出て、しばらく歩いていると、ステフェンは俺の前に来た。

 またしても機嫌を窺う子供の顔が近くにある。


「飯抜きは嘘だよな?」

「さすがに嘘……」

「うそ?」

「ではないですけど、軽くしますよ」

「本当か?」

「タクアンさん、それ大丈夫ですか?」

「おい、エドワード。せっかく飯にありつけるんだから下手なこと言うな!」


 30歳にしては老け顔のステフェンとエドワードは同い年に見える。

 にしても飯抜きは誰相手でも効きそうだな。

 でも、ステフェンが俺からマジックバッグを盗みだせば、どうとでもなりそうだ。


「で、ステフェンはどうして商品を盗んだ?」

「いや、何て言うか、腕が鈍ってないか確かめたかったんだよ」

「子供に見つかったから鈍ってるな」

「そう言われたら、言い返せないけどな。言うほど落ちてはなかった」

「盗みなんてするなよ。国があらゆる支援をしてくれるってのに、打ち切られたらどうすんだ?」


 俺の言葉に少し考えたステフェンだったけど、笑顔になって何かを思いついたようだ。

 隣を歩くエドワードはおかしなものを見るように、様子を窺っている。


「あの王がそんなみみっちいことするかよ」

「盗みが酷くてステフェンを外すかもしれないだろ。そうしたら死刑だろ?」

「そうだけど」

「処刑人はジョッシュに頼むか。あの斧なら苦しまないだろ?」

「そうだけど。て、んなことならないように神話調査隊の募集に参加したんだよ!」

「盗みを続けるようなら、そうなるってことだから、やめてくれ」

「手癖なんだから仕方ないだろ!」

「じゃあ、レイツェルの身に着けてるものを盗め。できなきゃ腕が切り落とされるだろうけどな」


 綺麗好きの最上級、レイツェルの何かを盗もうとしているステフェンはすぐに想像できた。

 盗れるのか、切られるのかは想像できないけど、賭けとしては面白い。

 想像から口元が笑みで歪むのは仕方ないことだ。


「なに笑ってんだよ。んなことできるわけねぇだろ」

「じゃあ、ステフェンは相手を選び、盗んでいる訳だ。これから盗む必要ないのに手癖はいらないだろ」

「いらなくても出るのが手癖だよ」

「じゃあ、手を頭の上で組んで歩いてくれ」

「それはいいですね」

「そうすれば、動いたのは誰が見ても分かるだろ。自分でも意識してくれればいい」


 俺の言葉に何か言いそうだったけど、両手を頭の上で組んで歩き始めた。

 人家や人の近くを通る度に、腕がもぞもぞするのは見ていて笑えてくる。

 俺はもちろん笑っていたけど、ステフェンの隣にいるエドワードもこらえて震えていた。


「おい、エドワード。笑ってるのか?」

「い、いえ。笑ってはいません! ッぷ。ステ、フェンさん」

「笑ってるじゃねぇか!」

「だって、手がもぞもぞして、ップハハハ!」


 エドワードの笑いは止まることを知らないようだ。

 歩きながらずっと笑っている。


「ステフェン、酒がないと生きていけない冒険者みたいな震え方してるな」

「知らねぇよ」

「今日の所は飯ありかな。明日移動して、夜番するかもしれないから」

「本当か?」

「ああ。食事の時に詳しく話すから」


 借りた家に戻り食事を作っている間、3人に何があったかを話させる。

 すると、ブルーズとレイツェルは呆れて大きな溜め息を吐いていた。

 俺は思わず笑うけど、2人は疲れたような溜め息だ。


 温めたパン、お金を払ったいくつかの材料からスープとステーキを出した。

 7人で囲めるほどの机がないから、思い思いの場所で食べる。

 飲み物はマジックバッグに入っていたワインだ。

 酒は大量に入っているけど、ワインほど飲みやすいものは少ないから困っている。

 他はもっとキツイ酒だから水が望めない場所でしか、飲む気はない。


「俺たちがしたことを打ち明けたから、飯を貰えたのか?」

「違う。明日から向かう予定のベーゲン村を襲撃した魔物の話からだ」

「そういや、食事で話すって言ってたな。夜番するかもって」


 食事で気持ちよく腹を満たして、話すのを忘れていた。

 エドワードも教えてくれたらいいのに、ワインに夢中なようだ。


「タクアン、詳しく教えてもらえる」

「もちろんだ、レイツェル。明日からの予定を話すから聞いてくれ」

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