水陸両用の名将:戚継光⑤
〇台州防衛戦!~倭寇よりも厄介な仲間たち!?の巻~
嘉靖三十四年、西暦1555年。
この年、浙江省と福建省は大ピンチだった。
「将軍!倭寇ですっ!今度はホントにヤバいやつらっす!船でドッカンドッカン来てますってば!!」
――いきなり大声で叫んできたのは、部下の劉顯。
見た目はキリッとしてるのに、報告だけはいつもパニック気味。
「落ち着け。まず深呼吸だ。で、どこに来た?」
「……台州です! あっ、でも違うかも!? あれ、台州の隣だったかも……すみません、地図ぐっちゃぐちゃで……」
「おい……」
将軍として台州に派遣された私は、部下の慌てっぷりに、すでに軽く胃が痛い。
「まぁまぁ♡ 劉ちゃんったら、また地図逆さに見てたんじゃなぁい?♡ 南と北、逆よぉ♡ バカねぇ♡」
――今度は、林悦がツヤツヤ笑顔で登場。
この男、ゴリゴリ系の将校なのに口調が完全にオカマである。そして何故か無駄に元気。
「それより将軍♡ 防衛作戦、どうするのぉ?♡ どこに兵を置いて、どこでお茶にするぅ?♡」
「作戦会議でお茶の話するな」
私はバッサリ切った。
「まぁまぁ!いいじゃないっすか!お茶飲んでリラックスしたら、俺、ちゃんと地図読める気がします!」
と、さっきミスした張本人が張り切っている。
……この戦、大丈夫なのか?
「将軍!わたし……わたし……!」
そこに割り込んできたのは、もう一人の部下・薛綱。
すごい真面目な顔で駆け寄ってきたと思ったら、
「敵の……旗が……ププッ……白地に赤丸って、煎餅に見えません?……うぷぷっ……あかん、笑ってまう……!」
こいつは笑い上戸で、笑いだすと止まらないのだ。
もはや戦況の報告より、笑いのツボが先に来る。
「全員、いい加減にしろ!!」
私はさすがに怒鳴った。
倭寇が攻めてきてるっていうのに、この台州防衛軍、やたらテンションだけは高い。
「いいか、台州の地形は海と山に挟まれてる。港の防衛線を厚くしつつ、丘の上から弓兵を配置する! 林悦、補給路の確認! 劉顯、再度偵察! 薛綱、黙ってろ!」
「はいっ!」
三人が一斉に叫んだ。
でもまぁ、そんなわけで。
我々は、なんとか台州の防衛体制を整えた。
その夜。
作戦会議も終わり、ひと息ついた私の元に、林悦が笑顔でお茶を持ってきた。
「はい♡ 防衛茶♡ 敵をも癒やす♡ 台州名物よぉ♡」
「そんな名物は聞いたことがない」
それを見た劉顯はまた慌てておにぎりをひっくり返し、薛綱は「うぷぷっ」と言いながら鼻で茶を吹いた。
――倭寇よりも油断ならないのは、どうやらこの部下たちのほうだったようだ。
でもまあ、こいつらがいれば。
笑って戦える……かもしれない。
〇童元鎮登場!まじめはツッコミ力でできている!?の巻
嘉靖三十四年、台州の風はちょっぴり塩気が強い。
海から吹く風は顔にしょっぱく、そして部下たちは今日もゆるい。
「うわーっ!やっちまいました!また火薬庫に味噌入れましたっ!」
「え? 味噌って……まさか“補給品の味噌”のこと?」
「はい!“火薬味噌味”ってラベル貼ってやりました!うまくないっすか!?」
――火薬と味噌を間違えるバカがいるか。
振り向けば案の定、報告してきたのは劉顯。
こいつ、すごく有能なのに……細かいところで99点止まり。
「はぁい♡ 将軍ぅ♡ わたしが味噌なめて確認したけど、ちょっと焦げ臭かったわよぉ♡」
火薬なめんな!!
それをニコニコ報告してきたのは、ハイテンションおカマ口調の林悦。
毎度のことだが、この部下たち、戦場という自覚が薄すぎる。
「ふふふ……味噌と間違えた火薬で、敵が豆腐になるんじゃないっすか?うぷぷぷ……」
――って、薛綱、お前も笑うな。
ツボが謎すぎて、もはや危険。
そんなぐだぐだチームに、救いの光が差したのはその日の午後だった。
「はじめまして。童元鎮と申します。現地軍の責任者を務めております」
キリッとした声に振り向けば、そこには背筋の伸びた、真面目そうな男が立っていた。
髪も服もピシッとしてるし、何より顔がすでに「常識です」と書いてある。清廉・実直オーラ、満点。
「いやぁ、ようやくマトモな人が来たな……!」
戚継光、内心で泣いた。ほんとに泣いた。
「よろしくお願いします。現地の兵は士気が高いですが、情報連携に課題があります。そちらの部隊と連携できれば、守りが安定するかと」
「なるほど。こちらの部下も優秀です……たぶん、表面上は」
「……表面上?」
童元鎮が首を傾げると、
「将軍ぅ♡ わたし、童ちゃんって呼んでいいかしらぁ♡?」
「やめてください」
即答。
「将軍ぅ!今度こそちゃんと火薬庫整理しましたよ!ほら、ちゃんとラベルも貼って!“これは爆発する”って!」
「当たり前のことをラベルにするな」
ツッコミ速度が早い。
「将軍……童さん、すごいっすね。突っ込む速度、今まで見た誰より速い……」
「笑うな薛綱。そして君たちも、できれば普通にしてくれ」
童元鎮の顔が、もう頭痛の顔になっていた。
すまんな、これがうちのデフォルトなんだ。
しかし、そんな童元鎮が数日後には驚くほど馴染んでいたのだ。
「林悦、それを兵糧庫に入れろって言っただろう。なぜ馬小屋に?」
「いやぁん♡ “兵糧”と“馬糧”って似てるのよぉ♡ うふ♡」
「馬は豆腐食べませんからね。次間違えたら豆腐になりますよ」
「ちょっと怖くない!?♡」
「劉顯、火薬と味噌は違う。臭いで判断しろ。もし不安なら林悦に舐めさせるな」
「はーい!了解っす!」
「薛綱、お前はとにかく笑いを我慢しろ」
「うぷぷっ……無理ですぅ!」
突っ込み速度はさらに増し、童元鎮は、もはや突っ込み隊長として覚醒していた。
こうして、わたしたちは最強にして最笑の防衛チームとなったのだった――。
〇武器会議はツッコミ待ち!?~やっぱり火薬はなめるモノじゃない~
嘉靖三十四年、夏の終わり。
台州の空はどんより曇り空、だがこの日、戚継光は晴れやかな気持ちだった。
――なぜなら、「武器見直し会議」が始まるからである!
「よぉし、みんな集まったな。今日は“明軍の武器、これでいいのか?”ってテーマで会議するぞ」
「将軍ぅ♡ わたし、そーゆー会議、超ノリノリ♡ 今日こそ“ピンク槍”正式採用してもらうわよぉ♡」
「はい、却下です」
童元鎮、即答である。
「いやー、でもたまには斬新な武器も必要かと! たとえば“爆裂弓矢”とか!」
「それもう弓じゃなくて爆弾だろ、劉顯……。っていうかお前、火薬と弓矢の区別、ちゃんとついてるか?」
「もちろんっすよ! ほら、この前も火薬を矢につけて火を……つけたら……弓が……燃えました」
――何やってんだお前は。
「ふふふっ……そのとき林悦が『燃える男って好きよ♡』って言ったの、マジ笑いましたぁ!」
「薛綱、お前は毎回笑いのハードルが低すぎる!」
戚継光、すでに会議進行に限界を感じはじめていた。
「まぁ落ち着け。今の主力武器は槍と刀、あとは火縄銃と弓だ。だがどれも一長一短……使いこなせなきゃ宝の持ち腐れだ」
「将軍、それって“この武器はこう使え!”っていうマニュアルが必要ってことですか?」
「その通り! 劉顯にしては珍しく良い質問だな。ま、だいたい燃えてから気づくんだがな」
「うぅ、耳が痛いっす……」
「では戚将軍、具体的にはどうするおつもりで?」
童元鎮のまっすぐな視線に、戚継光は自信たっぷりに立ち上がった。
「今こそ、“武器訓練チーム”をつくる! まずは槍隊、刀隊、火器隊に分けて、それぞれ練習するんだ!」
「きゃーん♡ じゃあわたし、槍隊の隊長ねっ♡ でもねでもね、ただの槍じゃなくて、こう……先に鈴とか付けたいのぉ♡」
「戦場に鈴の音が響くと敵が癒やされるだけです」
「なんでぇ!?」
「では私は火器隊に志願します!」
――それ、死亡フラグじゃないか?
「うぷぷぷ……劉顯がまた爆発オチになる未来が見えます……!」
「薛綱、それで笑って終わるな!」
「とりあえず、火器は基礎からやり直せ。火薬を口に入れるな、火縄に顔を近づけるな、そして味噌と間違えるな」
「うぅ……ぐさっ」
「あと刀隊の訓練は、敵より自分を斬らないところからスタートしろよな。薛綱、こないだ足斬ってたろ」
「えへへ……うっかり☆」
「“☆”じゃねえ!」
このようにして、謎にハイテンションな武器会議は、
終始ツッコミの嵐に包まれながら終了したのであった。
だが数週間後――
「将軍! 槍隊は行進中に敵の木にぶつからなくなりました!」
「刀隊は仲間を斬る事故がゼロに!」
「火器隊も……爆発率3割減ですっ!」
「3割はまだ多いわ!!」
ツッコミながらも、心なしか顔がにやける戚継光。
(こいつら……やればできる……のかもしれん)
ツッコミと爆笑と味噌のにおいに包まれながら、
“最強にちょっと足りない”我が軍は、また一歩前進したのであった――。




