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豹変

「しかし、貴殿は一人で一国を滅ぼすという超越者【アンリミテッド】の後継者でしょう。いくらなんでも、この数値は低すぎるのではないかと。何か理由があるんでしょうか」


「さてな。私が師匠から受け継いだのは主に知識だからじゃないか。そこまで、戦闘特化の訓練はしていなかったしな」


実際、師匠は戦闘特化の超越者ではなかった。


生まれ持った才能に加えて飽くなき探究心と知識欲の結果そうなっただけだ。


だから、一応嘘ではない。


合点がいったのか、ザクスは「なるほど、なるほど。そういうことですか」と破顔する。


「では、最後の質問です。貴殿はシャリア様とオリナス様に味方なさいますか。それとも、チャールズ様に味方なさいますか」


「ふむ、そうだな」


腕を組んで目を瞑って思案する。


師匠は亡くなる間際、私にとあることを言い残した。


『数百年前だ。私は自分の好きなことをするため、妹や弟に皇族の責務を丸投げにして帝国から出奔した。やがて超越者と呼ばれるようになり、間接的にでも帝国を守ったつもりだ。しかし、歳をとるにつれ、弟妹の辛い時に傍にいてやれなかったことが少々心残りでな。アラン、もしお前が不老不死になれた時、弟妹の子孫が訪ねてくるようなことがあれば少しで良い。どうか私の代わりに力になってくれ』


私は師匠に救われた恩を返す意味で『わかりました。必ず、力になりましょう』と約束したのである。


肝心の子孫達が後継者争いで二つの派閥に分かれるなんてのは、想像もしていなかったが。


現状だと、ザクスが提示したどちらの側についても師匠との約束は果たせない。


内戦が終わって体制が落ち着いた後、時期皇帝となった人物と話をするのが無難か。


「残念だが、私は立場上どちら側にも味方はできんな。今しばらくは中立でいさせてもらおう」


「そうですか。それは残念です」


ザクスは肩を落とすと、深いため息を吐いた。


「しかし……」


時期皇帝が決まれば、力になろう。


そう言い掛けた時、耳をつんざく銃声が轟いた。


同時に右肩に激痛が走り、衝撃と共に私は地面に仰向けに倒れ込んでしまう。


どうやら、不老不死になっても痛みはそのままらしい。


「ぐ……⁉」


左手で右肩を押さえながら上半身を起こすと、私はザクスを睨み付けた。


彼の手には薬莢式の回転式魔拳銃が握られている。


まさか、自分の開発した拳銃で撃たれるとは思わなかった。


「痛いじゃないか。これはどういうつもりかな」


「残念ですよ、アラン殿」


ザクスは目を細めたまま、口元を邪悪に歪ませた。


「私達は、チャールズ殿下直属の部隊でね。シャリアとオリナスが貴女に接触を図ろうとしている情報を掴んで、先回りしてきたんです。そして、殿下に協力すれば良し。もし、シャリア達もしくは保留するようなことがあれば、殿下は始末するように仰った」


「やっぱりな。そんなことだろうと思ったよ」


師匠との約束があるから黙ってはいたが、段位測定の魔法を秘密裏に行ってくる時点で怪しさ満点だった。


ザクスは意外そうに目を瞬く。


「ほう、強がりを言いますね。しかし、貴女も運が悪い方だ」


「なんだと……?」


確かに、地球から突然転移させられ、苦節七十年以上を異世界で過ごした挙げ句、性別すら変わってしまったから運が良いとは言えないだろう。


しかし、会ったばかりのこんな若造に言われる覚えはない。


「貴殿は超越者のアリサ殿から知識を中心に受け継いだそうですね。だから、段位合計も八段程度。しかし、それでもあれだけの魔法を持っていた」


「あれだけ、だと」


ザクスが目を向けた場所には、私が自身の姿を確認するために生成した巨大な氷鏡ある。


少しずつ溶け出したらしく、巨大な穴に少しずつ水が溜まり始めていた。


だが、『あれ』がなんだというつもりだ。


意図が分からず首を捻っていると、ザクスが急に喉を鳴らして笑い始めた。


「悟られまいと必死ですね。手に取るようにわかりますよ。貴女は段位【レベル】が低くても、素晴らしい特殊魔法を扱えた。だから、アリサ殿が後継者としたのでしょう」


「な……⁉」


あまりにとんちかんな推理で、私は思わず目を瞬いてしまった。


師匠が私を弟子にしたのは、『素晴らしく特殊な生い立ちで、未知の知識と思考を持つから』である。


特殊、というところ以外は全くの的外れだ。


ザクスは私の反応見て図星を付いたと思ったのか、さらに悦の入った様子で口火を切る。


「貴女は実験の失敗を収束させるため、奥の手であるあの魔法を使ってしまった。あれだけの規模、使用する魔力量と負担は相当なもの。我等も貴女が万全の状態なら、段位差があっても危うかったかもしれません。ですが、それも使用後間もない今ならば、怖くありません」


「……確かにその通りだ」


推理が当たっていれば、の話だがな。


だが、これで合点がいった。


彼等は巨大穴に反り立つ氷鏡を目にしたことで、私の力を警戒。


実力をうかがい知れるまで、畏まった対応をしていたのだ。


会話から得た情報と段位測定によって、私が知識を持つだけで脅威に値しないと判断。


唯一恐れるべき氷鏡も発動して間近ということで、連続して使用はできないと踏んだのだろう。


的外れではあるが、筋は通っている。


「お認めになりましたね。まぁ、合計八段と測定できた時点で貴女の負けです。どんな特殊魔法が使えようと、段位差による優位は変わらない。加えて、貴女は特定の形が突出していない以上、恐れるに足りません」


ザクスがそう告げた時、「おい」と大声を発して大柄な男のモフィが前に出てきた。


「茶番は終わったんだろ。こいつを殺すなら、俺が楽しんだ後で良いじゃねぇか」


奴は私の足から顔までを舐めるように見て、これ見よがしに舌なめずりをする。


実に不愉快だ。


「好きにしろ。だが、他の隊員も楽しめる余裕は残しておけよ」


ザクスがため息を吐いて肩を竦めると、周囲の隊員達も邪な眼差しを注いでいた。


こんな注目の浴びかたは、甚だ不本意である。


「わかってるよ。へへ」


モフィはご満悦な表情で私の前にやってくる。


私の身長はおそらく百五十もないが、この男は七尺【約210cm】を超えるような大柄だ。


顔を見上げるのも億劫になる。


「君達は皇族、それも第一皇子直属の部隊なんだろう。良いのかね、こんな乱暴を働いて」






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