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超越の後継者アラン・オスカー ~異世界転移して苦節70年、ようやく私の時代がやってきた~  作者: MIZUNA


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戦争宣言

跳躍して目にも止まらぬ速さで兵士達の頭上を飛んでいく。


程なく、私と使者を覆う結界の周囲に白い膜のようなものが現れ、凄まじい破裂音が響きわたり、強風が吹き荒れる。


「な、なんだ。貴様、一体何をした⁉」


「言っただろ。ただのちょっとした航空ショーさ」


真っ青な顔で戦く使者に私は淡々と告げた。


種は簡単で単に跳躍の速度が『音速を超えた』だけである。


結界を張ったのは私のためではなく、この使者を守るため。


もし結界を張らずに音速を超えれば、使者の身体は音速を超えた時の衝撃で木っ端微塵になっていたことだろう。


瞬く間にシャリア陣営の上空を通り過ぎ、チャールズ陣営の上空に差し掛かると私は速度はそのままに高度を下げた。


その瞬間、地上には耳をつんざく轟音が響きわたり、突風が吹き荒れ、大地がえぐれていく。


私が通った後を横目で見やれば、横一列で整列していた魔戦車が次々と横転し、兵士は吹き飛ばされ、巻き上がった土煙で大混乱となっている。


「この程度で慌てふためくとは、チャールズの軍勢は案外だらしないな」


鼻を鳴らして前を見やれば、やたら強固に設営された陣地が目に入る。


帝国の御旗も掲げられていることから、目的地に間違いないだろう。


私は進行方向に結界を張って足場にすると空中で方向転換し、陣地内で地図が広げられた机の上に颯爽と舞い降りた、はずだった。


しかし、実際には勢いがありすぎて机は砕け、地面がえぐれて爆音と土煙が激しく立ち上がってしまう。


「一体、何事だ」


「敵襲か」


「殿下をお守りしろ」


チャールズの兵士や高官達の怒号が次々と陣内に響きわたる。


想像以上に派手な登場になってしまったが、まぁ、いいか。


私は咳払いをすると、指を鳴らして風を操って土煙を掻き消した。


次いで、大勢の兵士と高官達に守られるように囲まれた『目的の男』を見つけてにこりと微笑んだ。


「やぁ、チャールズ君。久しぶりだな」


「や、やはり、貴様か。アラン・オスカー」


兵士と高官達が一斉にどよめいた。


私の容姿を見たある者は目を瞬き、ある者は目を見開き、ある者は目を丸くして、ある者は戦き、ある者はにやりと笑う。


有象無象を一瞥し、改めてチャールズに目をやれば、彼の頬は以前よりもややこけていた。


目には隈もでき、口元はパサついているようだ。


「少し見ない間に随分と顔色が悪くなったようだな。ちゃんとした食事と睡眠は取らないとダメだぞ。無理が利くのは若いうちだけだからな」


「ふざけるな。誰のせいでこんなことになったと思っている」


やれやれと肩を竦めると、お気に召さなかったのかチャールズは鬼のような形相で怒号を発した。


「まぁ、それだけ元気があれば大丈夫そうだな」


私が意に介さずおどけると、チャールズは舌打ちをして睨みを利かせてくる。


「……それで、貴様。一体何用だ」


「あぁ、そうだった。失礼極まりない男だったが、一応は使者だ。丁重に送迎してきたんだよ」


そう告げると、私は足下で目を回して口から泡を吹いている使者に目をやった。


全く、この程度で気を失うとはだらしない男だな。


兵士、高官達は使者の姿に気付いてざわめくが、チャールズは冷静にこちらを見据えている。


「そうか。それで、ここに来たということは投降の意思があるという事かな」


「チャールズ君、それは面白い冗談だな」


私は喉を鳴らして笑うと、首を横に振った。


「そんなわけないだろう。それよりも、この使者が気になることを漏らしてね」


「気になること、だと」


「そう。何でも、対超越者の切り札を用意したそうじゃないか。是非とも、それを私に使ってほしいと思ってね」


首を傾げるチャールズに頷いて答えると、彼をはじめ、この場の者達の顔色が真っ青になる。


敵側に秘密兵器の存在が知られただけでも大問題なのに、その敵から使ってほしいなんて言われたら驚くのも無理はない。


「あ、安心してくれたまえ。私は逃げも隠れもしない。正面から受け止めるつもりだ」


「相変わらず、ふざけた奴だ」


チャールズが鬼の形相で苦々しく呟くと、彼を護衛していた兵士で図体のでかい男が悠然と前に出て来た。


ぱっと見た感じ、身長は八尺【約240cm】を優に超えていそうだ。


私の容姿を見るなり、にやりと笑った男でもある。


「殿下、このような小娘。恐れることはありません。私がこの場で倒してご覧にいれましょう」


「ほう。超越者を前にして中々度胸があるじゃないか。それとも、身体ばかりで頭の小さい木偶の坊かな」


私が目を細めて応じると、男は舌打ちをして指の骨を鳴らしはじめた。


「口の減らねぇ、ガキが。ところで噂に聞いたんだが、モフィの奴はお前がやったそうだな。本当か」


「モフィ? あぁ、モフィ・マッケンジー君のことか。確かに、私が汚物は焼却したよ。君は彼の友人なのかな」


首を傾げて答えると、男の額に青筋が立ち目が血走った。


増強魔法を発動したらしく魔波が吹き荒れ、彼の上半身を覆っていた衣服と装備が弾け飛び、鍛え抜いたであろう肉体美が露わになる。


「あぁ、そうさ。いけ好かねぇ野郎だったが好敵手であり親友だった」


彼はそう吐き捨てると、手を拳に変えて身体を大きくねじりはじめる。


「お前ら、命がけで殿下を守れ。俺の全力を出すぞ」


「か、畏まりました」


どうやら男は隊長格らしい。


兵士達は彼の言葉に頷くと、チャールズと高官達を守るべく結界を展開した。


「こんなところにのこのことやってきたのが運の尽き。この一撃で消し飛ぶがいい」


「ほう、これは面白い。増強十段、結界十段。合計段位三十七とはね。モフィには一歩劣るが、中々の段位【レベル】じゃないか」


段位判定を発動して男の強さを確認すると、私は手を叩いて賞賛を送った。


「ほざけ。てめぇみたいな、ちんちくりんの幼女にモフィの奴がやられるわけがねぇ。消え失せろ」


男はねじった身体から勢いをつけ、私に向かって拳を力のかぎり振り下ろした。


次の瞬間、私がいた場所を中心に爆音が轟き、強風が吹き荒れ、土煙が舞い上がる。


チャールズ、高官達、兵士達の戦く声が陣地内に響きわたった。


周囲から騒がしいざわめきが聞こえるなか、だんだんと土煙が晴れていく。


「おぉ……⁉」


「や、やったのか」


周囲から期待に満ちた声が聞こえてくる。だが、すぐにその声は絶望と落胆に変わった。


男の振り下ろした拳を私が右手の人差し指だけで受け止め、無傷だったからか。


もしくは私の周囲の地面はえぐれていても、足下の地面だけは何事もないからだろうか。


「ぐ、ぐぐ……⁉」


「どうしたんだ。そんなに苦しそうな顔をして。ちんちくりんの幼女が相手だぞ」


「こ、このクソガキが」


必死に歯を食いしばる男の額には、幾つもの血管が浮き出て大量の脂汗がでている。


さらに力を込めているのだろうが、この程度の力、私にとっては赤子同然だ。


「やれやれ。チャールズ君も君達も、超越者というものがどういうものか、未だに理解が足りていないらしいな」


私は肩を竦めておどけると、右手の人差し指で止めていた男の拳。


その腕を左手でゆっくりと掴んだ。


「力の込めかたを教えてあげようか。少年」


「な……⁉ がぁああああああ⁉」


目を細めて微笑み掛けながら少し力を込めると、男の太い腕に私の左手が食い込んでいく。


爪を立てれば、辺りに鮮血が飛び交うことだろう。


「な、何を見ている。奴は敵だ。撃て、撃ち殺せ」


チャールズが叫ぶと、兵士や高官達がハッとして魔拳銃や魔小銃を構えた。


「や、やめろ。俺にも当たる。やめてくれ」


銃口を向けられたことに気づき、男が必死に懇願するが「構わん、撃て」とチャールズの号令で一気に銃声が轟く。


放たれた銃弾によって、でかい図体と筋肉美に優れていた男は、瞬く間に血と肉の塊になってしまった。


私が左手で持っていた腕以外は、である。


「あらら。酷いことをするものだ」



無論、私は結界を張っていたので無傷だ。


その姿を見てか、この場にいるものが戦き、たじろぎ、腰を抜かして尻餅をついた。


「あ、あぁ……」


「これが超越者【アンリミテッド】……」


表情が絶望の色に染まる彼等を横目に、私は「さて……」と呟いてチャールズを見やった。


「使者は返した。そして、交渉は決裂。対超越者の『あれ』とやらを楽しみしているぞ、チャールズ君」


「ぐ……」


持っていた男の手をチャールズに向かって投げ捨てた私は、シャリアの元に戻るべく背を向けた。


しかし、言い忘れていたことを思い出してハッとする。


「あ、そうそう。シャリアからの伝言だが『この期に及んで伝えることなどない』そうだ」


私はそう告げると、にこりと微笑んだ。


「では、諸君。今をもって戦争のはじまりだ。せいぜい私を楽しませてくれよ」


「ふざけるな。撃ち殺せ」


チャールズの怒号で再び数多の銃声が響きわたるなかで、私は跳躍してその場を去った。






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