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超越の後継者アラン・オスカー ~異世界転移して苦節70年、ようやく私の時代がやってきた~  作者: MIZUNA


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使者

シャリア率いる約二万の辺境軍とチャールズ率いる約四十万の討伐軍。


両軍が大草原に展開して一触即発の雰囲気で睨み合うなか、チャールズ・ローグスミスの使者がこちらの陣営を訪れていた。


陣内の最奥に設けられた椅子には金色の全身鎧姿を纏ったシャリアが腰かけ、ひじ掛けに頬杖を突いている。


その両隣に私とオリナスが控え、全身鎧姿のリシア達も護衛として並び立っていた。


なお、使者の対応をするため、全員が兜を脱いでいる状態だ。


この場にいない『ガドラス・クリューゲル』は、シャリアの代わりとしてマーサ砦の指揮官を任されている。


万が一、魔物がマーサ砦を突破するようなことがあれば、シャリアはチャールズと魔物に挟まれてしまう。


私がこの場にいる以上、そんな状況でも両軍に勝てる自信はある。


しかし、手が足りずにシャリア陣営に多少なりとも被害が出てしまう可能性があった。


その点を考慮すれば、どうしても熟練の人員を砦に割く必要があったのだ。


ガドラスはマーサ砦司令官の前任者である。


彼と熟練の兵士を砦に残すことで後顧の憂いを絶ち、我々はこの戦争に全力を尽くせるというわけだ。


「……以上がチャールズ殿下からの伝言でございます」


豪華で派手な服装から察するに高位の帝国貴族と思われる使者は、読み終えた書状を丁寧に折りたたむと、シャリアの傍に控えていたリシアに手渡す。


彼女は使者の動向を警戒しながら書状を受け取ると、畏まってシャリアに差し出した。


チャールズの書状を要約すれば降伏勧告だ。


ローグスミス帝国皇女、シャリア・ローグスミス。


ローグスミス帝国第四皇子、オリナス・ローグスミス。


逆賊アラン・オスカー。


以上の三名を国家反逆罪とする。


辺境軍が速やかに武装解除を行えば、兵士達の命は保証する。


これを断った場合には、討伐軍四十万の兵力によって完膚なき殲滅に処す……というものだった。


陣営内に重い空気が流れるなか、シャリアは書状を片手で雑に受け取ると鼻を鳴らして笑った。


「次期皇帝を狙い、建前と形式を気にするチャールズらしいやり方だ。だが、奴は最初にして最後の勝機をたったいま失った」


「は……?」


使者がきょとんと首を傾げるなか、シャリアは書状を宙に投げた。


「な、なにを……」


「目の前に倒すべき相手がいるのだ。ならば建前や形式など気にせず、ただ撃てばよい」


「う、うわぁ」


彼女は冷淡に告げると、椅子から颯爽と立ち上がって腰に下げていた回転式魔拳銃を抜いた。


銃を目の当たりにした使者が戦き目を瞑ると、銃声が連続で陣内に轟く。


「このように、だ」


シャリアは吐き捨てると、銃を腰にしまった。


彼女が放った銃弾によって、書状は穴だらけとなって力なく地面に落ちる。


「お見事」


私が感嘆の声を漏らすと、その場にへたり込んでいた使者が書状の惨状に目を丸くする。


彼は血相を変えて青筋を立てると、勢いよく立ち上がった。


「シャリア皇女、貴女は狂っております。チャールズ殿下は、貴女達さえ投降すれば罪のない兵士達を助けると、自筆の書状まで用意したのですぞ。皇帝の座を欲するのは貴殿の自由でしょうが、罪なき兵士達まで巻き添えにする必要がどこにあるというのです。それに……」


使者はそう言うと、私をじろりと睨みながら指をさしてきた。


「このようなちんちくりんの幼女が超越者なわけがありません。そもそも、超越者などおとぎ話の存在です。いえ、もし仮に超越者であったとしても、本気で辺境軍の兵力と幼女一人ごときで討伐軍四十万を倒せると考えておられているんですか」


声を荒らげてまくし立てた使者が肩で息をしながら言い切ると、陣内は静まり返る。


しかし、空気は張り詰め、肌がひりつくような緊張感が漂いはじめた。


随分と失礼な物言いであるが、使者の思考は理解できなくもない。


帝都での私がやった行いは情報統制が敷かれていたし、超越者が表舞台にでてくるなんて歴史上ほとんどないからだ。


『超越者には何人たりとも手を出してならない』という伝承。


超越者がどのような存在だったのかというおとぎ話は各地にあるが、今となってはそれが真実かどうかを知る者はいない。


超越者の物語を信じて恐れる者もいれば、チャールズやこの使者のように『ただの伝承』と一蹴する者がいるのも当然といえる。


討伐軍に属しているのは、そうした一蹴する者。


もしくは『シャリアが皇帝の座につくと困る者達』ばかりなのだろう。


「言いたいことはそれだけか」


シャリアが鋭い目つきで一瞥すると、使者は戦慄を覚えたらしく後退った。


「どうやら貴殿のような礼儀知らずの無能な腰抜けを使者に立てるあたり、チャールズは我等を舐めているようだ」


「わ、私が礼儀知らずで無能な腰抜けですと。その言葉、無礼にも程があります。舐めているのはそちらでございましょう」


使者が前に出ようとすると護衛のリシア、ヴェル、アスリが武器に手を掛けて構えた。


使者は「う……」とびくりとして、足を止めてしまう。


「だから腰抜けだというのだ」


「そうですね。では、使者殿にはおかえりいただきましょう」


肩を竦めたシャリアにオリナスが相槌を打つと、リシア達が使者を陣内から追い出すべく近付いていく。


しかし、使者は「お、お待ちください」と咄嗟に声を荒らげた。


「こちらの話はまだ終わっておりません。オリナス殿、貴殿は狂った皇女とこのちんちくりんな幼女を信じるおつもりですか」


その一言にオリナスの肩がぴくりと動き、童顔が般若の如き形相に変わった。


「貴様こそ一体何様だ」


「な……」


今までのオリナスとまったく違う低く冷たい声に、使者の顔が一瞬で真っ青になっていく。


シャリアの言動はあくまで威厳に満ちたものだったが、オリナスの言動には殺気が満ち満ちている。


これがオリナスの本性だとすれば、意外と彼の方が敵対者には容赦がないのかもしれない。


オリナスは使者に詰め寄ると、「頭が高い」と間髪入れず鳩尾に拳をめり込ませた。


うめき声と共に使者が腹を押さえながら這いつくばると、オリナスは容赦なくその頭を片足で踏んだ。


「言っておくが、私も一応はローグスミス帝国の皇族に名を連ねる存在だ。勝手に名をよぶな、下郎が」


「も、申し訳ございません」


使者が必死に謝罪の声を漏らすと、オリナスは彼の頭髪を掴んで持ち上げて凄んだ。


「そもそも、だ。使者の分際で、皇女である姉上に随分と無礼な口を利けたものだな。数々の目に余る言動は、皇族に対する不敬であり、貴様を使者として送り込んだチャールズも同罪。我等が戦うには十分な大義名分になったと、帰ってチャールズにそう伝えろ」


「ぐぁ⁉」


オリナスはそう吐き捨てると、使者の顔を叩きつけるように手放した。


陣内に殺伐とした空気が流れ、使者のうめき声だけが聞こえてくる。


しかし、私は腑に落ちず頬を膨らませていた。


オリナスがシャリアに対する無礼にだけ怒りを露わにしていたからである。


私に対する無礼について、彼は何にも触れていない。


つまり、オリナスの中での私は『ちんちくりんの幼女』ということである。


もしくはそれに近い何かだ。


もしかすると、初対面の時に裸体を晒したのが糸を引いているのかもしれない。


「お、おのれ。いい気になるなよ、殿下に逆らう反逆者どもが」


地面に伏せていた使者は苦しそうに呟くと、顔をあげて不敵に笑い出した。


「チャールズ殿下は、この討伐戦に備えて対超越者の切り札を用意した。たとえ、どんな者が相手であろうと『あれ』によって塵となるのだ」


使者はそう言って高笑いをはじめるが、陣内の誰もが彼を冷ややかな目で見ていた。


私を除いて、である。


対超越者の切り札、実に興味深い代物だ。


「ほう、それは面白そうだな」


私はにやりと口元を緩め、使者の前に進み出た。


「シャリア。私はこの使者をチャールズのところまで送ってくる。問題はあるか」


「いや、ない。アランの好きにしてくれ」


許可を得ると、私は使者の腕を掴んだ。


何事かと、使者は顔を引きつらせる。


「な、なんだ。何をするつもりだ」


「なに。戦前のちょっとした航空ショーさ」


そう言って微笑むと、私は結界で自身と使者を覆った。


「では、行ってくる。チャールズに何か伝えることはあるか」


「そうだな」


シャリアは口元に手を当てて考えを巡らせると、不敵に笑った。


「この期に及んで伝えることなどない」


「わかった」


私は空高くに跳躍すると、背後に結界を展開してチャールズ陣地に向けて蹴り飛んだ。


その瞬間、周囲に凄まじい破裂音が轟くのであった。






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