076・壁の穴
地下2階へとやって来た。
構造的には、上の階と変わらない。
ただ、空気が少し冷たくなった気がした。
コツ コツ
足音を響かせながら、通路を歩く。
歩きながら、
「このダンジョンの採掘場は、天然洞窟の方にあるの?」
と、聞いた。
カーマインさんは「ん?」と振り返る。
地図を見て、
「そうだな」
「…………」
「地下3階の部屋から、洞窟に出られる。その洞窟で鉱石が発掘できるらしい」
「そっか」
じゃあ、この建物部分は、ただ通り抜けるだけかな?
そう聞くと、
「そうなるな」
と、頷かれた。
「昔は、この建物から古代の宝物とか見つかったらしいが、今じゃ、全て取り尽くされてるらしいからな」
「そうなんだ」
「ま、現状、年月のロマンを感じる場所って訳だ」
「なるほどね」
僕は、周囲を見る。
古い建造物。
昔々は、ここにも人が暮らしていたのだろう。
そう思うと、うん……確かに不思議で、年月の流れに感傷的にもなれてしまう。
フランフランさんも、
「ここで生活してた人たちは、どんな人たちだったんでしょうね?」
と、周囲を見て呟いていた。
兄の方も「確かにな」と頷く。
アシーリャさんだけは、あまりに気にした様子はなかったけど。
そんな会話をして歩いていくと、
(お……?)
通路の先に、また地下への階段を見つけた。
「地下3階だな」
「うん」
僕は頷いた。
ヒラヒラ
道案内の『光の蝶』もその階段の闇へと飛んでいく。
僕らは頷き合った。
そして、地下3階の階段を下りていった。
…………。
…………。
…………。
地下3階に到着した。
構造は変わらないけれど、壊れている部分が多くなった。
並んでいる柱は何本も折れていて、崩れた壁からは、大量の土が通路まで流れ込んでいた。
(…………)
地震でもあったのかな?
何か、大きな力で建物そのものが歪んでしまったみたいだ。
赤毛の獣人青年は、
「……このまま崩れたりしないだろうな?」
と、不安そうに呟く。
い、嫌な想像だなぁ。
でも、そう不安になるぐらい、建物の崩壊が大きかった。
お化け屋敷度もアップしている。
フランフランさんも、何だか心配そうに周囲の歪んだ壁などを見ていた。
金髪のお姉さんは……うん、平気そう。
アシーリャさんのその変わらない姿は、逆に何だか頼もしかった。
そうして、僕らは前に進む。
いくつかの通路の分岐を選び、土砂の山を越え、倒れた柱の上を歩いていく。
やがて、1つの部屋に出た。
その壁が大きく崩れ、奥に洞窟が続いていた。
(……ここか)
僕らは壁の穴を覗く。
洞窟の高さは、10メートルぐらい。
その中間ぐらいの高さに、壁の穴は通じていた。
僕は『光の翼』を生やして、獣人兄妹とアシーリャさんは優れた身体能力で、そこから洞窟の床へと飛び降りた。
フワッ トン
靴が地面に着く。
(ふぅ)
さて、どっちに行くのかな?
光る蝶を見れば、
ヒラヒラ
それは、右の方へと飛んでいく。
僕ら4人は頷き合って、そちらに向かった。
土と湿気の匂い。
それを感じながら、洞窟を歩いていく。
…………。
しばらく歩いたけれど、幸いにも、ここまで1度も魔物には遭遇していない。
ちょっと不思議。
カーマインさんは、
「滅多にないが、別にそういう時もない訳じゃないさ」
と、笑っていた。
(ふぅん?)
そういうものかな。
まぁ、目的は魔物討伐じゃないからいいんだけどね。
危険はないに越したことはない。
…………。
15分ほど歩いた。
洞窟も時々分岐したりしていて、僕らは光る蝶のあとを追っていく。
地図を見ながら、
「……また採掘場とは違う場所に向かってるな」
と、カーマインさんは呟いた。
「そうなの?」
「おう。どちらかというと、建物の周りをグルッと回ってる感じだな」
「ふぅん?」
どういうことなんだろう?
赤毛の三つ編み少女も不思議そうな顔で、思わず、僕らはお互いの顔を見合わせてしまった。
そのまま、蝶を追って歩いていく。
そして、更に10分後。
ヒラン
その光る蝶は、唐突に、洞窟の壁に止まった。
(え……?)
僕らは目を丸くする。
周囲を見るけど、採掘場ではない。
ただの洞窟の通路だ。
この壁に、また鉱石が埋まってるのかな?
そう思って、
「杖君、探査の魔法を」
ピィン
杖君から同心円状の光が広がった。
でも、壁のどの部分も光らない……おや?
「どういうことだ?」
彼も困惑した様子だ。
(う~ん?)
壁に鉱石はないらしい。
でも、道案内の蝶は、洞窟の壁に止まったままだ。
杖君を見る。
ピカピカ
杖君は、何かを促すように光った。
「うん」
僕は頷いた。
理由はわからない。
けど、杖君は多分、ここを掘って欲しいみたいだ。
僕は、杖君の先に『光のドリル』を生み出した。
それを見て、アシーリャさんもつるはしを手に握り、それに獣人兄妹も顔を見合わせると、兄の方がつるはしを構えた。
ギャリィン カツーン カツーン
僕らは、洞窟の壁を掘る。
足元に溜まった岩は、フランフランさんがどけていく。
そして、作業開始から5分。
ガラッ
(お……?)
ガララン
洞窟の壁が、音を立てて崩れた。
掘った穴が、どこかに通じたみたいだ。
土煙が舞い、やがて、落ち着く。
「遺跡……?」
その先にあったのは、さっきまで歩いていたのと同じ建造物の部屋だった。
え……僕ら、また戻ってきたの?
僕は、キョトンとなった。
フランフランさんも、困惑した顔である。
その兄は、地図を確認する。
「これは……地図に載ってない場所だな」
「え……?」
「多分、遺跡の新しい区画だ」
「…………」
「要は、別館……みたいな感じか? さっきの遺跡とは通路なんかで繋がってない建物だぞ」
「そうなの?」
僕は、びっくりだ。
つまり、ダンジョンの未発見領域。
その事実に、フランフランさんは「ふわぁ……」と驚愕に震える声を漏らしていた。
カーマインさんも、
「おいおい、マジか。こりゃ、お宝、見つかるかもしれんぞ」
と、目を輝かせた。
本当に……?
何だか、僕も期待してきた。
ワクワク
そんな中、アシーリャさんが危険を確認するように、ランタンをかざしながら壁の穴を覗く。
周囲を見て、小さく頷いた。
「大丈、夫……です」
「うん」
僕も頷く。
赤毛の兄妹を振り返って、
「じゃあ、中、入ってみようよ」
「おう、そうだな!」
「は、はい!」
2人とも、期待に弾んだ声の返事だ。
それに、僕は笑う。
兄妹も笑い返した。
それから僕は、アシーリャさんに手を引かれて、崩れた穴の中へと入っていった。




