表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生した僕は、チートな魔法の杖で楽しい冒険者ライフを始めました!  作者: 月ノ宮マクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/81

074・破砕

 若い男女の冒険者は、何度もお礼を言って去っていった。


 白い洞窟に残されたのは、僕ら4人だけ。


 お互いの顔を見る。


「どうする?」


 カーマインさんが口を開いた。


 光る蝶を見て、


「あの蝶が案内してるのは、かなりやばそうな結晶生物の所みたいだぜ?」


「……うん」


 僕は頷いた。


 足元には、負傷した冒険者の真っ赤な血だまりがあった。


(…………)


 フランフランさんは、兄と僕の顔を交互に見る。


 それから、


「あ、諦めて、引き返しますか……?」


 と、言い難そうに聞いた。


 確かに、それも1つの決断だ。


 Dランクの魔物。


 それは、現在、Eランク冒険者の僕らの手には負えない相手ということだ。


 もちろん、ランクが絶対ではないけれど……。


 アシーリャさんは、


「…………」


 無言で、僕の顔を見つめていた。


 獣人兄妹も僕の考えを聞こうと待っている。


 僕は言う。


「このまま、行ってみようよ」 


「いいのか?」


 赤毛の獣人青年は、確認するように聞き返してきた。


 僕は頷いた。


「うん。だって、杖君が導いたんだ」


「…………」


「本当に僕らの手に負えない相手なら、杖君は、きっと案内しないよ」


「そうか……」


 彼は考え込む。


 僕は、杖君を信じてる。


 だから、きっと、その魔物を倒して『魔力結晶』を手に入れられると思うのだ。


 そんな僕の手を、


 キュッ


 アシーリャさんが握った。


 彼女を見る。


 彼女は優しい表情で、コクッと頷いた。


 柔らかな金髪が肩からこぼれる。


 そんな僕らをフランフランさんは見つめて、そして、兄の方を見た。


「兄さん」


「……おう」


 兄は苦笑した。


 赤毛の髪をガリガリとかいて、


「そうだな」


「…………」


「これまで、ニホの魔法に散々助けられてきたんだ。わかった、今回も信じるぜ」


「うん」


 笑顔で言う彼に、僕は頷いた。


 そして、杖君を見る。


 ピカン


 杖君も嬉しそうに光っていた。


 それに僕も笑った。


 …………。


 そうして僕ら4人は覚悟を決めて、更にダンジョンの奥に向かったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 白い結晶の洞窟内を歩いていると、


 ヒラリ


 突然、僕の頭に『光の蝶』が止まった。


(あ……)


 その意味を、僕だけでなく他の3人も悟る。


 歩くのをやめ、物音を立てないように注意しながら、少しずつ前方へと向かった。


 白い結晶の洞窟は、下り坂になっていた。


 坂の上から、下を覗く。


 ガシャッ ガシャッ


 その空間に、巨大な蜘蛛のような、カニのような8本足の結晶生物が歩いていた。


(……でっかい)


 素直に驚いた。


 体長5メートルぐらい?


 洞窟の幅の3分の2は埋め尽くしているサイズだ。


 足の1本だけ、巨大な鋏になっている。


 鋏の先端の白い結晶には、真っ赤な血が付着していた。


 ……うん。


 あの若い男の冒険者がやられた時のものだろう。 


 そして、


「おい、背中を見ろ」


 小声で告げて、カーマインさんが指差した。


 その先を見る。


(お……?)


 その結晶生物の背中に、紫色の透明な結晶の塊が生えていた。


 僕は聞く。


「あれが魔力結晶?」


「そうだ」


 彼は頷いた。


「色が変わってるだろ? それだけ高濃度の魔素が詰まっている証拠だ」


「ふぅん……」


「しかし、本当にでかいな」


「うん」


 あの結晶だけで、1メートル近い。


 あれを持ち帰れば、採掘目標の量には充分、到達しているはずだ。


 まさに、お宝を背負った魔物。


 …………。


 僕らは、その巨大な姿を見つめた。


 やがて、


「よし、やるか」


「うん」


「結晶生物に有効な攻撃ができるのは、お前とアシーリャだ。頼むぜ」


「ん、わかった」


「は、い」


「俺は、サポートに回る。フランも矢で援護しろ。通じなくても、気は引ける」


「う、うん、兄さん」


 僕らは了承し、フランフランさんも緊張した面持ちで頷いた。


 最後に、彼は笑って、


「最悪、逃げればいいんだ。油断せず、けど、気楽に行こうぜ」


 そう続けた。


 それに、僕らも笑みをこぼした。


 いい意味で、緊張もほどけた。


 それから、僕は深呼吸。


(杖君、頼むね)


 ピカン


 その心の声に、杖君も光った。


 そして僕らは顔を見合わせ、頷き合う。


 それぞれの武器を構えると、


(それ!)


 タタン


 目の前の下り坂を一斉に駆け降りていったんだ。

 


 ◇◇◇◇◇◇◇



 巨大な結晶生物も、僕らに気づいた。


 ガシャシャッ


 8本の足を動かして、僕らに向き合う。


 そして、1本だけ巨大な長い鋏の足を持ち上げて、先頭を駆けていたアシーリャさんへと振り下ろした。


(アシーリャさん!)


 その動きに、僕は恐怖する。


 けど、彼女は前転するように跳躍して、その攻撃を回避した。


 ガシャアン


 巨大な鋏は、結晶の床を叩く。


 白い破片が飛び散り、キラキラと輝いた。


 ヒュパン


 素早く起きたアシーリャさんの長剣が、8本足の1本を切断する。


 まるで太い柱。


 それを彼女は、簡単に斬った。


(凄い……!)


 その神業に、つい目を奪われる。


 けど、巨大なカニのような結晶生物は、残った7本足で器用に立っていた。


 そのまま、アシーリャさんを追う。


 ガシャアン ガシャアン


 連続して鋏が振り下ろされ、彼女は長い金髪をなびかせ、それを回避していく。


 その巨体の頭部に、


 カチィン


 火花と共に、フランフランさんの矢が命中した。


 傷はない。


 けど、その意識は分散したみたいだ。


 アシーリャさんへの攻撃が減る。


 カーマインさんも獣人特有のしなやかな動きで近づき、雷の魔法剣を振るった。


 バヂィン


 白い結晶の足に当たり、青い放電が散る。


 結晶に損傷はない。


 けれど、まるで熱いものが触れたみたいに、結晶生物はその足を引っ込めた。 


 そう牽制しながら、彼は言う。


「足だ、足を狙え、ニホ!」


「うん!」


 僕も叫び返した。


 タタタッ


 獣人兄妹が気を引いてくれている内に、僕は結晶生物に駆け寄って、


「杖君、ドリルの魔法!」


 ピカン


 杖君の先端に『光のドリル』が発生した。


 それは回転して、


 ギャリリィン


 結晶生物の足に当たると、火花と光の粒子を散らしながら、その結晶の足を大きく削り落とした。


(やった!)


 結晶生物は、こちらを向く。


 けれど、


 ガシャン


 脆くなったその足に体重がかかった瞬間、その足が折れ砕けた。


 これで、更に1本。


 残りは、6本だ。


 そう思った時、


「馬鹿! 止まるな、ニホ!」


(え……?)


 カーマインさんの叫びで、我に返った。


 足が砕けても、まだ6本足のある結晶生物は、バランスを崩していなかった。


 そして、その鋏のある太い足が、僕の頭上に振り上げられていた。


 あ……。


 気づいた僕は、


「つ、杖君、3重防御魔法!」


 と叫んだ。


 ピカン


 杖君が光り、僕の身体は3重の『光の球体』に包まれた。


 直後、


 ズガァン


 馬鹿みたいに大きな鋏が、僕の頭上に落とされた。


 パキィン ビシィッ


(う、わ……っ?)


 3つの内、2つの球体が砕け、最後の1枚にもひびが走っていた。


 何て威力!


 本当に危なかった。


「ニホ、さん!」


 アシーリャさんが焦ったように僕を呼び、長剣を振るった。


 ヒュパン


 また1本、足が斬れた。


 さすがに、少し巨体のバランスが崩れた。


(っ……今だ)


 その隙に、僕は急いで結晶生物から距離を取った。


 カーマインさんとフランフランさんも雷の魔法剣と弓矢で、その動きを援護してくれた。


 近づくのは、本当に危険だ。


 今の所、優勢だ。


 だけど、1発でも当たったら、僕らにとっては致命傷になる。


 絶対に気は抜けない。


 タッ タン


 それでも、アシーリャさんはあの巨大な結晶生物に近い間合いで戦いを挑んでいた。


 ……うん。


 本当に、凄い勇気だ。


 剣を届かせるには、仕方がない。


 けど、わかっていても、それができるのは本当に凄かった。


(本当に尊敬だよ)


 僕も負けてられない。


 その姿に勇気をもらい、僕も前に出た。


 獣人兄妹の援護を受けながら、防御魔法を駆使して、


「えいっ!」


 ギャリィイン


 光のドリルで、その足を削っていく。


 何度も、何度も。


 …………。


 …………。


 …………。


 やがて、結晶の足の数は次々に減っていった。


 そうして、ついに残った3本足の1本を、


「やっ!」


 ヒュパン


 アシーリャさんの長剣の青い刃が斬り裂いた。


 ガシャアン


 煌めく結晶を散らして、足が砕ける。


 僕も、


「えいっ!」


 ギャリィン


 もう1本の足を『ドリルの魔法』で削り落とした。


 ズガシャアッ


 巨体の足を失って、胴体が床に落ちた。


 結晶同士が擦れる甲高い音と火花が、僕の眼前で激しく巻き起こった。


「ニホ、上だ!」


 カーマインさんの警告。


 見れば、残された1本の太い鋏の足が、また高々と掲げられていた。


(くっ)


 僕は杖君を構えて、


「3重防御魔法!」 


 ピカン ガシャアン


 叩きつけられる巨大な鋏を、辛うじて3重にした『光の球体』で防いだ。


 2枚の光の壁が砕ける。


 そして、もう1枚の光越しに、


(あ……)


 アシーリャさんが転がる巨体の結晶に駆け登り、アルテナの長剣を振り被る姿が見えた。


 ヒュパッ


 最後の鋏の足が切断される。


 それは床に落ちて、


 ガシャアン


 火花と共に砕けて、白い輝きを周囲に散らした。


 ギシ ギシ


 残された胴体部分は、けれど、身じろぎするだけでそれ以上、何もすることができなくなっていた。


(――うん)


 僕らの勝利確定だ。


 赤毛の獣人青年も「よっしゃ!」と拳を握った。


 その妹の少女も息を吐き、構えていた弓を下ろしていた。  


 トン


 アシーリャさんも、結晶の胴体の上から地面に降りる。


 僕の方へ来て、


「ニホさん……とどめ、を」


 と、促された。

 

 …………。


 少し間を空けて、


「うん」


 僕は頷いた。


 生き物を殺すことに、まだ抵抗があった。


 でも、結晶生物はゾンビだ。


 すでに生きていない。


 だから、殺すことにはならないはずだった。


 そう言い聞かせていると、


「死後の肉体、を……穢される……その不条理から、ニホさんの聖なる光、で……救ってあげてくだ、さい」


 と、アシーリャさんが言った。


 少し驚き、彼女を見る。


 彼女は、金髪を揺らして頷いた。


(…………)


 そう言えば、彼女は聖女の護衛の見習い聖騎士だったんだ。


 死者を弔う聖女。


 その姿を、何度も目にしてきたのかもしれない。


 そして、その感覚が彼女の中には残っているのかも……?


 そんなアシーリャさんを見つめ、


「うん、わかった」


 僕は、もう1度、頷いた。


 …………。


 もう、心はブレない。


 僕は『光のドリル』が生えた杖君を槍のように構えた。


 ギシ ギシ


 白い結晶の胴体だけが蠢いている。


 その中心部へ、


「えいっ!」


 ギャリィン


 虹色の光を散らしながら『光のドリル』は突き込まれ、その結晶を削っていった。


 …………。


 …………。


 …………。


 3分後、数メートルあった胴体部は、粉々に砕けていた。


 足元に、白い塊が散乱している。


 そして、その中に、大きさ1メートルはあろう紫色の『魔力結晶』の塊が丸ごと転がっていた。


 ランタンの光に、妖しく輝く。


「…………」


 うん、凄く綺麗だ。


 小さな手で、それに触れる。


 冷たい。


 けど、不思議な波動みたいな何かを感じた。


 これが魔力、かな?


 と、そんな僕の元へと、アシーリャさんが近づいて、


「お疲れ様、でした……ニホさん」 


 穏やかに微笑んだ。


 アメジスト色の瞳は、とても優しい。


 僕も微笑んだ。


「うん、ありがとう。アシーリャさんもお疲れ様」


「は、い」


 彼女ははにかんだ。


 ピカピカ


 杖君も、僕らを労うように点滅していた。


 そして、そんな僕らの方へと、赤毛の獣人兄妹も明るい表情で駆け寄ってくる。


 …………。


 巨大な『魔力結晶』。


 思わぬ戦闘はあったけど、僕らはそれを手に入れることに成功した。


 その『魔力結晶』の塊を背負い、やがて僕らは、この『南東ダンジョン』をあとにしたんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ