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異世界に転生した僕は、チートな魔法の杖で楽しい冒険者ライフを始めました!  作者: 月ノ宮マクラ


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067・グランビット装備店

「その鍛冶師さん、どんな人だろうね?」


 ロックドウムの通りを4人で歩きながら、僕は、ふと呟いた。


 僕の呟きに、


「そうだなぁ」


「…………」


「あのレオナ男爵が懇意にしてるなら、相当な職人だと思うぜ」


「ふぅん?」


 カーマインさんの言葉に、僕は頷いた。


 そして、気づく。


 赤毛の青年が語る声には、男爵様への確かな敬意が込められていたんだ。


 尊敬の念というか。


 うん、男爵様を認めてるって感じ。


 僕は首をかしげて、


「レオナ男爵って、そんなに凄いの?」


 と聞いた。


 途端、兄妹がギョッとしたように僕を見た。


「おま……っ、マジか?」


「ニ、ニホ君……」


(え、何?)


 何でそんな驚いたり、残念な子を見るような目になるの?


 僕は、キョトンとしてしまう。


 カーマインさんは、ため息をこぼした。


「あのな、ニホ?」


「うん」


「レオナ男爵は、元Aランクの冒険者だ」


「うん、知ってる」


「いや、知ってねぇ」


「…………」


「ここ、アークランド王国は、冒険者の数が大陸で1番多い国だ。その中心の王都でAランクになってんだぞ?」


「…………」


「そんな人間は、本当に一握りだ」


「う、うん」


 彼の目は真剣だ。


 いや、本当に怖いぐらいに……。


 カーマインさんは続ける。


「平民上がりだから、身分は男爵だ」


「…………」


「けどな、言い換えれば、それはアークランド王家が認めたから平民から貴族になれたんだ。言うなれば、王家のお気に入りの家格なんだよ」


「そうなの?」


「おう、そうなの!」


「……うん」


「だから男爵でも、国境の土地を任されてるんだぜ?」


「そっかぁ」


 なるほど、と、僕は頷いた。


 男爵様は、思ったより力のある貴族だったみたい。


 後ろ盾が王家。


 うん、凄いや。


 ようやく僕も理解する。


「んで、そんな元凄腕の冒険者で有力貴族な人物が懇意にしてる鍛冶師だぞ?」


「あぁ……うん」


「な? 相当な職人に決まってる」


「だね」


 その推理に、僕も納得だ。


 彼は、獣耳の生えた赤髪をガシガシとかく。


「……ったく」


「…………」


「魔法は凄い反面、お前って本当に世間知らずだよなぁ。俺は、心配になるぜ」


 なんて言われてしまった。


 あはは……。


 僕は、曖昧に笑う。


 フランフランさんは、


「で、でも、そのギャップがニホ君の魅力ですよ」


 と、微笑んだ。


 フォロー、ありがとう、フランフランさん。


(本当、優しいなぁ)


 そんな妹に、


「フラン……お前、そんなこと言ってると、将来、苦労するぞ?」


「……将来?」


「に、兄さん!」


 僕はキョトンとし、獣人少女は真っ赤になって慌てた。


 兄の口を必死に手で押さえようとする。


 賑やかだなぁ、2人とも。


 通りを歩く他の人の迷惑にならないか、僕はそっちが心配になっちゃうよ。


 ちなみにその間、


「……ふぁ」


 アシーリャさんは我関せず、僕の隣で欠伸をしていた。


 うん、こっちもマイペース。


(やれやれ)


 でも、それがアシーリャさん。


 その分、保護者の僕がしっかりしないと……ね。


 そう思っていると、


 ピカピカ


 杖君は、何だか困ったように明るく光っていた。


 はて……?



 ◇◇◇◇◇◇◇



 教えられた住所を探して、通りを歩く。


 途中、人に道を聞いたりしながら30分ほど歩いて、ようやく目的地に到着した。


 目の前には、1軒の店があった。


「ここ?」


「……だな」


 僕の確認に、カーマインさんは頷いた。


 古びた小さな店舗だ。


 それは、大通りにある立派な大型の武器防具店とは違って、裏路地にある、言い方は悪いけどみすぼらしい店構えだった。 


(……う~ん)


 元凄腕冒険者だった男爵様の推薦。


 そんな店舗には、正直、見えなかった。


 むしろ、すぐ潰れそうな……?


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 僕ら4人は、しばし無言で店舗を見つめてしまった。


 やがて、


「よ、よし、入ろうぜ」


 意を決したように、赤毛の獣人青年が言った。


(うん) 


 僕らも頷く。


 そして、年季の入った木製の扉を開けて、店内に入った。


 ガラン ガラン


 扉に備え付けた来客用のベルが鳴る。


 入った店内は、やはり狭かった。


 でも、清潔で、棚などに整然と武器、防具が陳列されていた。


(……ふぅん?)


 どれも綺麗だ。


 上手くは言えない。


 けど、素人の僕でも、安物ではない雰囲気が感じられたんだ。 


 何か、装備に気品がある。


 そして、奥のカウンターに、1人の少女が座っていた。


 少女……?


 僕は、首をかしげた。


(いや……違う)


 小さいけれど、成人女性だ。


 多分、ドワーフの女の人。


 身長は、僕と同じぐらい。


 だけど見た目の年齢は、20歳ぐらいだ。


 ううん、ドワーフなら実年齢はもっと上かな……?


 身体は筋肉質。


 肌は日に焼けていて、灰色の髪を無造作にポニーテールにまとめていた。


 その紫色の瞳が、来客の僕らを見る。


「おや、いらっしゃい」


 彼女は、そう言った。


 そういう接客なのか、結構、気さくな感じ。


 僕らは、会釈。


 そんな僕らの全身を、彼女は眺めた。


「ふぅん?」


 彼女は呟く。


 それから、


「Eランク、もしくはDランクになったばかりの冒険者かな?」


 と、呟いた。


 わ、正解だ。


 見ただけで言い当てられて、少し驚いた。


 こんなことが実際にできる人、世の中には本当にいるんだね?


 獣人兄妹も目を丸くしている。


 彼女は笑って、


「装備とその使われ具合を見れば、まぁ、わかるさ」


 と、教えてくれた。


(そうなんだ?)


 僕は、素直に感心する。


 そんな僕らに、


「アタシの店に来てくれて、ありがとね」


「…………」


「でも、ここは基本、全品オーダーメイドでね。少し割高なんだよ」


「…………」


「だから、もし手頃な値段でいい装備を探してるんなら、表通りの商店に行った方がいいと思うよ」


 と、アドバイスされてしまった。


 それに、僕は青い目を丸くした。

 

 純粋な親切心。


 それを感じた。


 貧乏客を追い払おうとか、そんな感じじゃない。


 武器、防具が必要な人に、適切な値段できちんとした物が買えるように、そう思っての心からの助言だった。


 あ……なるほど。


(この人、職人だ)


 損得よりも、仁義、信念、誇りが大事。


 そういうタイプだ。


(……うん)


 僕、そういう人、大好きかも。


 僕は笑った。


「ありがとうございます」


 頭を下げる。


 そして顔を上げて、


「でも、このお店でお世話になりたくて」


 と、続けた。


 ドワーフの女店主さんは、少し困った顔。


 僕は肩かけ鞄から、


 ガサゴソ


「これ、レオナ・フォルダンテ男爵からの紹介状です」


「え?」


「見てもらえますか?」


「あ、うん」


 彼女は驚いた顔で、封筒を受け取った。


 封蝋を剥がし、中を見る。


 …………。


 最初は訝しげな顔だった。


 やがて、それは真顔になり、次に驚きに変わった。


 そして、泣き笑いに。


「そうかい……レオナの娘、助かったのかい。あぁ、本当によかった」


 そう嬉しそうに呟いた。


 おや……?


 男爵様、そんなことも書いてたの?


 でも、女店主さんにも喜んでもらえているみたいで、こっちも嬉しかった。


 そして、その言葉で悟る。


(この人、男爵様と友人関係なのかな?)


 名前、呼び捨てだったし。


 パサッ


 やがて、彼女は手紙を折り畳んだ。


 僕らを見る。


 最初よりも親しげな眼差しだ。


「アンタらが、アタシの友人の娘を助けてくれたのか」


「うん、まぁ」


「そうかい。レオナは本当に長年、娘のことで心を痛めていたからね。アタシからもお礼を言わせておくれよ、本当にありがとうね」


「ううん」


「さて、うちの店を紹介されたなら、さっきと話は別だ」


「…………」


「友人の娘の恩人だ。ぜひ、うちで面倒見させてもらおうじゃないか」


 パシッ


 彼女は力こぶを作って、そこを叩いた。


 うん、頼もしい。


 僕は笑って、


「うん、お願いします」


「あぁ、任せな」


 それに、彼女も笑顔で頷いた。


 そして、ふと気づいて、


「おっと、そう言えば、まだ名乗っていなかったね」


「あ、うん」


 そう言えば。


 彼女は、僕らへと真っ直ぐ身体を向けた。


 ドン


 自分の胸に拳を当てて、


「アタシは、アライア。アライア・グラン。このグランビット装備店の店主をしているよ、よろしくね」


 と、豪快に笑ったんだ。

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