066・ロックドウム
野盗と老人に襲われて以降、旅は順調に続いた。
道中、1度雨に降られたぐらいで特に危険もなく、そして旅を初めて7日目の朝を迎えた。
僕らの走り鳥は、街道を進む。
その時、
(あ……)
遠くに、灰色の物体が見えた。
直径7キロほど。
楕円形の卵みたいな巨大な石の塊が地平線上に転がっていた。
何あれ……?
すると、カーマインさんが笑った。
「あれが目的地だ」
「え?」
「鉱山の町ロックドウム。あの巨岩の中をくり抜いて、町があるんだよ」
「ええ、そうなの!?」
驚いた僕は、青い目を丸くしてしまった。
その反応に、フランフランさんも楽しそうにクスクスと笑い声をこぼしていた。
凄いなぁ。
うん、まさに異世界。
ちなみにあの巨岩は、魔法王朝アポロンの時代の大魔法の名残りだとか……そう、冒険者ガイドブックに書いてあった。
ワクワク
実際、どんな町なのかな?
期待に胸が躍っちゃう。
走り鳥の手綱を握るアシーリャさんは、
ポムポム
そんな僕に微笑みながら、焦らないで、と頭を軽く叩いた。
…………。
それから僕らは、街道を真っ直ぐに走って、巨大な岩の中にある町を目指したんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
(おお……)
間近に見ると、凄い迫力だ。
目の前には、灰色の重厚な岩がそびえ立っていた。
左右の端や頂上までは見えない。
ただ巨岩の外壁は、20メートル以上の分厚さで、所々がくり抜かれて入り口や明り取り用の空間になっていた。
そんな町の入り口へ。
外壁の中に詰所がある。
そこで身分証の冒険者カードを提示して、入町許可を得た。
(よしよし)
期待を胸に、いざ町へと入る。
「うわ……!」
僕は、青い目を見開いた。
町には、たくさんの人と建物があった。
民家や店舗。
それらは地面の上だけでなく、巨岩の内側の壁にもあったんだ。
(……凄いや)
町中には、何本も支柱が建っていて、そこに巨岩の壁と壁を繋ぐ通路が何本も通されている。
階段、梯子もあった。
まさに、立体的な町造りだ。
鍛冶屋も多いのか、モクモクと煙をあげている建物もある。
それらは巨岩の天井付近のくり抜かれた穴を抜けて、青い空へと昇って、広がるように消えていった。
…………。
ポカンと口を開けて、それを見上げてしまった。
そんな僕に、3人は笑う。
それから、
「よし、まずは宿を探そうぜ」
「あ、うん」
赤毛の獣人青年の言葉で、ハッと我に返った。
目的の町には着いた。
なら、次は活動のための拠点を見つけよう。
僕は言う。
「お風呂があって、料理が美味しい宿がいいな」
「おう、そうだな」
「あと、安い所」
「わはは、違いない。じゃあ、先に冒険者ギルド行って、聞いてみるか?」
「うん、そうだね」
「おし、決まりだ」
僕とカーマインさんは、頷き合った。
女性陣にも異論はなさそうだ。
杖君も、
ピカピカ
賛同するように光ってくれた。
(うん)
僕は笑い、そして、走り鳥で人混みの中を抜けるように歩いていった。
…………。
…………。
…………。
1時間ほどで、このロックドウムの冒険者ギルド支部を見つけた。
何と、地下だ。
この町には地下通路もあって、その先にギルドがあったんだ。
(本当に立体的だね?)
何か楽しいよ。
岩盤に覆われたギルドの中に入った。
施設内部は、照明もふんだんで普通に明るく、まるで地下だと感じさせなかった。
人も多い。
中には、クエスト掲示板と受付がある。
更に地下もあって、そこはレストラン。
(ふ~ん?)
僕らの登録したレイクランドの町の冒険者ギルドと、構造はそう変わらないみたいだ。
ただ、人種が違う。
レイクランドは、人間が9割だった。
でも、ここでは、背の低いがっしりした体格の『ドワーフ』らしい人種が6割だった。
鍛冶と言えば、ドワーフ。
だからかな?
鉱山の町ロックドウムには、ドワーフの数が多いのかもしれない。
掲示板も覗いてみる。
(ふむふむ?)
やはり、鉱石集めのクエストが多いみたいだ。
あとは、洞窟内の魔物討伐。
他には、鉱石やその加工品の輸送の護衛依頼とか、そうした関連のクエストが見受けられた。
薬草採取は……ないみたい。
うん、残念……。
ま、仕方ない。
土地が違えば、求められるクエストも違うのだろう。
そんなことを僕がしている間に、カーマインさんは、ギルド職員さんに声をかけていた。
事情を説明。
そして、条件に合ったいい宿がないかを聞いていた。
職員さんは、すぐ対応してくれた。
宿の一覧表を用意して、教えてくれる。
設備や値段、色々と情報が書いてあって、
「ここなんかいいんじゃないか?」
「うん」
「そうね、兄さん」
「……は、い」
ピカン
宿を決めて、僕らは頷き合った。
それから、宿の場所を確認して、職員さんにお礼を言ってギルドをあとにした。
◇◇◇◇◇◇◇
宿屋はすぐに見つかった。
高さ15メートルぐらいの外壁にある宿屋だった。
うん、眺めがいい。
結構、宿泊客も多そうだったけど、幸い部屋は空いていて、2週間の間、無事に借りることができた。
(ん、よかった)
ホッと一安心だ。
部屋は、やっぱり4人部屋だ。
岩をくり抜いたような部屋で、けど、清潔感もあり、窓もあって圧迫感などはなかった。
照明もあって、室内も明るい。
窓から見れば、
「わぁ……」
ロックドウムの町が見渡せた。
遥か先に、反対側の岩の外壁が見えていた。
あそこまで、何キロあるんだろう……?
そうして僕らは、部屋の中に、旅の荷物を下ろしていく。
ちなみに2羽の走り鳥は、宿に備え付けの獣房で休んでもらっていた。
別れ際に、
「お疲れ様、ここまでありがとね」
モフモフ
と、いっぱい撫でてあげた。
撫でられるのが心地好かったのか、走り鳥たちも嬉しそうにしてくれてたんだ。
やがて荷物も片付け、一息。
そして、
「さて、それじゃあまずは、男爵様が紹介状を書いてくれた鍛冶師に挨拶に行くか」
と、カーマインさんが言った。
「あ、うん」
そうだね。
新しい装備を作るのに、きっとお世話になる人だ。
礼儀は大事。
彼の提案に賛成して、僕らも頷いた。
そうして僕らは徒歩で、ロックドウムの町にいる鍛冶師さんに会いに行くことにしたんだ。




