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異世界に転生した僕は、チートな魔法の杖で楽しい冒険者ライフを始めました!  作者: 月ノ宮マクラ


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063・野盗

 2羽の走り鳥が、草原の街道を進む。


 しばらくすると、転がる巨岩の数が多くなった。


 1つ1つは3~5メートルの大きさで、遠方まで見通せる視界が一気に狭くなっていた。


 そんな風景の中を走っていると、


 ピカピカ


 突然、手元の杖君が光った。


(ん?)


 どうしたの、杖君?


 そう思った時だった。


「あ……」


 進んでいた街道の先に、道を塞ぐように大小の岩が転がっていた。


 落石……?


 気づいた僕らの走り鳥の足が緩む。


 その瞬間、


「!」


 アシーリャさんが何かに反応したように、パッと顔を跳ね上げた。


 同時に、


 ヒュッ


 何かの風切り音。


 そして、跨っていた走り鳥が『ピイッ!?』と悲鳴をあげて、横倒しになった。


(!?)


 当然、僕らは空中に投げ出される。


 咄嗟にアシーリャさんが小さな僕を抱きしめ、ゴロゴロと地面を転がった。


 な、何事!?


 僕は混乱する。


 地面に落ちたけど、幸い、アシーリャさんのおかげで怪我はなかった。


 顔を上げ、そして気づく。


 走り鳥の太い足に、1本の矢が刺さっていた。


 え……? 矢?


 ポカンとした瞬間、


「野盗だ、ニホ!」


 カーマインさんの叫びが聞こえた。


 ザシュッ


 同時に、足元の地面に矢が突き刺さった。


(!)


 見れば、視界を塞いでいた岩の上や陰から、何人かの武装した男たちが弓矢を構えていた。


 うわ、本当に?


 実際に襲われて、僕はびっくりだ。


 獣人兄妹は走り鳥を降りて、岩陰に隠れながらそれぞれの武器を抜いていた。


「こっち、です」


「わ?」


 僕も、アシーリャさんに抱えられたまま岩陰へ。


 そこで僕を下ろして、


 シャリン


 彼女もアルテナの長剣を鞘から抜く。


 岩陰から見れば、向こうも何人かが剣を抜いて、こちらに迫っていた。


 先頭の男が叫ぶ。


「男は殺せ! 女子供は生け捕りにして売り捌くぞ!」


「おお!」


「がはははっ!」


「うっしゃあ!」


 他の野盗たちも呼応する。


 ……ああ、そう。


 僕ら4人の内、3人は女子供だ。


 きっと野盗からしたら、狙い易い獲物だと思えたんだろうね。 


 でも、僕らも冒険者だ。


(そう簡単にいくと思うなよ?)


 ギュッ


 僕は、杖君を握り締める。


 相手は人間。


 でも、その悪意に満ちた表情は、まるで魔物みたいだ。


 だから、人を傷つける罪悪感も薄い。


 ……うん。


 僕も大分、異世界の考えや感覚に染まってきたみたい。


 でも、必要なこと。


 自分を守るために。


 仲間を守るために。


 大切に思える人を守るために。


(よし)


 杖君、やるよ。


 ピカン


 覚悟を決めた僕に、杖君も光った。


 アシーリャさんは、


「大丈夫……守り、ます」


 そう真剣な声で言う。


 そして、アルテナの長剣を担ぐように構えながら、ダッと岩陰を飛び出した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 岩陰から覗けば、


(数は、12人!)


 その内、3人が弓持ち、8人が剣や斧を構えていた。


 そしてもう1人は、杖。


(!) 


 その意味に、僕は気づく。


 赤毛の獣人青年も、


「奥に魔法使いがいるぞ、気をつけろ!」


 と、警告した。


 やっぱり。


 彼は、魔法剣と小剣を構えながら、


「剣と斧は、俺とアシーリャで食い止める! ニホは奥の弓たちを牽制してくれ!」


「うん、わかった!」


「フランは、魔法使い優先だ!」


「は、はい、兄さん!」


「よし、頼むぜ!」


 タッ


 そう言い残して、彼も岩陰から飛び出す。


 先行していたアシーリャさんと合流して、8人の近接武器持ちと戦い始めた。


 ガィン ギィン ギャリン


 金属音と火花が散る。


 2対8で、数は不利。


 だけど、アシーリャさんの剣技とカーマインさんの身体能力は、それでも相手を押さえていた。


「く、そ!」


「横から回り込め!」


「うおお!」


 野盗たちもがんばる。


 けど、アシーリャさんの長剣の間合いは広く、長く、こちらに回り込ませない。


 うん、強い。


 人相手だと、改めて彼女の技量の高さがわかる。


 2~3人同時に相手にしていても、まるで危なげがないんだ。


(本当に凄いよ……)


 そう感心してしまう。


 と……いけない。


 見れば、奥の弓持ちの3人が彼女を狙っていた。


(させない!)


 僕は杖君を構えて、


「杖君、弾丸の魔法!」


 パシュシュッ


 光の弾丸を連続で発射した。


 それは弓持ちたちの隠れる岩に当たり、バババッと光と砂煙を散らした。


 弓の野盗たちは、慌てて隠れる。


 よしよし。


 その間に、奥にいた魔法使いが杖を輝かせた。


 ボワッ


 空中に火の玉が浮かぶ。


 それが3つ、こちらに飛んできた。


(うわっ!?)


 僕は慌てて、岩陰に隠れる。


 ドパパァン


 直後、岩にぶつかって魔法の火の玉が弾け、火の粉が周囲に散らばった。


(……なるほど)


 初めて、他の人の魔法を見た。


 でも、あれだ。


 今の火の玉って、火狼の吐く『火の玉』と一緒だ。


 魔物の魔法。


 それは、きっと人間の使う魔法と同じなのかもしれない。


 とすると、雷爪熊の『雷の魔法』や石投げ大猿の『石の魔法』、洞窟大蝙蝠の『衝撃波の魔法』なんかも、人間の魔法使いは使えるのかも……?


 そう考えていると、


「やっ!」


 バシュッ


 魔法使いに、フランフランさんが弓矢を放った。


 ガシュッ


(お?)


 魔法使いの肩に刺さる。


 野盗の魔法使いは、苦悶の表情だ。


 痛みと衝撃で、


 カラン


 杖を地面に落とした。


(さすが!)


 いい腕だね、フランフランさん。


 あっという間に、向こうの魔法使いを無力化してしまった。


 見れば、


「あぐっ」


「ぐあ……!?」


「ひ、ひい!」


 Eランク冒険者の前衛2人の手で、野盗の前衛3人も倒されていた。


 残りは、5人。


 僕自身も、


「弾丸の魔法、発射!」


 パシュッ ボパァン


 野盗の構えた弓を弾き飛ばして、1人を無力化していた。


 …………。


 うん、優勢だ。


 襲われた時は焦ったけど、


(でも、何とかなりそうだね?)


 そう思えた。


 楽観はしないけど。


 だけど、このままいけば、不利を悟って野盗も撤退するだろう。


 時間の問題だ。


 さぁ、早く決断してくれ。


 そう願いながら、


 パシュン


 僕は更にもう1人、弓使いを無力化した。


 アシーリャさん、カーマインさんのコンビも、野盗の前衛をもう1人倒していた。


 これで、半数以下。


 もう、野盗にあとはない。


 その表情からも、それが伝わって、




「――やれやれじゃ」




 その時、重苦しい響きの声が聞こえた。


(!?)


 瞬間、その場にいた全員の動きが止まった。


 僕らだけじゃない。


 野盗たちも、負傷して呻いていた者たちまで息を飲むように沈黙して、動きを止めたんだ。


 そんな不思議な圧力。


 その声には、重い威圧感があった。


 声の聞こえた方を見る。


 5メートルほどの岩の上に、黒いローブを羽織った白髪の老人が立っていた。


(……いつの間に?)


 全然、気づかなかった。


 年齢は70代ぐらい。


 彫りが深く、右目は義眼。


 残された左目は、血のような赤色だ。


 そこに、年齢には見合わぬ強い意思を感じさせる眼光が灯っていた。


 ブルッ


 その目を見て、身体が震えた。


(誰……?)


 僕は、その老人を凝視する。


 その手には、黒い杖があった。


 まるで闇を凝縮したような木製の杖で、僕の目には酷く禍々しく見えた。


 ジジジッ


 先端に、黒い光が灯っている。


 すると、


 ピカン ピカン


 僕の手の中の白い杖が、反応するように光った。


(杖君?)


 どうしたの?


 僕は、心の中で問う。


 でも、杖君は、あの黒い杖に警戒したような光の明滅を繰り返した。


(…………)


 白と黒の杖。


 まるで対比のような色の違い。


 まさか……ね?


 でも、もしかして何か関係あるの……?


 わからない。


 そして、わからない僕の前で、


「せ、先生!」


「お、お願いしやす!」


「頼みまさぁ!」


 野盗たちが縋るように叫びだした。


 先生……?


 つまり、用心棒的な人?


 そう気づいた僕の前で、老人はトンっと岩から跳んだ。


 5メートルの高さだ。


 ――落下して、地面に激突する。


 瞬間的にそう思ったけれど、


 ブワッ


 老人の黒い杖が光ると、その足元に蝙蝠のような黒い翼が生えて、柔らかく着地した。


 無傷の姿。


 まるで階段を1歩降りただけの感じ。


(は……?)


 あれも、魔法?


 僕は、びっくりする。


 いや、僕だけでなく獣人兄妹も驚いた顔だ。


 着地すると、蝙蝠の羽は消えた。


 老人は氷の眼差しで、


「たかが女子供を含めた4人如きに、この様とは……お前たちはつくづく使えんな」


 と呟いた。


 氷点下の圧に、野盗たちは沈黙する。


 老人は嘆息した。


「まぁ、よい」


「…………」


「この4人は、ワシの実験材料としてもらうぞ。文句はないな?」


「へ、へい」


「ご、ご自由に」


「ふん」


 野盗たちは承服し、老人は鼻を鳴らした。


 ジジッ


 黒く輝く杖を構えて、


「なかなか生きの良さそうな検体たちで結構だ。さぁ、さっさと諦めて、ワシのためにその命を捧げるがいい」


 と、僕らを見据えた。


 ゾゾッ


 背筋に氷が当てられた感覚。


 これは……恐怖?


(何者なの……このおじいさん?)


 僕は考え込む。


 けど、時間はない。


 黒い杖を構えたまま、老人はこちらに歩いてくる。


 アシーリャさんはアルテナの長剣を、カーマインさんは魔法剣と小剣を、フランフランさんは弓を構えた。


 僕も、白い杖を構える。


 ピカン


 やる気に燃えるように、杖君は輝いていた。


「…………」


 そんな杖君を見て、そして、僕は近づく老人を見た。


 彼は、黄ばんだ歯を見せる。


 怪しく笑いながら、


「では、行くぞ?」


 まるで死の宣告のように告げた。

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