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異世界に転生した僕は、チートな魔法の杖で楽しい冒険者ライフを始めました!  作者: 月ノ宮マクラ


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60/81

060・結晶

 現れたのは、巨大な蝙蝠だった。


 体長1・5メートル。


 数は3体。


 大きな翼を羽ばたかせ、鋭い牙を剥きながらこちらに迫っていた。 


 カーマインさんが、前を見たまま叫ぶ。


「爆発の魔法は使うな、ニホ! 下手をしたら、洞窟が崩れるからな!」


「うん、わかった」


「あと、『洞窟大蝙蝠ケイブバット』は音の衝撃波を放つ。それも気をつけろ!」


「うん」


 彼の注意に、僕は頷く。


 その間に、フランフランさんが矢を放った。


 バシュッ


 けど、大蝙蝠はその風圧に押されるように、ヒラリと身をかわす。


 意外と機敏だ。


 アシーリャさんは斬りかかろうと前に出る。


 ヒュアッ


 途端、大蝙蝠たちは天井近くに移動して、剣の届く範囲外に行ってしまった。


「ちっ」


 双剣使いの青年も舌打ちする。


 あの高さでは、彼も手が出ない。


 現状、頼れるのはフランフランさんの弓だけかもしれない。


 でも、


「み、見辛いです……!」


 彼女は、歯痒そうに言った。


 大蝙蝠たちは、洞窟の闇を背景に飛んでいた。


 黒い身体は闇に同化して、正確に狙い辛くなっていたんだ。


 バシュッ


 打ち出した矢は、当たらない。


 奥の壁に当たって、カィンと火花が散った。


(……うん)


 手強い。


 強くはなさそうだけど、倒し難い相手だ。


 と、その時だった。


 大蝙蝠の1体が、牙のあるその口をカパッと大きく開けた。


 正面には、僕がいる。


(!)


 僕は反射的に、


「杖君、防御魔法!」


 ピカン


 杖君が輝いて、僕の周囲を『光の球体』が覆う。


 ほぼ同時に、


 ドパァン


 見えない何かが光の壁にぶつかって、周囲に突風となって散っていった。


(う、わ……っ!)


 今のが音の衝撃波?


 直撃したら、かなりきつそうだ。


 大蝙蝠たちは、更に2度、3度と衝撃波を放つ。


 ドパァン ドパァン


 僕は防御魔法で、アシーリャさんと獣人兄妹は素晴らしい反射速度で回避する。


 回避しながら、


「くそ、やり辛いな!」


 と、赤毛の青年が苛立ったように叫ぶ。


 う~ん?


 何か、いい方法は……?


 少し考え、


(あ、そうだ)


 僕は、ハッと思いついた。


 杖君を構え、


「杖君、探査魔法! あの蝙蝠たちをハイライトして!」


 と、頼んだ。


 ピィイン


 途端、杖君から同心円状に光が広がる。


 それが触れた途端、闇に同化していた大蝙蝠たちの輪郭が明るく輝いた。


(よし、成功だ!)


 大蝙蝠の姿が、はっきり見える。


 獣人兄妹は、目を見開いた。


 フランフランさんは、


「さすがです、ニホ君!」


 と、嬉しそうに言いながら、すぐに弓を引き絞った。


 バシュッ


 矢を放つ。


 ドシュン


 それは見事、大蝙蝠の1体の胴体に命中した。


 やった!


 カーマインさんも「よし!」とガッツポーズだ。


 大蝙蝠の姿がしっかり見えたので、僕も『弾丸の魔法』で牽制を行う。


 ドパパァン


 連射すると、それが翼に直撃。


 大蝙蝠は、天井付近から落下してきた。


 ザキュン


 体勢を立て直す前に、カーマインさんの2本の小剣がその肉体を斬り裂く。


 これで、あと1体。


 僕は、そちらに杖君を構えて、


(あ……)


 その先で、アシーリャさんが、


 タタンッ


 洞窟の壁を走り、垂れ下がった鍾乳石を蹴って、三角跳びの要領で高く跳躍していた。


 長い黄金の髪がなびく。


 その姿は、天井付近の高さにあった。


 目前の大蝙蝠に、彼女は長剣を振るう。


 ヒュパン


 魔物は、真っ二つになった。


 鮮血が舞う。


 彼女は、華麗に着地。


 その背後で、2つになった蝙蝠の身体がドササッと地面に落ちた。


(……おお)


 何て凄い動き。


 見ていた獣人の兄妹も「マジか……」「すご……」と唖然とした様子だ。


 当の本人は、


「…………」


 特に大したことはしてないって顔で、長剣をダラリと下げている。

 

 僕は、そちらに近づく。


 気づいたアシーリャさんは、こちらを見た。


 僕は笑って、


「今の格好良かったよ、アシーリャさん」


 ポン


 と、彼女の腕を軽く叩いた。


「…………」


 すると、彼女は嬉しそうにはにかんだ。


 それから照れ隠しなのか、僕の髪をクシャクシャと撫でてくる。


(わっ?)


 少しびっくり。


 そんな僕らに、獣人兄妹も笑っていた。


 …………。


 そして魔物を倒した僕らは、また洞窟の奥へと進んでいったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 1時間ほど経った。


 洞窟には、いくつかの分かれ道があった。


 その度に『洞窟の全体地図』を確かめて、慎重に採掘場所を目指した。


 道中、魔物に何回か遭遇した。


 大蝙蝠以外にも、角の生えたネズミ、目が退化した大蛇などがいて、ただ問題なく倒すことができた。


 そりゃ、まあね。


 僕らは、仮にも『竜殺し』だ。


 あの火炎蜥蜴に比べたら、どれも大したことはない。


 そんな訳で、歩みは順調。


 そして、ついに僕らは洞窟の奥、目指していた採掘場所に到着した。


 …………。


 …………。


 …………。


 そこは、鉱床だった。


 灰色の岩壁や天井に、半透明の赤や青の石が混じっていた。


 僕らの持つ灯りに反射して、とても綺麗だ……。


「…………」


 しばらく、見惚れた。


 僕だけでなく、獣人兄妹やあのアシーリャさんも言葉もなく、闇の中に輝く煌めきを見つめていた。


 まるで星空だよ……。


 やがて、


「……よし! じゃあ、掘るか」


「うん」


「は、はい」


「…………」


 僕らは採掘を始めることにした。


 アシーリャさんとカーマインさんが2本のつるはしを振るう。


 カツーン カツーン


 硬い音が洞窟内に響く。


 落ちた鉱石を、フランフランさんが丈夫な収集袋に拾い集めていく。


 僕は、


「杖君、ドリルの魔法を」


 ピカン


 と、杖の先端に『光のドリル』を生み出して、鉱石を掘った。


 ギュィイン


 う~ん、楽だ。


 反動もなく、つるはしよりも多く壁を削れていた。


 それを見て、


「お前、ずるいぞ……」


 と、赤毛の獣人青年に、恨めしそうに言われてしまった。


 あはは……。


 ともあれ、採掘は進んだ。


 ちなみに、赤い石は『火鉱石』、青い石は『水鉱石』と言うらしい。


 それぞれ、加工すると火と水の『魔法石』になる。


 そうした『魔法石』は、暖房やコンロ、水道など、人々の生活エネルギーとして活用されるとか。


(うん、魔法文明の世界だね)


 さすが、異世界だ。


 そんな不思議な鉱石を集めていく。


 …………。


 やがて、2時間ほど作業して、


「こんなもんか?」


 と、カーマインさんはつるはしを止め、額の汗を拭った


(うん)


 それぞれ、30キロ。


 それぐらいは集まったかもしれない。


 4つの収集袋も、赤と青の鉱石でパンパンになっていた。


 1つ15キロ。


 重そうだ……。


 ともあれ、クエストはこれで完了だ。


 あとは、


「高く売れる鉱石、あったかな?」


 僕は聞く。


 カーマインさんは、首をかしげた。


 顎に手を当て、


「う~ん、正直、良さそうなのはなかった気がするな」


「そうなの?」


「あぁ」


「……そっかぁ」


「でかい結晶体とか、見つかれば美味かったんだがな」


「結晶体かぁ」


 それは、もっと綺麗で大きいのかな?


 カーマインさんは、


「ま、そう上手くはいかないか」


 と、嘆息だ。


 フランフランさんは「当たり前よ、兄さん」と苦笑している。


 アシーリャさんは、ぼんやり顔。


 その時、


(あれ?)


 僕は、ふと気づいた。


 手元の白い杖を見る。


 そして、聞く。


「杖君ならもしかして、凄い鉱石とか見つけられる?」


 ピカピカ


 杖君は、光った。


 それは多分『できるよ』といった感じ。


(え、できるの?)


 僕は驚きながら、杖君を構えた。


 赤毛の獣人兄妹は『ん?』と、揃ってこちらを見た。


 僕は言う。


「お願い、杖君」


 ピカン


 杖君は輝き、


 ピィイン


 同心円状に光の波紋が周囲に広がっていった。


 獣人の兄が、


「おい、ニホ?」


「…………」


「お前、何やって……あ?」


「あ……」


 僕らの視線の先、洞窟の壁の一角がパアアア……と光っていた。


 彼は、僕を見る。


 僕は頷いた。


 妹の方は「え? え?」と困惑した様子だ。


 金髪の美女だけが変わらない。


 彼はつるはしで、僕は『光のドリル』でその壁を削っていった。


 カツン カツン ギュィイン


 壁が崩れていく。


 光は、その岩壁の奥から続いていた。


 やがて、5分ほどして、


 ボロッ


 大きな岩盤が剥がれ落ちた。


「!」


(!)


 僕らの手が止まった。


 剥がれた岩盤の奥、岩に露出する白銀の鉱石が見えていた。


 一目でわかる。


 これは、お宝だ。


 しかも、大きさが70センチもあった。


 他の鉱石とは比べ物にならないサイズの大きな『結晶体』だ。


 3人でポカンとなった。


 僕らの持つ灯りに反射して、結晶体はキラキラと輝いている。


 彼は言った。


「こりゃ、ミスリル銀の結晶体じゃないか……?」


「……高い?」


「……やばい」


「…………」


 それ以上、言葉はなくした。


 後ろの方では、フランフランさんが両手を口に当てて「はわぁ……」なんて呟いていた。


 あのアシーリャさんも、その美しい輝きを見つめている。


 ゴクン


 僕は、唾を飲む。


 その手の中で、


 ピカァン


 杖君は、とても誇らしげに輝いた。


 …………。


 こうして僕らは『青闇の洞窟』で、本当に一山掘り当ててしまったのだった。

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