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006・薬草

 冒険者になったからには、初クエストだ。


(よし、やるぞ)


 僕は、意気揚々とクエスト依頼書の貼られた掲示板の前に立った。


 ふむ……?


 掲示板は、5つに区分けされていた。


 その上に、F~Bの文字が書かれている。


 なるほど。


 つまり、クエストは冒険者ランクごとに区分けされているんだ。


 そして冒険者は、自分のランクの掲示板からクエストを選ぶ。


 上位ランクのAとSがないのは、多分、それだけ上位だとクエスト受注方法そのものが違うのかもしれない。


 例えば、指名依頼、とかね。


(ま、いいや)


 今は自分のことだ。


 僕は、Fランクの掲示板を確認する。


 薬草集め、ホーンラビットの退治、火狼の駆除、荷物の配達、などなど、色々ある。 


 う~ん?


 戦うのは怖いかな。


 となると……定番だし『薬草集め』にしてみよう。 


 そう決めると、


 ピカッ


 杖君も賛同するように光った。


(うん)


 僕も笑った。


 他の冒険者を見ていると、依頼書を剥がして、そのまま受付に持っていけばいいみたいだ。


 よし、僕も。


 ペリッ


 薬草集めの依頼書を剥がして、受付に向かった。


 マーレンさんは、


「あら? 初クエストに挑戦かしら」


「うん」


「ふふっ、わかったわ。それじゃあ、依頼書と冒険者カードを出して」


「ん……はい」


 言われた通り、2つを渡す。


 エイミーさんは手慣れた様子で、冒険者カードを水晶球の台座に固定した。


 カシャカシャ


 白い指で、水晶球の鍵盤を弾く。


(ふ~ん……?)


 カード内の情報を読み込んだり、書き換えたりしてるのかな?  


 やがて、カードが返されて、


「じゃあ、薬草の『陽だまりの草』の採取30本ね。期日は、明後日まで。報酬は100ポント。――これでいいかしら?」


「うん、大丈夫」


「陽だまりの草なら、湖の東の森に生えてると思うわ」


「そうなの?」


「えぇ。魔物は少ないけど、でも、気をつけてね?」


「うん、気をつけます」


 僕は頷いた。


 彼女は微笑み、


「がんばってね、ニホ君」


 と激励してくれた。


 僕も笑って「うん」と答える。


 ピカッ


 一緒に、杖君も光った。


 …………。


 そうして僕は、人生初のクエストに挑むため、冒険者ギルドをあとにしたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 昨日も通った正面門へ。


 その大きな門を潜って、レイクランドの町を出発した。


 街道を歩いて、


(えっと……)


 僕は『冒険者ガイドブック』を開く。


 巻末の地図を確認すれば……うん、このまま、この街道を北上していけば、湖の東側に行けそうだ。


 ペラペラ


 そのまま、ガイドブックを読む。


 …………。


 それによると、僕がいるのは、アークランド王国という国の東の端っこみたいだ。


 この湖は、アルテナ湖。


 レイクランドは、そのアルテナ湖の湖畔の町だ。


 そして僕は『アークランド王国のレイクランド冒険者ギルド支部所属の冒険者のニホ』となるらしい。 


 な、長いね……。


 まぁ、名乗る時は『冒険者のニホ』でよさそうだけど。


 それと『冒険者ギルド』は、アークランド王国だけの組織ではなくて、各国にも広がる国際的な組織みたいだね。


 権力とか、それなりにあるのかも……?


(ま、いっか)


 深くは考えない。


 今は冒険者となった自分を楽しもう、うん。


 ピカピカ


 杖君も同意するように光った。


 …………。


 …………。


 …………。


 やがて、1時間ほどが経った。


 街道の左側は、湖だ。


 木立の向こうで、水面が陽光を反射してキラキラと輝いていた。


 反対の右側は、深い森。


 マーレンさんが言っていたのは、多分、この森のことかな。


(よし)


 僕は頷いて、


「杖君、行こう」


 ピカン


 輝く杖君を手に、森の中へと入っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇  



(さて……どこに生えているのかな?)


 僕は、周囲を見回した。


 キョロキョロ


 当たり前だけど、森にはたくさんの種類の植物が生えていた。


 陽だまりの草。


 クエスト依頼書には、そのイラストも描かれていたんだけど……う~ん、パッと見ただけじゃ、素人には区別がつかなかった。


 どれも同じようにも、違うようにも見える。


 こ、困ったな。


 その時、


 ピカン


 杖君が光った。


「杖君……?」


 聞くと同時に、


 ピィィィン


 杖君と僕を中心にして、同心円状に光の波紋が周囲へと広がっていった。


 澄んだ音色が響く。


 それが消えると、


「――あ」 


 森のあちこちで、一部の草が光っていた。


 驚き、近づく。


 確認すれば、それは紛れもなく、依頼書に描かれていたイラストの特徴と同じ『陽だまりの草』ばかりだった。


 手の中の白い杖を見る。


 ピカピカ


(杖君……)


 僕は青い瞳を細めて、


「ありがとう、杖君」


 ギュッ


 その白い杖を優しく握った。


 それから僕は、光ることでハイライトされた『陽だまりの草』を簡単に集めることができた。


 ナイフで切って、肩かけ鞄に入れていく。


 やがて、15分後、


 サクッ


「うん、これで30本だ」


 僕は笑って、無事にクエストの採取目標数を達成したんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇

 


「あら、ニホ君?」


 冒険者ギルドに戻ると、受付のマーレンさんは驚いた顔をした。


 それから心配そうに、


「どうしたの、何か忘れ物?」


 と聞かれた。


(え?)


 僕は、キョトンとしてしまう。


「ううん、違うよ。クエストの薬草を集めてきたから、それを渡したくて」


「え……?」


 目を丸くするマーレンさん。


 僕は「よいしょ」と、集めた30本の薬草を受付カウンターの上にドサッと置いた。


 彼女はポカンを口を開ける。


「え……もう?」


「…………」


「だって、まだ3時間も経ってないのに……普通は2~3日かかるのよ? でも、品物はここにあるし……」


 凄く困惑した様子だ。


 よく見たら、他の受付嬢さんも驚いた様子だった。


(えっと……)


 僕は白い杖を見せて、


「ほら、僕は魔法使いだから。魔法ですぐ集めたんだ」


 ピカッ


 杖君も光ってくれる。


 その光に照らされて呆ける彼女に、僕はニコッと笑った。


 マーレンさんは、


「そ、そう」


「…………」


「そうね。ニホ君、森育ちって言うし、こういうこともあるわよね」


「…………」


「わかったわ。今、鑑定するからちょっと待ってて」


「うん」


 僕は頷いた。


 そして、マーレンさんは眼鏡をかけた。


 ふむ……?


 中央に宝石みたいな石が填まっていて、それがチカチカと光っていた。


 多分、『鑑定用の眼鏡』かな?


 彼女はそれで、僕が集めた『陽だまりの草』を1本、1本、確認する。


 やがて、30本全てが終了。


 彼女は「ふぅ」と息を吐いて、眼鏡を外した。


 僕に微笑んで、


「確かに、全て『陽だまりの草』だったわ」


「うん」


「凄いわね。初心者だと普通は1~2本、違う草が混じることもあるのに……しかも、ここにあるのは全て品質も良かったわ」


「そうなんだ?」


 杖君、さすがだね。


 マーレンさんは頷いた。


「間違いなく、クエストは達成よ」


「うん」


「お疲れ様、ニホ君。それじゃあ、手続きをするから、また冒険者カードを貸してくれる?」


「あ、うん、どうぞ」


 僕は、金属のカードを差し出した。


 彼女はそれを台座に固定して、水晶球の鍵盤を弾く。


 …………。


 やがて、カードが返されて、


 ドスン


 同時に、ギルドの紋章が入った革袋もカウンターに置かれた。


(わっ?)


 結構、重そうだ。


 中を見ると、硬貨が11枚入っていた。


 1枚が10ポント。


 つまり1000円硬貨が11枚で、約1万1千円の収入だ。


 僕は彼女を見る。


 ハールエルフの受付嬢さんは頷いて、


「はい、約束の報酬よ」


 と笑った。


 それから、 


「今回は高品質の薬草ばかりだったから、1割の追加報酬も加えておいたわ」


「え、いいの?」


「もちろん」


「わぁ……」


「ふふっ、いい仕事には見合った対価を。これからもがんばってね、ニホ君」


「うん! ありがとう、マーレンさん!」


 僕は笑って、革袋を受け取った。


 ジャラッ


 うん、重い。


 色んな意味で重かった。


 僕にとっては、これが異世界で初めて自分で手に入れたお金だった。


 しかも、3時間で1万円強だ。


 …………。


 なかなか高収入じゃないかな?


 ドキドキ


 その時、手の中の白い杖に気づいた。


(あ……)


 うん、そうだった。


 これは僕だけじゃなくて、杖君もいたから得られたお金なんだよね。


 僕は杖君に笑って、


「今日はありがとう、杖君。これからもよろしくね」


 ピカピカ


 杖君は嬉しそうに点滅する。


 うん、僕も嬉しい。


 …………。


 そして、初めてのクエストを達成した僕は、杖君と笑顔で冒険者ギルドをあとにしたんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 連続投稿ありがとうございますヽ(´▽`)/ 生活基盤の構築から初クエストですか。 出だしは好調っぽいのですが、それだけに変な輩に目をつけられないか心配にもなりますね。 ……しかしゲーム何かで…
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